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リアクション
一つ横の路地でのお話。
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が道を歩いていると、突然声をかけられた。
振り返れば、若い女性のリポーターにテレビカメラ、そして『街頭の歩行者を捕まえてお題となる料理を作れるかチャレンジコーナー』と書かれたプレートが目に映る。
「お味噌汁?」
出されたお題に楽勝、と仮設キッチンに立った祥子は、まず材料を確認した。
長く続いている番組だからだろうか、その日のお題に合わせた材料が意外とそろっている。
「これとこれと……あとこれね」
材料を運んだ祥子は、番組のプリントが入ったエプロンをつけて腕まくりをした。
まず作るのは一番だし。
軟水と昆布、削りかつおで丁寧に作っていく。
折角だからと、出来上がった一番だしをお椀に注ぎ、薄口醤油を少々と塩一つまみで味付けしてすまし汁を作る。
お題のお味噌汁には二番だしを使うので、再び鍋に火をかけようとしたところ、爆発音が響いてきた。
いつもの戦闘とはちょっと違うどこかコミカルな爆音は、やがてひっきりなしに鳴り続ける。
「……何かしら? すみません、何か事故でもあったんですか?」
祥子が尋ねると、若いスタッフが眉を顰めながら話してくれた。
どうやらすぐ近くで噂のグルメ集団が何者かと戦っているらしく、この爆発音もそのせいだという。
「ごめんなさいね。この番組は生放送だから、間違って爆発とか映しちゃうと抗議の電話が酷いんですよ。なので中断して僕らは撤退します。作ったものは差し上げますので、この記念品の水筒を使ってください。それでは!」
そう言って水筒を渡したスタッフは、慌てながら残ってる機材を車に詰め込んでいく。
祥子はすまし汁を水筒に移すと、音がする方へ歩き出した。
「このすまし汁で、美味しいとはどういうものか、たっぷりと味あわせてあげるわ」
◇
残されたソウレッドは試されていた。
咲耶から受け取ってしまった謎料理を食べるか否か。
目の前には何故か同じように謎料理を受け取ってしまったトロスキーが立っている。
そう、いつの間にか状況は、食べきった方の勝ちという生死をかけた戦いへとなっていたのだ。
長い膠着状態を見かねたドクター・ハデスは打開策を講じることにした。
「さて、この事態に決着をつけるべく、我が秘密結社の新戦力として、先日契約したばかりの悪魔を喚び出すとしよう。……我が呼びかけに応え、召喚に応じよ、デメテールよ!」
ドクター・ハデスの左手の甲にある印が光る。
そして、ぽふん、という煙と共に出てきたのは悪魔のデメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)だった。
ピンクのパジャマ姿で現れた彼女は、あとごふーん、と寝ぼけている。
「安心しろデメテール、お前の今回の任務は食べることだ。それが終わるころにはしっかり目が覚めるだろう。さあ、これを食べるがいい」
寝ぼけながら任務用のミニスカ忍者服に着替えていたデメテールは、渡された謎料理を何の躊躇もなく口へ放り込んだ。
「もぐも……がっ……ぱたっ」
起きる以前に目を覚まさなくなったデメテールの姿に、トロスキーとソウレッドの顔が青ざめる。
屈辱的だが撤退するしかない。これを食べるよりはましだ! と退路を探そうとしたトロスキーは、逃げる隙間も無く囲まれていることに気付いた。
見れば怪人と戦闘員は残らず全滅している。
唯一生き残っていたドクター・ハデスも高笑いと共に遠くへ走り去っていた。
ソウレッドが勝ちを確信し、咲耶に謎料理を返そうとするが、パンチパーマになった大吾が肩に手を置いてそれを止めた。
「受け取ってしまった以上はちゃんと食べないとな。どんな料理でも相手に失礼だろう。トロスキーさん、貴方も同じだ」
台詞とは裏腹に、同情に満ちた目で見つめる大吾だった。
もはや逃げ場は無いと謎料理を口の前まで運ぶトロスキーとソウレッド。
そこへセレンフィリティが水筒を出しながらこう言った。
「そんなに食べたくないのなら、この特製ドリンクで味を上書きすれば、美味しく食べられるようになるんじゃないかしら」
二人は即座に口の中へと謎料理を放り込んだ。
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