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めざめた!

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めざめた!

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    ★    ★    ★
 
「ふふふ、あらあら。ハデスさんったら、オリュンポスを裏切りましたのね」
 ティーソーサーに映し出されたドクター・ハデスの映像を見ながら、ミネルヴァ・プロセルピナ(みねるう゛ぁ・ぷろせるぴな)がカップの中のアール・グレイをこくりと飲み干した。
「いつか何かしでかすとは思いましたけれど、まさか、オリュンポスのスポンサーであるこのわたくしにまで反旗を翻すとは……。これは、少しお仕置きが必要ですよね」
 ニッコリと黒いオーラを纏いながら、ミネルヴァ・プロセルピナがカップをソーサーの上に戻した。
「ヘスティア」
 パンパンと手を叩いて、ミネルヴァ・プロセルピナがヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)を呼んだ。
「はい、御前に」
 給仕をしていたヘスティア・ウルカヌスが、ミネルヴァ・プロセルピナの前に膝をついて頭を垂れた。
「他のメンバーへ伝えなさい。ドクター・ハデス討つべしと」
 粛清にうきうきと目覚めたミネルヴァ・プロセルピナがヘスティア・ウルカヌスに命令した。
「かしこまりました」
「あなたも、行きなさい。手加減は無用です。全力で」
「かしこまりました、ミネルヴァお嬢様。ハデス様を追撃します」
 真の忠誠に目覚めたヘスティア・ウルカヌスが、素早く花の咲き乱れる庭から飛びたっていく。
「これ、車を用意しなさい」
 すっくと立ちあがると、ミネルヴァ・プロセルピナが別のメイドを呼んだ。
「かしこまりました」
 すぐに、御者がピンクの豪華な自動車を回してくる。
「どうぞ、お嬢様」
 メイドがドアを開け、ミネルヴァ・プロセルピナが車に乗り込む。
「それでは、わたくしたちも参りましょうか。出しなさい、セバスチャン」
 御者に命令し、ミネルヴァ・プロセルピナはドクター・ハデスたちを追って出発した。
 
    ★    ★    ★
 
「なんだ? 変なメールが来ておるな。また、ウイルスとかの類ではないじゃろうな」
 突然届いたメールを、鵜飼 衛(うかい・まもる)が恐る恐る開いた。何やら添付ファイルがあったようだが、すぐにマークが消えたので、機械の誤動作か何かだったのだろう。
「おおおお、ついにきたのじゃあ! 指令じゃあ!! カーッカカカカカカカ!!」
「メ、メイスン様〜! 衛様が壊れてしまいましたわー!」
 突然叫びだした鵜飼衛に、ルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)が驚いてメイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)を呼んだ。
「どうした? 衛がおかしいのは、いつものことじゃけん、そんなに気にせんでも……」
「でも、いつもとちょっと様子が……」
 心配することもないと言うメイスン・ドットハックに、ルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』が鵜飼衛を指さして言った。
「カカカカカカッハッー! わしの名前は鵜飼衛。オリュンポスのエージェントにして組織の始末屋! 裏切り者は抹殺じゃー!」
「なるほど、ちょっといつもと違ってるかもしれんな」
 悪の使命に目覚めた鵜飼衛の姿に、さすがにメイスン・ドットハックもルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』と同じ心配心を目覚めさせた。
「今回の任務は、組織の長にも関わらずオリュンポスの機密情報を持ち出し脱走したドクター・ハデスを、組織の掟に背いたとして粛清することじゃ。ということで、メイスン、妖蛆! さっさと追跡じゃ! 奴が機密情報を正義サイドの連中に渡したら大変なことになるぞ!」
「今回って、任務って、今度が初めてでございますよね」
 鵜飼衛の言葉に、ルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』が戸惑う。
「まあまあ、毎度のこと……ということにしておけばよか。なにかあれば、自分らで止めればよかと。それまでは、つきあってやろうじゃないか」
「そうですね。わたくしたちがついていてあげないと」
 メイスン・ドットハックの言葉に、ルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』がうなずく。
「よし、では出発するぞ!」
 そう言うと、鵜飼衛は飛び出していった
 
    ★    ★    ★
 
「そうか、HIKIKOMORIの神になるためには、世間からも引きこもって、秘密組織のトップになればいいのんや! そのためには、まずはネコや。組織のボスは、長毛種の白猫を膝の上に載せておかなければいかんのや」
「ええっと、どこから突っ込めば……」
 なんだか確信的に大声で叫ぶ上條 優夏(かみじょう・ゆうか)に、フィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)が思わずよろめいた。
「あのね、もっと現実を見てほしいんだもん。いったいどこに、そんな引きこもれそうな秘密基地があるって言うんだもん」
 いきなり引きこもりに目覚められても困るというものだ。
「ほら、あそこにあるやないけ!」
 そう言って上條優夏が指さす方には、ちょうど住人が出払って空っぽで放置されていた機動要塞オリュンポス・パレスがあった。
「なぜ、あんな物がこんな所に……」
「きっと、あの中には白いにゃんこがおるねんで。ほなら、捕まえにいこやないか。ほら、早く変身してや」
「もう、しょうがないんだもん。愛よ、勇気よ、希望よ!」
 急かされて、フィリーネ・カシオメイサが魔女っ娘ステッキ《恋色彗星》を振り回した。謎の粉が空中で練りあげられて、フィリーネ・カシオメイサの身体にピンクのキラキラとなって降り注ぐ。フィリーネ・カシオメイサの着ていた服が、光につつまれてマジカルプリンセスドレスに変わっていった。キュッとおへそをむきだしにした、セパレートタイプのパステルピンクの魔法少女コスチュームだ。
魔法少女ミラクル☆フィリー、ホーリーアップ!
 困っているわりには、のりのりでフィリーネ・カシオメイサが決めポーズをとる。
「こうなったら、魔法少女の上級クラスのさらなる上、英雄クラスを目指すんだから」
 何やら野望に目覚めたフィリーネ・カシオメイサが、空飛ぶ箒スパロウにまたがると、上條優夏を後ろに乗せて空に飛びあがった。
 空中に浮かぶ機動要塞オリュンポス・パレスの中にあっさりと入り込む。
 おでかけは、一声かけて、鍵かけて。
「よっしゃあ、もうここからでえへんで。さっそくにゃんこや、にゃんこを探してやー」
「どこの世界に、にゃんこの尻尾を追っかける秘密組織のボスがいるのよね、まったく」
 突っ込みつつも、機動要塞内を探し回るが、それこそネコの子一匹見つからなかった。
「おかしいやないけ。なんで、にゃんこがおらへんのや」
 ちょっと疲れたように、上條優夏が壁際に寄りかかった。
 カチッ。
「ちょっと、今、何か嫌な音がしたんだもん?」
「はははは、はははは……」
「ごまかさない!」
 笑ってごまかそうとする上條優夏に、フィリーネ・カシオメイサが怒鳴った。