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リアクション
05:インターミッション 孤高の疾風
戦場を、一陣の風が駆け抜ける。
高機能AIドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が搭載されたバトルスーツを纏った鳴神 裁(なるかみ・さい)である。
応援要請を受けてメフォスト・フィレス(めふぉすと・ふぃれす)の運転する車両で向かった先には、大量の敵。まるでCGで合成されたMOBであるかのように錯覚するほどの、数、数、数。
味方は既に他の敵と戦闘中で、周囲の味方の援護は受けられない。そんな絶望的な状況だった。
「九十九……いや、裁。見た通り戦況は絶望的だ。それでも戦うというのか?」
オペレータのメフォストが輸送車内でバイタルを確認しながら裁に告げる。
「100対1なら負けるけど、1対1を100回なら勝てるかもしれない。それに、姉さんの分も戦いたい……」
裁のその言葉に、メフォストはニヤリと笑う。
「そうよな。困難な状況こそ燃えるというものであろう?」
「うん。ボクは風……風(ボク)の動きを捉えきれるかな?」
裁は微笑むと、向かってきた巨大カブトムシのうえに飛び乗り、神木の杖を羽根の隙間の柔らかい皮膚に叩きこむ。
体液を飛ばしながら落下していくカブトムシからジャンプすると、一階建ての家屋の屋根に飛び乗る。対神スナイパーライフルを無造作に撃つとそこにはイフリートの姿がある。
急所を撃ちぬかれたイフリートは、一撃で消え去る。
「5メートル先にワイバーン」
メフォストのナビに従って進み屋根から飛び降りると、ワイバーンと相対する。
突進を三歩動いて躱し、すれ違いざまにそのままマーシャルアーツ式の蹴りを叩きこむ。
脳震盪を起こして落下したワイバーンの頭部をギロチンアームで粉砕する。
一撃でも受けたら終わりなので、足は止めない。動き続け、走り続け、彼女は一陣の風になる。
「カマキリが来ます」
AIのドールの助言を受けて裁はカマキリに向かって突き進む。鎌を神木の杖で受け止めるとそのまま力学を応用して杖を叩きつける。それで、貧弱な装甲のカマキリは倒れた。
踊るように、舞うように、裁は戦い続ける。
彼女は、ただの人間だ。何もかも押しつぶす圧倒的パワーも、すべてを置き去りにする圧倒的スピードも、伝説や神話で謳われるような武具も、一発で戦況をひっくり返す必殺技も、彼女にはない。あるのは、鍛え上げた肉体と磨きあげた技のみ。
ただそれだけを駆使して、絶望に立ち向かう。恐れず、揺るがず、迷わず。ひたすら突き進む。死んだ姉である裁のふりをする物部 九十九(もののべ・つくも)と言う名の少女。
跳躍。
骨龍を神木の杖で殴りつけると半歩後退。先読みで読みきって骨龍の攻撃を回避する。そして動き回りながら神木の杖とマーシャルアーツ式の蹴りの乱舞。優雅に、かつ靭やかに。
ティラノサウルスの群れに遭遇。体格差も戦力差も絶望的。だが、それを気に留めず対神スナイパーライフルを連射する。
脚を撃ちぬかれた恐竜は自重を支えきれずに倒れこむ。その恐竜の体に飛び乗り、別のティラノサウルスが噛み付こうとして来たところを跳躍。
仲間に肉を食いちぎられた恐竜があげる悲鳴と、対神スナイパーライフルから飛び出した銃弾が頭蓋骨を砕く音が同時に聞こえた。 全長数十メートルの巨大なドラゴンと接敵。
ドラゴンのブレスをドラゴンに肉薄してブレスの射角から外れることで回避すると、開けっ放しの口に対神スナイパーライフルをお見舞いする。イコンすらなぎ払う圧倒的な強さのドラゴンも、特別な力は使わず、ただ技と戦術で撃破する。
ただの人が、人のままで、圧倒的な質と物量の敵を駆逐していく。それが、彼女の生き様だった。
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