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リアクション
ファーストアクション
夏の陽射しに誘われて、何をするでもなく歩いてきた。
いよいよ明日が、運命の日だというのに。
「ふむ……これから準備とか、正直面倒くさいです」
「しかし、明日はおまえの今後を決める重要な1日であろう。
成功させようではないか」
門外から学舎を見上げて、ヴラド・クローフィ(ぶらど・くろーふぃ)は呟いた。
屋敷には戻りたくないものだと、心の底から想う。
シェディ・グラナート(しぇでぃ・ぐらなーと)は、そんなヴラドを許しはしないけれど。
「ぁ、ヴラド!
心配なので様子を観にいきたいのですが、構いませんか?」
「ありがとうございます、ぜひお願いしたいものです」
棒立つ2人へ駆け寄ってきたのは、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)。
放課後を迎えた誰よりも速く、教室を出てきたのだ。
エメの申し出を、シェディは満面の笑みで受け入れる。
「でもヴラド、それならそれで『ご協力お願いします』とちゃんとポスターに書いた方がよかった気がするのですけどね。
貴方の力になりたい、貴方を友人だと思ってる人はたくさんいるのですよ?
私達を信用していないのかと、悲しんでしまいますよ」
「あ、あぁ……すみません」
エメの言葉に、ヴラドは感謝の気持ちを抱いていた。
「校長には下手な小細工は通じないだろう。
得意なパーティーをするのは、社交性や人望(?)をアピールするのには良いかも知れないな」
(付け焼刃では見抜かれるだろうし、ヴラドの持っている良さを引き出せたらいいな)
ヴラドの屋敷へと戻る間、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)を始め皆は頭を悩ませていた。
パーティースタッフ募集のチラシを観たのは、1週間ほど前のこと。
それからというもの、呼雪やエメだけでなく今回の協力者は皆、方法を模索していたのだ。
「……庭、手入れが行き届いていませんね」
かくして、パーティー会場へと到着したわけだが。
呼雪の第一声に、ヴラドもシェディも凍り付く。
「最初に来た時もお掃除したんだっけ。
ついこの間みたいなのに、なんだか懐かしいなぁ」
果たして、内部はどうなのか。
ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が、嬉々として扉を開いた。
「なんだか廊下が、薄暗い気がするのですが」
「ヴラドのお屋敷って、前もよくパーティーしてたの?
その割にあまり片付いてないような……」
「これはまた徹夜コースですかね……」
呼雪もヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)も、驚きのような呆れのような感情を隠せないでいる。
進めば進むほど汚れが眼に付くようになり、エメの心もちょっとだけ暗くなったり。
「大勢招いてパーティーするっていうから来てみたんだけど、ちょっと見ねえ間に屋敷の中が汚くなってねえか?」
「……ヴラド?
これでお客様をお呼びする気ですか?」
「ほら、そこの白いのが怒る前にさっさと掃除すんぞ!
って前も言わなかったか、こんなこと……」
追いついてきた瀬島 壮太(せじま・そうた)も、その有様に苦笑い。
このままでは、呼雪が怒りだしかねない。
いそいそと、それぞれの想う掃除場所へと散っていった。
そのあいだに。。。
「似合いそうなリボン、いくつか持ってきたんだよね〜どれが1番似合うかなぁ」
「爪も丁寧に磨きましょう。
あとはサンダーソニアをプレゼントです。
花言葉は『祝福』ということで、新しい生活に祝福がありますように」
ミミ・マリー(みみ・まりー)と片倉 蒼(かたくら・そう)が、ヴラドを捕まえる。
美しさを見せつけるなら、屋敷だけではなく本人も美しく仕立てなければならないと。
「ぁ、ミミ様、つけて下さっているのですね。
……やっぱり照れますね」
「うん、大切な僕達の絆だもん。
僕もすごく嬉しいよ、ニコニコ止まらない!」
「バレンタインにミミ様がくださったティーカップセットも持って参りました。
一息いれる時には、それでお茶を淹れますね」
「えへへ、ありがとう。
きっといつもより、ずっとずっと美味しく感じるよ」
部屋を移動しているあいだも、いちゃらぶな2人。
それはもう一緒に歩いているヴラドが、恥ずかしく感じるくらいに。
「お、来たかヴラド。
服は決まったか?」
現れた長身に、呼雪はにかっと笑った。
ちょうど、風呂も脱衣所も掃除をし終わったところである。
本当は手伝わせようかとも想ったのだが、逆にヴラドがびしょ濡れになりそうなので辞めた。
少しだけ、不器用なやつだから。
「後は……身綺麗にして、胸を張らないと。
爪も髪も隅々まで綺麗にするぜ!
素材は良いんだから、大丈夫だ」
(ヴラドは相変わらずな部分もあるけれど、そこが良いところなんだよな)
自分も服を脱ぐと、呼雪はヴラドを風呂へと入れてやる。
ほどなくして……あ、こけた。
「あぁもう、ヴラドったら。
ん……こんなに大きくなってるじゃないか……今、俺がしてやるからな」
「えっ、何?
どーゆーコト!?」
いつの間にか、脱衣所に来ていたヘルとシェディ。
呼雪の台詞を聴いて、慌てて扉を開けたのだが。
「……どうしたんだ?」
「……あぁ、そうだよね。
そりゃあ、うん」
頭にできた大きなたんこぶを、手当てしていただけだった。
ヘルは、気まずそうに頬を掻く。
「って、僕達も入っちゃおうよ、お風呂」
「しかし、懐かしいな……あぁヴラド。
マーガレットの花言葉は『優しい思い出』だからな、覚えておけよ?」
かくして、4人でのお風呂となった。
そのとき見えた脱衣所の花瓶を指して、呼雪は言う。
にっこりと微笑んだ、ヴラドもシェディも。
(なんだったんだろ?)
「そういえば、出会った頃のヴラドさんって、モサモサだったよね。
今じゃモデル歩きも板について……」
ちょうど通りかかったファルは、ヘルの一部始終を見ていた。
記憶を掘り起こして、しみじみとなる。
そのまま、お風呂を出た4人と、屋敷内を歩き始めた。
「おっ、こっちは綺麗になったぜ、ヴラド!」
見つけて、壮太の挙げる手には雑巾が握られている。
「オレは今春、蒼学を卒業して大学部に行くんだぜ!
1年遅れで高校入って……まあ面倒臭えこともあったけどさ、面白え事もあったし、今は入って良かったと思ってるよ。
だからおまえも、薔薇学に入れるといいな」
壮太なりの激励を送り、眼をやった先。
「アヤメの花だ!
花言葉は『良い便り』と『信じるものの幸福』だとさ」
大広間の隅に、可愛い一輪挿しを置いていた。
その大窓からは、庭の全体が見渡せる。
「あ、ヴラド!
スイートピーの花言葉は『門出』というのですよ」
雑草を芝刈り機で刈り取り、庭木を軽く剪定。
庭を綺麗に整えれば、エメは最後の仕上げにスイートピーを植える。
「パーティーと言っても、どうもあまりよくわからずに行おうとしている気がするんですよね」
「ホントだぜ、やっぱ俺達が助けてやらねぇとな!」
本郷 翔(ほんごう・かける)が屋敷を訪れたのは、掃除が終了した頃だった。
きちんと靴を整えて、ソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)もお邪魔します。
「単純なパーティでは、大した感銘を与えることもできずに、一芸入試とならないと思うのですよね。
本人の美しさを強調する為に、しっかりとした気遣いを見せることこそが大切かと」
調理場へと入れば、ソールはすぐに支度を開始した。
道具を揃えたり食器を洗ったり、翔もソールや、先に来ていた仲間達を手伝う。
「弱気になって無様にふるまっては、美しさが台無しです。
逆に、頼まないのもそれはそれで、何もできないという烙印を押されるでしょう。
美しく気高く要請を行い、敢えて陣頭に立ち、見守ることをお勧めします。
恐怖はあるかもしれませんが、それを克服することも美しさの秘訣ですよ」
「愛しい翔の為なら、俺も頑張るぜ」
こうして多くの強力を得ながら、準備は着々と進められていた。
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