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リアクション
●夏の夜の灯は……
五十嵐 理沙(いがらし・りさ)、宣誓。
ここに宣誓。
『セレスとデートしてどーするのよ。男女がデレデレキャッキャウフフはにゃーんしているところに行ったら、たとえプールでも暑苦しいじゃないのよぅ』
というわけで、実は心の中の声だが、烈しく熱く宣誓。
『リア充爆発しろー!!』
以上宣誓、終わり。
繰り返すが心の中の声なので、誰も傷つかなかったことをここに明記しておきたい。
「あの、どうかしましたか?」
セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)は小首をかしげていた。。
途中、水平に打ち上げ花火が飛んで来たりして少々焦る場面もあったが、おおむね平穏に楽しく花火大会は続いていた。
理沙ももちろん参加者の一人だ。彼女がまとうのは涼しげな水色の浴衣、金魚の模様も可愛らしい。長い髪は背のところでくくっている。同じくセレスティアも白地の浴衣で、露草の柄という趣だった。これで二人、二輪の花のように並んで、パチパチと花火を味わうは愉し。
もちろん静かにしゃがんで遊ぶだけが花火ではない。
「ナイアガラの滝〜」
予告もなく理沙はススキ花火をいくつも持って、火の出ている状態で横に走った。結果、光の滝がざっと流れることになる。
「今日はたっくさん花火買ってるからね〜、どんどんいっちゃうよ!」
「理沙……どんどん、もいいけれど、3つも4つも一時に火を付けるのはホドホドにしなさいな。それに走ったら危ないですわよ」
なんだか母親のように、セレスティアは理沙をたしなめるのである。見た目だけなら同世代なのだが……。
そこに、
「待ったか? 遅くなったね。ごめん」
蒼学の制服姿で、ローラ・ブラウアヒメルが訪れた。
「おおー、ローラちゃん! 待った待った首を長くして待っていたせいでキリン状態よ私」
「キリン? そんなに首長くなってない気がするね」
「もののたとえよたとえ。こちらこそごめんね、他の場所で用事があったんでしょう?」
「……うん、まあ、ね。でも終わったよ」
セレスティアは何か言いたげに目配せしたが、理沙はあえてローラには何も訊かなかった。
そもそも今夜、ローラにはなにか別件があると理沙は訊いていた。それなのに誘ったら来てくれたのだ。そのうえ根掘り葉掘り聞くものではないだろう。話したくなればローラは自発的に話してくれるはずだ。今は、今を楽しめばそれでいい。
「ほらみて、まだたっぷり花火、残ってるからね。デパートでバラエティセットで確保してきたんだから。ローラちゃんはどの花火が気に入った? たっぷりあるからじゃんじゃん火を付けてもいいのよーん」
「うん。じゃあ、これにするね」
「あ、それは――」
そこに、セレスティアがクーラーボックスを持ってきてくれた。
「飲み物を冷やして持ってきてます。急いできたので喉が渇いたでしょう、ローラさん、好きなのをどうぞ」
「んじゃあ私は缶チューハイを……」
「めっ。理沙さん! 未成年者もいるから駄目ですわよ。事故の元」
「ちぇー」
そのときアナウンスが流れた。
大会終了十分前のお知らせであった。
「えーっ! ちょっとちょっと、ローラちゃん今来たばっかりじゃない!」
理沙は絵に描いたようにむくれてみせた。ぷくーっ、と頬を膨らませる音が聞こえるようである。
「ほんと、ごめん、遅くなって」
「いやローラちゃんはいいの! 健全すぎる大会運営側が悪いの! リア充なんていないんだから、せめて夜を充実させなさいってのー」
「おっしゃる意味がよくわかりませんが……けれど、残った時間、せめて文句でつぶさず楽しませんか?」
「うん! ワタシ、それがいい。10分を楽しむね!」
「まあローラちゃんもそれで納得してるんなら……」
ぷくーっ、な顔を元に戻して、理沙はデジタルビデオをセレスティアに渡した。
「じゃあ、私とローラちゃんの花火のツーショットを録ってね。ローラちゃん、あとでコピーを送ったげるから笑って笑って……そう、そんな感じ」
うまくローラを乗せて嬉しげに、理沙は自分とローラの花火に火を灯した。
「ローラちゃんが選んだのは、期せずして最後にとっておこうと思ってた花火なのよね……つまり、線香花火。締めは絶対これよね〜」
「線香……?」
と言っているローラの大きな瞳に、真っ赤な雫のような、それでいてとても小さな塊が映った。
塊は、ジジ、ジジ……とかすかな火花を上げている。
「きれい……」
「でしょ? 弱々しいけれどなんだか好きなのよね、これ。この『夏が終わっちゃう〜』的な情緒がイイのよ」
「夏が終わっちゃう〜?」
「そう。なんだか、おセンチな気分にならない?」
「……うん。なるかも」
ローラはじっと、垂れ落ちそうな朱い雫を見ていた。理沙も口を閉ざす。線香花火は静かに味わいたい。
周囲でも多くの参加者が線香花火を灯していた。
そのためかぐっと暗く、静かになった会場のどこかから、虫の声がうっすらと聞こえてきた。