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うそ!

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うそ!

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    ★    ★    ★
 
「鷽警報が出ているのに、いったいどこに鷽はいるんだろ」
 レビテートでふわふわと世界樹の周りを偵察しながら、リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)がつぶやいた。
 まだ鷽を見たことはないのだが、どんな鳥なのかは興味がある。綺麗な鳥だったら、羽の一枚でも採取してみたいというのがリアトリス・ブルーウォーターの思惑だった。
「まったくリアトリスも物好きなものだ」
 リアトリス・ブルーウォーターの下の方で、世界樹の枝の上を走りながらスプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)が言った。
「だって、可愛いじゃないか。君だって、子供が大好きだろ?」
 同じようなものだと、リアトリス・ブルーウォーターがスプリングロンド・ヨシュアに言い返した。
「まあな。実際に子供がいれば、父親であり母親であるぐらいに両方を兼ねて……」
 そんな戯れ言を口にしたスプリングロンド・ヨシュアの背中に何かが落ちてきた。
 重い。
「お父さんママ♪」
「はあっ!?」
 突然変な呼ばれ方をされて、スプリングロンド・ヨシュアが唖然とした。獣人らしいが、他の種族とのハーフのようにも見える。にしても、でっぷりと太った力士のような二人の子供だ。この重みはつらい。
「いた! それっぽい鳥」
 なんだか赤っぽい鳥が飛んでいる。雀みたいだが、胸の所が赤いのでそうかもしれない。急いで、リアトリス・ブルーウォーターが追いかける。
 あわててリアトリス・ブルーウォーターに続こうとしたスプリングロンド・ヨシュアだったが、すでに嘘時空に取り込まれていてそれどころではなくなり始めている。
「いくら兼ねてるからと言って、オレはだな……」
 とっさに振り払おうと思ったものの、さすがに小さな子供に手を挙げることはできない。
「じゃあ、こっちがパパで、こっちがママなんだ」
「ちょっ、ま、待て」
 子供に指さされて、リアトリス・ブルーウォーターの右半身が女性に変化する。
「兼ねるってのは、そういう意味ではな……」
 二人の子供とたっゆんになった片胸のおかげでバランスを崩したスプリングロンド・ヨシュアが、世界樹の枝から落ちていく。だが、そのおかげで鷽の影響範囲内から離脱し、元の身体に戻った。
「うっ、ぐっ、なんか胸がえぐれた気がする」
 思わず右胸を押さえながらも、スプリングロンド・ヨシュアがパワードレッグの出力を最大にして、下の枝に無事着地した。
「よかった。鷽って、言ったことを嘘にしちゃうんだよね。だったら……」
 スプリングロンド・ヨシュアの無事を確認すると、リアトリス・ブルーウォーターが鷽に近づいた。
「鷽って、催眠術は効かないんだよね」
 そう言ってから、ヒプノシスで鷽を眠らそうとする。だが、鷽の方は眠るどころか少し興奮してリアトリス・ブルーウォーターを嘴で突いてきた。
「いたたたた……」
 墜落したリアトリス・ブルーウォーターが、スプリングロンド・ヨシュアの上に落ちてくる。
「うおっと。何をしているのだよ」
 かろうじてリアトリス・ブルーウォーターを受けとめたスプリングロンド・ヨシュアが言う。
「いや、催眠術は効かないって言って、それを嘘にしてもらおうと……」
「逆であろうが。鷽は、言った真実を嘘にするのではなくて、嘘を真実にしてしまうのだぞ」
「と言うことは……、催眠術は効かないという嘘が本当になって……しまったあ!」
 リアトリス・ブルーウォーターがやっと気がついたときには、嘘は逃げ去った後であった。
 
    ★    ★    ★
 
「何、鳥の怪物であるだと。そいつだ、そいつに違いないのだあ!」
 鷽注意報を聞いたとたん、アガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)の胸が飛び出していった。なにしろ、アガレス・アンドレアルフスの見た目は、ほとんど白い鳩だ。本人いわく、悪魔に姿を変えられた英霊だというのであるが……。ちなみに、鷽の正体は悪魔ではない……多分。
 見た目は鳩であるが、当然、アガレス・アンドレアルフスは飛ぶことはできない。そのため、亀の形に改造した超小型飛空艇の上にちょこんと乗っている。
「あれが、そうか、待てー!」
 クルクルとジェットを噴き出し回転して空を飛ぶ亀の上で必死に目を回さないようにしながら、世界樹の中を飛び回る鷽をアガレス・アンドレアルフスが追っていった。
「大変。早く、お師匠様を止めないと!」
「あのじじい、またわけのわからないこと言いだしやがって……」
 リース・エンデルフィアに言われて、ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)キョロキョロと周囲を見回してアガレス・アンドレアルフスの姿を探した。
「こ、こっちです!」
 空飛ぶ箒スパロウに乗ったリース・エンデルフィアが、ナディム・ガーランドをうながした。
「よし、見つけた。その本、ちょっと貸してくれ」
 リース・エンデルフィアがいつもかかえている本を奪い取ると、ナディム・ガーランドがあるページを開いて、アガレス・アンドレアルフスにむかって突きつけた。
「これを見ろ、じいさん。あんたに呪いをかけたのは多分こいつだ、こいつ!」
 本のページをバンバン叩いて、ナディム・ガーランドが叫んだ。
「なんと!」
 本のページを見たアガレス・アンドレアルフスが驚いて叫んだ。
パビモン リラード(ぱびもん・りらーど)……。これが我が輩の正体……って、これも鳥ではないかあ!」
「いけね、間違えた、こっちだこっち」
 ナディム・ガーランドが、あわててページをめくる。
「なんと、魔神 ナベリウス(まじん・なべりうす)とな。我が輩の正体はロリロリ……」
「ちがーう、こいつだこいつ!」
 今度こそと、ナディム・ガーランドが、ソロモン72柱が一人、魔人アガレスのページをめくって、正しく次の魔人アンドレアルフスのページを開く。
「こいつだこいつ!!」
「こいつも鳥じゃろうが!!」
 ページに描かれたクジャクの悪魔の姿を見て、アガレス・アンドレアルフスが叫んだ。
「鳥で悪いか!」
 アガレス・アンドレアルフスの言葉を否定するかのように、ボンと煙が立って一同の真ん中に巨大なクジャクの魔神が現れた。魔人アンドレアルフスだ。
 それにしても、リース・エンデルフィアは、なんでこんな本をいつもかかえているのだろうか。
「鳩は嫌か? そこの女を生贄にくれるのであれば、ハチドリにチェンジしてもいいぞ」
 ちょっと偉そうに、アンドレアルフスが言った。
「もっとちっこくしてどうするのだ。それ以前に、それも鳥ではないか!」
 アガレス・アンドレアルフスの悲痛な叫び声に、背後に忍びよっていた鷽がケタケタと笑った。
「ええい、貴様さえ成敗すれば、きっと我が輩は元に戻れるのじゃ。我が光の剣を受けてみよ!」
「ああ、お師匠様、せ、殺生はダメですー!」
 あわててリアトリス・ブルーウォーターが止めようとしたが遅かった。アガレス・アンドレアルフスが、翼で挟むようにして持っていた剣を思いっきり振り上げた。
「うそだっぺ!?」
 その切っ先が、背後にいた鷽にプスッと突き刺さる。そのまま、鷽が消滅し、魔人も姿を消した。
「これで我が輩も、元の姿に……戻らぬではないか!」
 鷽を倒しても自分の姿が変わらないのを見て、アガレス・アンドレアルフスががっくりとうなだれた。