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リアクション
【十 全てを終えて】
SPB2022シーズンは、蒼空ワルキューレの優勝で幕を閉じた。
優勝特集を組む為に、ワルキューレの選手のみならず、球団スタッフからも取材してきたエースが、報告を取りまとめてSPB事務局に戻ってくると、思わぬ顔がそこにあった。
狐樹廊が、何故かメイド風売り子として人気を博していたリアトリスを、SPB広報室に呼びつけていたのである。
傍らには、優希とアレクセイのSPB公認マスコットコンビの姿もあった。
「これはこれは……また、どんな企画を打ち上げようとしてるんです?」
狐樹廊の思惑にピンときたエースが、幾分意味ありげな笑みを浮かべて、狐樹廊のデスク前に立った。
エースが既に気付いているように、狐樹廊はリアトリスをSPB公認の名物売り子に仕立て上げようと考えていたのだが、問題は本人にその気があるかどうか、であった。
「まぁこればっかりは、強制ではございませんからな……但し、SPB広報室としては一応、公認として登録しておきます。後はどのように振る舞おうが、御手前の勝手、ということで」
「あ、はぁ……」
リアトリスは、何とも合点のいかない表情で曖昧に頷くばかりである。
まさかこんな方向へ話が飛躍しようなどとは、リアトリス自身も全く予想していなかった。
「それはそうと、ワルキューレの優勝記念企画は組めましたか?」
「もう、それはばっちりと」
エースの自信ありげな笑顔に、狐樹廊は満足そうに頷いた。
* * *
SPB2022シーズン終了後の、スカイランド・スタジアム右翼スタンド席にて。
加夜は、数日前までの熱気が嘘のように静まり返るグラウンドを、感慨深げに眺めている。傍らには、伴侶である山葉 涼司(やまは・りょうじ)オーナーの姿があった。
「終わっちゃったね……」
「あぁ、終わったな」
この後、しばらく沈黙が続いたのだが、不意に加夜が、悪戯っぽい笑みを浮かべて夫の横顔を覗き込んだ。
「ビールかけにはレインコート着用でしか参加出来なかったけど、涼司くんももうすぐ二十歳だし、優勝旅行の時にはお酒も飲めるようになるね」
「まぁな……っていうか、まだ一か月以上、先の話じゃねぇか」
いってから、山葉オーナーは不意に何かを思い出したような調子で、逆に加夜を覗き込む。
「そうだ、お前も優勝旅行には帯同しなきゃなんねぇぞ」
「え? だって私、ただのスコアラーだよ?」
ここで山葉オーナーは、否、とかぶりを振った。
加夜は相手の意図が読み切れず、ただただ戸惑うばかりである。
「何いってんだ。お前はもう、オーナー夫人なんだぜ。それに」
少し間を置いて、山葉オーナーは幾分顔をしかめて小さくかぶりを振った。
「ナベツネさんが急に、共同オーナー職を退くことになったんだ。何でも、古巣の会社……えぇっと、ウィンザー・エレクトロニクスとかいう会社が所属する企業グループ内の何とかってところが、変なトラブル起こしちまったらしくてな。プロ野球のオーナーどころじゃねぇんだってよ」
山葉オーナーと共同オーナー制を敷いていた、ナベツネこと田辺 恒世(たなべ つねよ)はもう、ワルキューレから姿を消したのだという。
一体何があってそんなことになったのか、加夜にはよく分からない。
山葉オーナーもそれは同じだったが、風の噂によれば、どうやら鏖殺寺院が絡んでいる複雑な問題だ、ということであった。
「ま、そういう訳だ。とにかく加夜、旅行には、一緒に来てもらうぜ」
「……はい」
加夜は一瞬、複雑そうな色を浮かべたが、すぐに満足そうな笑みに表情を変えた。
愛する夫と一緒に、旅行が楽しめるのである。
彼女が困るようなことは、何も無かった。
『SPB2022シーズン 二年目の実りの秋』 了
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