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『C』 ~Crisis of the Contractors~(後編)

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『C』 ~Crisis of the Contractors~(後編)

リアクション

「キミたちはよく頑張ったと思うよ。まだ五体満足でいるくらいだし」
 コード:アンリミテッドの実力は、圧倒的だった。
 ルカルカとダリルはパラミタの契約者の中でも、トップレベルと言って差し障りのない力の持ち主である。それでも防戦一方なのだから、相手がどれだけ異常であるのかが知れよう。
 そしてそれは、せつなも変わらない。むしろ、彼女は二人と、援護を担当していた茜に守られていた形だ。
(ほんと、自分の弱さが嫌になる……)
 未来からやってきたナナシを死なせてしまった。
 それだけでなく、共に戦ってくれている者たちに全てを任せてしまっている。
「…………」
 ふと、腰に下げている一振りの太刀を見やった。
 ナナシが初めて会った時に渡してくれた武器――氷刀:アイスエッジである。
 せつなはそれに手を伸ばした。
「せつな?」
 茜が彼女へと視線を向ける。
 彼女から漂ってくるのは、冷気。そしていつの間にか、肩口くらいまでしかなかったはずのせつなの髪は、腰のあたりまで伸びていた。
「へえ……」
 敵であるコード:アンリミテッドも、彼女のことを興味深げに眺めている。
 せつなは静かに刀を抜いた。

『――氷月雪花』

 その言葉を発した瞬間、世界が凍りついた。


「何が起こったんだ……これは?」
 テレサと共にエッツェルを追っていた刀真たちは、突然発生した冷気を辿り、この場所までやってきた。
「氷の……花?」
 テレサが呟く。
 周囲一帯が氷に覆われ、花弁のように氷の結晶が舞っている。
 その中心に佇むのは、雪色の髪をした少女。
「せつなさん、なのですか?」
 テレサたちの方を振り返ったかと思うと、せつなの身体はふっ、と倒れた。
「この力、まさかせつなさんも……」
「いや、それは違うよ」
 そこに、声が響いた。
 全身が氷漬けになりながらも、辛うじて喋れる状態な金髪碧眼の少年によるものだ。
「彼女は、ボクたちとは違う。まだ絶滅していなかったのか、それとも『先祖返りか』、あるいは……進化の兆しか」
 不敵に微笑み、少年が言う。
「……お前、何を知っている?」
 刀真は少年に詰め寄り、問い詰めようとした。
 その時、氷に閉ざされた世界が融けた。

「やり過ぎよ、アンリ。あたし、ここまでしろなんて言ってない」
「ごめんごめん、レイチェル。つい面白くなっちゃってさ。でも、ボク達の力を示すには十分だったろ?」

 そこに現れたのは、会場から消えたはずの西枝 レイだった。
「あたし、言ったよね? 今回は契約者の力を試すのと、あたしたち『コード・チルドレン』の力を見せるだけで十分だって」
「文句はリモーターとあの姉妹に言ってくれ。それにキミと違って、ボクらは『普通の生活』ってものを知らないんだからさ」
 金髪の少年の言葉に、レイが顔をしかめた。
「お前たち、何の話をしている? それに……君の名前は、西枝 レイじゃないのか?」
 しかし、それ以上に刀真の頭にはある単語が引っ掛かった。
 ――コード・チルドレン。
 あの男は言っていた。現在の人類とは異なる遺伝子コードを持つ、進化した新世代の子供達、と。
 それが、眼前にいる二人なのか?
「西枝は、あたしのママの姓。名前のレイは日本で過ごす時の通称だよ。本名はレイチェル。そして、パパの姓は――」
 少女の口から、それが告げられる。
「ウェスト。もしかしたら、ご存知なんじゃない? あたしが言うのも自慢するようでなんだけど、生物学・遺伝子工学の権威であるウェスト一族っていえば」
「ああ、知っている。ヴィクター・ウェストという男ならな」
「それ、あたしのパパ」
 特に感情を込めず、言い放ってきた。
「知ったのは、ママが死んだ後だよ。そこのアンリや、他の子供たちがあたしの前に現れる前までは何も知らなかったわ。ママも話してくれなかったし。まあ、気持ちは分からなくもない、かな。胎児の状態の実の娘を、あれこれいじくり回すような男なんだし」
 口ぶりから察するに、父親を慕ってはいないようだ。
「あの男は……生きているのか?」
「さ〜ね。あの人、そう簡単に死ななそうだし。どっかで悪だくみでもしてるんじゃないかしら」
 どうやら、未だに消息不明らしい。
「レイ……さん……?」
 せつなが目覚めた。
 いつの間にか、髪の長さは元に戻っている。
「一つ、聞かせて。あなたは……世界を支配したいって思ってる?」
 その質問に、レイは苦笑した。
「もし、このプログラムに集まっている契約者が腑抜けばかりだったら、考えたかも。この程度で世界を救うとか馬鹿じゃないの? だったら、あたしたちが代わりに全てを終わらせてきてあげる、ってね。
 だけど、このプログラムを通して色々と興味深い『結果』が見られたわ。せつな、あなたもその『結果』の一つだよ」
 さらに言葉を続ける。
「色々とこの馬鹿がやらかしてくれたけど、あたしはあなたたち『契約者』に興味がある。いえ、湧いたと言うべきかしら。あたしたちみたいに人為的に促されたわけじゃなく、自然に進化しようとしているように見受けられる人もいるしね。もっとあなたたちを観察していたい」
 その笑みを見て、刀真は思った。
 紛れもなく、この少女はヴィクター・ウェストの娘なのだと。
「……テロ紛いなことをして、そんなことができると?」
 今、彼女たちを確保するのは難しい。それは分かっている。
 無垢なる狂気をはらんだ少女は、ただ微笑みをもって刀真の問いに答えた。
「それじゃ、ばいば〜い♪ また遊ぼうね、お兄ちゃん、お姉ちゃん達」
 最後に歳相応の少女の表情を見せ、西枝 レイ――レイチェル・ウェストはコード:アンリミテッドと共に姿を消した。