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恐怖! 悪のグルメ組織あらわる

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恐怖! 悪のグルメ組織あらわる

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 本部第二調理室。
 第一調理室とは違う階にある、これまた広い洋風のデザインで作られたキッチンで霧丘 陽(きりおか・よう)が料理講習を行っていた。
 陽の背後には会議室から持ってきたホワイトボードが用意されてあり、そこには材料や作り方といった大まかな説明や注意などが書かれている。

(……どうしてこんな状況になっちゃったんだろう?)

 目の前には、ずらりと並んだシステムキッチンにペアを組んで立ち、熱心に説明を聴いている何十人もの戦闘員の姿があった。
 この様な状況に慣れてないのだろう。まだコンロに火を入れていないにもかかわらず、少年の額には大量の汗が流れていた。

(それでも、美味しい料理を作ってもらって、皆が幸せになるためには頑張らないと!)

 袖で汗をぬぐい、そう自分に言い聞かせる。
 ホワイトボードの材料と書かれた部分を箸で指し、説明を続けた。

「大事なのはしっかり鰹節から取った出汁だよ。それにみりん、醤油、塩、砂糖も使って味をつけるんだ」

 陽の言葉の一つ一つに戦闘員が頷き、メモを取っている。
 悪のグルメ組織と呼ばれているけれど、料理への情熱は本物だった。
 真剣に説明を聞く戦闘員たちの姿に陽は好感を持ち始め、説明にも熱が入っていく。

「……持ち歩くなら、冷えてもいいようにあまり卵を混ぜないように固めにしてね。少し弱火でじっくり焼けば、焦げ目がつかないきれいな色になるよ」

 一通りの説明が終わり、戦闘員たちには実習として出汁巻き玉子焼きを焼いてもらうことになった。
 それぞれのキッチンに立った戦闘員たちがボウルに卵や出汁、その他の材料を入れて混ぜていく。

(みんな結構手馴れているじゃない。これなら美味しい出汁巻き玉子焼きが作れるね)

 そう安堵した瞬間、陽の目の前にあるシステムキッチンで、戦闘員たちの持つボウルが爆発した。

「えええっ!?」

 素人が不味い料理を作ってしまう理由の大半は、変な材料を勝手に混ぜてしまうことだ。
 それを防ぐためにも、陽は材料を事前にチェックしていたのである。
 ならば作り方に問題が、と調理過程も目を離さずに確認をしていたのだが……。
 次々と起こる爆発に、陽の膝が崩れ落ちる。

「どうしてこうなるの……」

 ◇

 は〜い、みんな〜♪ ごにゃ〜ぽ☆ なリアクションがはっじまっるよー☆
 画面の前のみんなは常識に捕らわれず、細かいことは気にしない精神で見てね☆
 健康のために画面から十分な距離をとりましょう、ゲームは1日48時間まで、おねぇさんとの約束だぞ☆
 ではでは〜、ボクたちの活躍にれっつらご〜♪

 ……あれ、あれれ、地の文ジャックが終わってないよ?

「ボクがシリアスをブレイクしておいたからだね。やったー☆」
「みんな好き勝手にやってるよね! アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)も楽しいことやっちゃうもん!」

 あ〜、地の文ジャックの弱点だね☆
 はいは〜い、ボクは鳴神 裁(なるかみ・さい)物部 九十九(もののべ・つくも)だよ! ごにゃ〜ぽ☆ どっちなのかは瞳の色で判断してね☆

「ぎゃ〜、お尻が二つに割れた〜」

 隣でシリアスブレイカーとでっかく書かれたバットを振り回しながら

「ボクの尻(バット)がオマエの尻(シリアス)を尻(ブレイク)するぜ!」

 なんて言ってるのがジュピター・ジャッジメント(じゅぴたー・じゃっじめんと)だよ。
 あ、バットでホムーラン☆ の戦闘員がキラリとお星さまになっちゃった。
 え? 空気が読めないって?

「空気は読むもんじゃない、読んだ上であえて無視するものなのさ☆」
「あら、空気は読むものじゃないの、空気は自分色に染め上げるものよ☆」
「いやいや、空気は読むものじゃぁない、空気が読むものなんだよ!」

 ……裁とアリスとジュピターが一斉に異を唱えた。
 あれ? と地の文が復活したことに気付き、三人が顔を合わせる。

「あちゃ〜、地の文ジャックの終了だね。しかたない、普通にやってこー☆」

 裁は蒼汁(アジュール)を手に取りながら、向かってくる戦闘員たちをロックオンする。
 それに合わせて、足元に設置されていた自立行動型『い〜とみ〜♪』の単眼がキラリと光った。

「いっけ〜、い〜とみ〜♪」
『い〜とみ〜♪』

 丸いチョコのボディから生えた四対の脚を限界まで引き絞り、バネのように力を蓄えていた『い〜とみ〜♪』が、目にもとまらぬ速さで戦闘員目がけて飛び込んでいく。
 ポコン☆ と怪しい擬音をたてながら戦闘員の口に収まると、得体のしれない脚付きチョコが爆発する。

「うぼろべっ」
「おいおい、なんて恐ろしい世界なのさ。『い〜とみ〜♪』を食べた戦闘員が爆発して素っ裸になってしまったぜ!」

 ジュピターが感心していると、裁が倒れた戦闘員に蒼汁でとどめを刺しながら、パンツは残ってるからオッケーオッケー☆ とフォローする。
 三人+αは次から次へとやってくる戦闘員を、飲ませたり恐怖させたり割ったり剥いたりと、文字通りの暴れ放題であった。
 やがて襲ってくる戦闘員がまばらになると、アリスが疑問を口にする。

「そういえば、襲ってくるの下っ端ばかりよね。もっと強そうな怪人とか出てこないのかしら? ねえ、おじちゃん。他のみんなはどうしたの?」

 アリスはエビ反り状にのびている戦闘員を起こし、裁から借りた蒼汁を片手にアボミネーションで尋問する。

「総統閣下や幹部たちは……もうすでに出発している……残念だったな……がくっ」

 気を失う戦闘員を尻目に、裁は不敵な笑みを浮かべた。
 右手を高らかに掲げ、パチン☆ と指を鳴らす。
 現れたのは床いっぱいに蠢く『い〜とみ〜♪』の大群だった。

「本隊がもう居ないのは残念だね〜。でも、それならアジトを壊滅させちゃってもいいよね☆」

 イコナとティー、そして陽が逃げ出して数時間後、アジトは壊滅した。

 ※残っていた料理はティーとスタッフが美味しくいただきました。