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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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「どうみても禽龍自体が罠かデータ収集機だろ。使えるから使うのは当然としても、敵に踊らされるのは勘弁だ」
 調査を進めながらクローラは呟いた。彼は禽龍取得時の記録と、現判明事実や手掛りをとなり得る設計関係の資料、そして教導イコン開発施設の技術者から聞き込みによって得られた調書を見直しながら仮説を口にする。
「やはり現時点では金団長や禽龍の静態保存を担当していた技術者の予想した通り、強奪された『F-22』と鋼竜を素材として建造されたカスタム機というのがこの機体の正体ということで間違いないか。むしろ、資材の調達を行う際に足がつかないように、こうした形で資材を調達したのかもしれないな」
 顎に手を当てて深く考え込みながらクローラは先程、超能力によって念写した画像の数々を検証していく。もっとも、その写真はブラックアウトしたモニターのように黒一色であり、実のところ検証も何もあったものではないが。
 既存の技術では簡易的な整備しかできなかった禽龍。だが逆に言えば簡易的な整備はできたということだ。なら、簡易整備で必ず発生する取り替えた部品が存在するのではないか――そう考えたクローラは早速手配してその部品を手に入れた。部品を手に入れた彼は形状考察した後にサイコメトリーし、結果をソートグラフで念写。ノートパソコンに画像化したものを保存することによって禽龍製作者や関係者の顔を特定しようとしたのだ。
 しかし、形状考察した結果として、簡易整備で取り替えた部品は既存の技術で十分に製造可能なものであることが判明したに過ぎず、それより深い情報は得られなかった。だが、何らかの情報が得られた分、そちらの方がまだましだったのかもしれない。念写に関しては何らかの不可思議な力がはたらいたのか、映し出された画像はすべてが黒一色の画像だった。
 敵機に使用されている技術または類する技術を使いうる科学者や技術者、あるいは思想家等をネットと各学会への照会でリスト化し、関連人物の絞込みも狙ってみた。だがしかし、現行の技術でそれを可能とした科学者や技術者はもちろん、思想家などいようはずもなく、ならばとクローラは実用化レベルではなく、あくまで仮定としての技術や展望としての提唱、戯れに考案したものまで――つまりは机上の空論であることを了承済みで発表されたものも検索対象に含めてみたが、そうなると今度は逆にヒットした対象が多過ぎた。
 それでもクローラは一人一人を調べたが、結局わかったのはどれもが現行の技術では実現不可能な空論だったことと、そうした技術を実用化可能に足るレベルで実現化した者はいないということが改めて判明しただけであった。
 敵はこちらの予想以上に用心深く、用意周到でもあり、そして、自分たちの正体をおいそれと掴ませないだけの高い技術も持っている。今回の調査でわかったことといえばそれと、この事件の真相究明は一筋縄でいかないだろうということだけだ。
 思わずクローラは瞼を閉じて椅子の背もたれに身体を預け、目と目の間を指でつまみながらもみほぐした。自分でも気づかないうちに根を詰め過ぎたのかもしれない。加えて、結局わかったことが敵のセキュリティの固さということだけだったのも疲れに拍車をかけている。しばらく目を閉じたまま考え込むことにしたクローラ。それから長い時間を彼が熟考に費やした頃、セリオスが声をかけてきた。
「クローラ、ちょっといいかな?」
 熟考を中断して顔を上げたクローラにセリオスは書類の束を見せる。クローラと役割を分担したセリオスはネットと教導の諜報機関を活用して敵機を作りうる組織と資金の流れを追うのを担当していた。大方、それに関する何か有力な情報を掴んだのだろう。
「ああ。どうした?」
 書類の束をクローラに見せた後、セリオスはゆっくりと語り出した。
「『偽りの大敵事件』で被害を受けたエッシェンバッハ・インダストリーだけど、事件後にイコン事業からは撤退してるんだ。でも、この被害が理由で企業には多額の保険金が振り込まれてる。だから損害を補填しようと思えば可能だし、イコン事業部の運営を継続することも十分に可能なんだよ」
 説明しながらセリオスは今の説明を裏付けるデータが記載された書類を束から抜き出して並べていく。
「なのに、エッシェンバッハ・インダストリーはイコン事業から撤退してる。そればかりか、損害の補填も行っていない――」
 セリオスがそこまで説明すると、クローラは何かに気付いたように眉根を寄せる。それを察し、セリオスは口を噤んだ後に、クローラへと発言を目で促した。
「ちょっと待て……なら、その資金はどこに行った?」
 相変わらず眉根を寄せたまま疑問を口にするクローラの答えを予期していたように、セリオスは淀みなく答える。
「やっぱり気になるよね。ただこの事実だけを見れば、あんな事件があった後だからただ単に弱気になってるだけだと思ったかもしれない。でも、あの事件――『偽りの大敵事件』の真相がああだったのならば、話は変わってくる」
 次にセリオスが束から抜き出したのは、エッシェンバッハ・インダストリー製のイコンに関する情報が記載された書類だった。
「イコン事業においては新参者だけど、エッシェンバッハ・インダストリーはそれなりに歴史のある企業だし、工業力も高い。それに、このデータを見てもらえればわかる通り、今でこそパラミタ技術のビッグスリーほどではないにしろ、開発するイコンの性能はめまぐるしい進歩を続けているんだ――イコン評論家の中には、いずれビッグスリーを凌駕するほどの機体を発表するだろうとまで称する人もいるくらいにね」
 束から抜き出されて机の上に並べられた書類をもう一度、一枚一枚確認しながら、クローラは呟いた。
「なるほど。つまりはこういうことか――」
 何かに思い至ったクローラは前置きした後、ゆっくりと口を開く。
「エッシェンバッハ・インダストリー……正確に言えばそのイコン事業部は使わなかった保険金と事業処分諸々によって浮いた莫大なリソース、そして自社が保有する高いイコン技術を手土産に鏖殺寺院へと降った――そういうことだな」