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第三章 キングゾンビング

 東條 カガチ(とうじょう・かがち)は、地下ゴミ倉庫に居た。
「この辺に、キングゾンビが居るんだよねえ……ところでお願いなんだけど、そろそろ血を分けてくれないかなあ」
 カガチが申し訳なさそうに、東條 葵(とうじょう・あおい)に聞く。
 葵は嫌そうな顔を一瞬浮かべたと思うと、首を縦に振った。
「良いだろう」
 そう言うと、葵はカガチの首をもぎとった。 
 カガチの首から下と、頭が綺麗に分かれた。
「ほら、血だ」
「も、戻してくれるんだろうねえ?」
 葵は、無言でカガチの首に直接自分の血を流し込んだ。

「シューッ……」
 突然、変わった音が部屋に響き渡った。
 二人は視線を、音がする倉庫の奥へと向けた。
 そこには体が小さく、細長い触手をはりめぐらせたキングゾンビが居た。
「そらいけ〜」
 葵は手元に持っていた【カガチの首】を思いっきりキングゾンビに投げつけた。
「鬼ぃい〜」
 首から声を上げながら部屋の奥まで飛んでいく。
 その間に、葵は【隠れ身】で姿を隠した。
 キングゾンビからはカガチの体しか見えない。
「ヴァアアアアア」
「なっ!」
 だが、葵のすぐ後ろにメディゾンビが立っていた。
 どうやら匂いを嗅ぎつけてしまっているようだった。
 慌てて、葵は下がるもキングゾンビが毒ガスをはき始めた。
「しま……った……」
 葵は、毒ガスによって倒れてしまった。

「おや……誰もいないのですか?」
 地下ゴミ倉庫に入ってきたのはエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)だった。
「ん、ここに首無しの男がだってんだけど?」
 緋王 輝夜(ひおう・かぐや)が、かかしのように立ったままであるカガチの体を見つける。
 それを見つけた瞬間、上から10は超えるハイゾンビが降ってきた。
「なっ!?」
「ククク……さすが飽きませんね」
 ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)は、エッツェルと輝夜の前に出ると、【要塞崩し】で落ちてくるハイゾンビ達を次々と粉砕した。
「誰か居るの〜」
「ああ、誰かいるみたいですね?」
 カガチの声を聞いた、驚きもせずただ平然とエッツェルは答えた。
 その声の方には、キングゾンビがどっすりと腰を据えていた。
 カガチの頭はその後ろにあるようだった。
「これ、毒の煙をだすから気をつけて〜」
「毒っ!?」
「ああ、輝夜さんは下がっててかまいませんよ。あ〜、ただ、ハイゾンビをお願いしますね」
 エッツェルと、ネームレスが前に出た。
 エッツェルの指を差す、倉庫の横側ではハイゾンビ達が牙を構えて待っていた。
 さらには、キングゾンビの前にも数匹集まり始めていた。
「簡単に終わるかなあとか思ったんですがそうではないようです。暴れて良いですよ」
「ククク、待っていました……」
 ネームレスはエッツェルの承諾を得ると、【要塞崩し】を大きく振るう。

「本当はこんな危なっかしいのを相手したくないんだけど!」
 一方で輝夜は声を上げると、姿が消えた。
 否、正しくは目で姿を追えないほどの早さでハイゾンビ達に近づいていく。
 【ミラージュ】と【実践的錯覚】を合わせて行った、かく乱攻撃だった。
 その早さは、まさにハイゾンビの早さを遙かに凌駕していた。
 ハイゾンビはその姿を追うことも叶わず次々と切り裂かれていった。

「シューッ」
 その間、毒のガスが蔓延していく。
「早くしないと、輝夜さんがヤバイかもしれませんねえ」
「クククッ……楽しいところですが早くしないといけませんね?」
「そうです」
 ネームレスはエッツェルに聞くと、一気に要塞崩しを天井まで突き上げて振り回した。
 部屋中の物が散らばり、あちこちが傷だらけになる。
 それと同時に、ハイゾンビは全滅した。

「さて……あとは……」
 ゆっくり。ゆっくりとエッツェルはキングゾンビへと左腕を出した。
 そして、その腕はキングゾンビを食べ始めた。
 上からゆっくりと下まで。
「うわあ〜、グロいねえ」
 思わず後ろに転がったままのカガチは言った。
「おっと、お戻ししませんと」
 エッツェルはカガチの頭を拾うと、輝夜に渡す。
 輝夜はそのまま、カガチの頭は元通り体にくっついた。