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リアクション
「どうぞ」
「あ、良い香りね……。誘ってくれてありがと」
英国人伝統の朝のお茶――アーリーモーニングティーの時間に、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)はパトリシアを招待した。
「なに、せっかくの機会だからな。それにこれからトーナメントであろう? しっかりと目覚めて万全の状態で挑まなければな」
「そうね」
トーナメントへ通過した生徒の発表は六日目の夜に発表された。パトリシアも無事にトーナメントへと通過できていた。
「わらわでよければ、最後の調整に付き合うぞ?」
「あ、本当? ウォーミングアップがてら少し練習しようとしていたから助かるわ」
「うむ。だが今は、ゆっくりとこの時間を楽しもうではないか」
「そうねー。あまり根つめてもしょうがないし」
ゆっくりとグロリアーナが入れてくれた紅茶をパトリシアが味わう。
「さて、少しそなたに聞きたいことがあるのだが、良いだろうか?」
「なにかしら?」
「伝統を重んじる王立ヴィクトリア・カレッジにとって、新しき人類とは、どのように映るのだろうか?」
「……新しき人類?」
聞きなれない単語に、彼女が首を傾げる。
「うむ。少し色々とあってな。参考までに聞いておきたいのだ。どうだろうか?」
「そうね……」
考えるように目を伏せ、紅茶を啜る。
「……私は特に変わらないかしら。新しい人類と言っても人は人。打ち解けあえるならそれで良いと思うし、敵になるなら迎え撃つ……」
そこでカップを置き一呼吸入れた。
「……でも、やっぱり忌み嫌う人の方が多いんじゃないかしらね。私みたいに考える人は多分それほど多くないわ」
「……そうか」
「っと、回答はこんな感じで良いかしら?」
「うむ。すまないな。急に変な質問をしてしまって」
「気にしないで。こんなおいしい紅茶もいただけていることだしね」
「それともう一つ……質問があるのだが、良いか?」
「良いわよ」
「其方は……」
グロリアーナは一瞬、言葉にすべきかどうか迷った。だが、意を決して口を開く。
「其方は、光系の魔法を得意と聞く。辺りの光を屈折したりして、周囲の人間に別の風景を見せる、そんな魔法はあったりするものか?」
グロリアーナがこのような質問をしたのには訳があった。
――それは、先日の夜。一緒に参加してはいないローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)と連絡を取っていたときのこと。
『姿を変える何者かがいる?』
グロリアーナはプログラムで起こっている事を聞き、それをローザマリアへと伝えていた。
「うむ、実際に見たわけでもないが、そのような存在が紛れ込んでいるということらしい」
『敵、なんだよね?』
「そうらしいな。何人かがそれに対処するべく動いているという」
『そうね……。あ、そういえば、彼女、パトリシアだっけ?』
「む? パトリシアがなにか?」
『彼女、光の魔法が得意なんでしょ?』
「そうであるな。雷電と光輝。その二つの属性に特化していると言っていた」
『それも、『ロード・オブ・グリモワール』の異名を持ち、しかも学校の次席。相当高位な魔法使い。もし……高位の光の魔法の中に自分を取り巻く部分の光を屈折させ、周囲の人々に違うものを見せる魔法があるとしたら……』
「……自分ではなく別人の姿を相手に見せる事が可能……ということか?」
『えぇ……』
「わらわに同郷の人物を疑えと言うのか?」
『可能性の一つとしてね』
「だが……」
『疑いたくないという気持ちは分かるわ。でも、何かあってからでは遅いの。あんたの身を案じてってこともあるし、彼女が違うと言うならば疑って接する事もなくなる』
「…………」
グロリアーナは黙り込んだ。
『ずっと、疑ったままっていうのは嫌でしょ? なら、早々に違うって証拠を見つければ良いのよ』
「……そうであるな。分かった。明日聞く事にしよう」
『えぇ。彼女が違う事を祈っているわ』
――という、経緯があり、質問するに至った。
「別の風景ねぇ……」
「もしくは、自分ではなく別の人物を相手に見させる……そういった魔法はないか?」
「あるにはあるわ。でも、残念ながら私にはまだ扱えない。そういった魔法って、長時間使おうとすると、かなり魔力を消費しちゃうし。戦闘でもあまり使う機会ないしね」
「誰かを騙す。そういう行為には長けていると思うが?」
「別に騙したって私に得があるわけじゃないしね。確かにそういうときは便利だろうけど、さっきも言ったとおり長時間の使用は無理なの。それこそ無限に等しい魔力を持っているか、空気を魔力に変換するような力を持っていない限りはね。だから、すぐにボロが出るわ。だったら私は、正々堂々と前に出て戦うわよ」
「ふぅ……そうか」
パトリシアの言葉に安堵のため息をつくグロリアーナ。
「でも、急にそんなことどうしたのかしら?」
「いや、少し気になった事があってな。気にしないで構わない」
「そう? まぁ、そういうなら深くは聞かないわ。あ、そろそろ。準備しないと。手合わせ、お願いしても良いかしら?」
「うむ、こちらから頼んだのだ。喜んでお相手させていただこう」
二人は、片付けをはじめ、そのままトーナメントのための最終調整に入った。
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