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森の支配者、巨大食虫植物

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森の支配者、巨大食虫植物

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第二章 燃え広がる炎


 森の奥地で、アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)は倒した植物モンスターを調べていた。

「うーん……やっぱり普通の植物、だよね」
 アゾートは首を傾げる。

 彼女は目の前で植物がモンスターと化しても、逃げ出したりはしなかった。
 むしろ、その現象に興味を持ったのだ。

「植物に命を与える魔法とかあるなら、賢者の石の研究に役立つかと思ったんだけどな……」
 そう言って植物モンスターの残骸を拾い上げるアゾート。
 所々焼け焦げているそれは、最早動く気配は無い。

「ま、もう少し調べてみよっと」

 アゾートは焼け焦げた枝を投げ捨て、歩き出す。
 そしてすぐに、足を止めた。

「……?」
 何かが焦げる様な匂い。
 先程のモンスターを倒したときの名残かとも思ったが、それにしては強すぎる。
 アゾートは箒に跨ると、木々の合間を縫って空へ飛び上がった。
 
 そして彼女は、森の一角が激しく燃え上がっているのを目撃する。

「っ!! た、大変!!」

 アゾートは大急ぎで燃え上がる炎の下に向かった。



 火事の現場では、懸命な消火活動が行われていた。
 
「がむしゃらに撃つんじゃない! これ以上炎が広がらないよう、燃え移りそうな場所から消していけ!」
 アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が指示を飛ばす。
 指示を受けた生徒が氷術を放ち、隣の木に燃え移りそうだった炎を消す。

 アルツール自身もブリザードを唱え、燃え盛る炎を次々と消し去っていく。

「まったく、生徒達を探し出すだけでも一苦労だというのに……。一体どこのどいつだ?! 森に火なぞ放ちおったのは!!」
 
 そう言って舌打ちする。
 アルツールは、異常化した森に取り残された生徒達を救出するべく、ここに来ていた。
 そして数人の生徒を見つけたまでは良かったが、火事の炎がすぐ近くまで迫っており、消火活動を余儀なくされたのだった。
 生徒の内怪我もなく元気な数人も、アルツールの指示を受け消火を行っている。

 しばらく消火を続けていると、燃え盛る炎の合間に、一人の生徒が倒れていることに気がついた。

「おい、大丈夫か?」
 大声で呼びかけるが、返事は無い。
 その時、倒れている生徒の頭上で、バキバキと嫌な音が聞こえた。

「くっ、ウェンディゴ!」
 アルツールは召喚獣を呼び出す。
 呼び出された雪男が落ちてくる枝へと突進、遠くへ跳ね飛ばした。 

 その間に倒れている生徒へと駆け寄る。

「しっかりしろっ!」
 そう言って脈を測る。生徒は意識こそ無いものの、呼吸も脈も安定していた。どうやら気を失っているだけらしい。
 
アルツールは生徒を抱えあげると、消火を行っていた一人の少年に話しかける。

「君、この生徒を箒に乗せて外に運んでくれ。俺が通ってきたそちらの道を行けば、大した障害はないはずだ」
「は、はい!」 
 少年は持っていた箒に跨ると、気絶している生徒を後ろに乗せ、そこから飛び去る。

 そしてそれを見送るアルツールの上空を、何かが通り過ぎた。

「む、どうやら他にも消火を行っている者達がいるようだな」
 空を見上げるアルツールの視界には、一隻の飛空艇が映っていた。
 




 飛空艇の後部座席から、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が声を上げる。

「もうこんなに広がってる……急がないと。ダリル、次はどこ?」
「あちらだ」

 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が森の一部を指差す。
 操縦席に座るカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が指定された場所に飛空艇を動かし、着陸させる。

「飛空艇で移動を繰り返すと効率が悪い。これはここに置いていく。カルキ、飛行魔法を頼む」
「了解だ」
 カルキが飛行魔法を唱えると、三人の体がふわりと浮かんだ。

「消火は早さが命だ。まずははこの付近を完全に消す」
「了解! 急ぐよっ!」
 ルカが飛び、ダリルとカルキがその後に続く。

 三人は炎の延焼地点に到着すると、それぞれ消火を始めた。

 辺りは煙が充満していて、普通の人間ならばそこに居るだけで危険が伴う。
 だがナラカの瘴気にすら耐えられるルカとカルキには、ただの煙など何の障害にもならなかった。
 二人はブリザードを放ち、燃え盛る木々を次々と凍らせていく。

 そしてダリルが『群青の覆い手』を発動すると、その場に大きな津波が発生、周囲にあった木々をことごとく飲み込んだ。
 彼の口元にはマスクが。それが空気中の有毒物質を完全に遮断していた。
 
 彼らの周囲で燃えていた炎が、一瞬で消え去る。

「こんなものだろう。次にいくぞ」
「あ、ちょっと待って」

 移動しようとしたダリルをルカが呼び止める。
 ルカはHCをダリルに見せた。

「救援要請が来てるよ。燃えてる範囲が広すぎて、手が足りてないみたい」
「ならばそちらが優先だな」

 ダリルはHCを覗き込み位置を確認すると、すぐに飛び上がり、その地点へと向かう。
 
「いた、あそこだよっ!」
 ルカが指し示す方向には、三つの人影があった。




 清泉 北都(いずみ・ほくと)モーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)は共に消火活動を行っていた。
 傍らにはアゾートの姿もある。

「まったく、きりがないねぇ」

 北都が放った矢が冷気を纏い、燃える木の一つへと突き刺さる。
 矢が命中した地点とその周囲の炎が消え、凍りついた。
 だが一部の炎を消しても、別の箇所から次々と隣の木々に燃え移っていく。

 木々が密集していて燃え移りやすい上に、降り積もった枯葉がそれに拍車をかけていた。
 辺り一面、上も下も炎に包まれている。

「下がれ北都。そこにいては火に飲まれる」
 モーベットの注意を受け、炎から距離を取る北都。

 ふと、北都は声が聞こえた気がして、神経を研ぎ澄ます。

「声がする……。誰か逃げ遅れた人がいるのかな?」
「ボクが行ってくるよ。どこから聞こえる?」
「あっちの方だね」

 北都がまだ炎の上がっていない一角を指し示す。
 アゾートは箒に跨ると飛び上がり、示された方角へと向かった。

 それを見送る北都に、頭上から声がかかる。

「お待たせ! 手伝いに来たよっ!」

 北都の前に三人の人物が降り立った。彼の送った救援要請に気がついたルカ達だ。

「燃え方が激しいな。仕方ない、あれを使うか」
 ダリルがクジラ型機晶生命体を変形させる。
 そしてバズーカの形を取ったそれを構えると、弾丸を発射した

 弾丸は一際大きな炎を上げていた木へと命中。爆発する。
 弾丸の命中した木は粉砕され、更にその周囲の木々を氷付けにした。

「森を破壊するのは正直気が進まねぇが……このまま燃え広がって全部燃え尽きちまうよりはマシだよな」
 そう言ってカルキも消火に加わる。

「ありがとう。僕らだけじゃ消火が間に合いそうに無かったから、助かったよ」
「どういたしまして。大切な森だもの、皆で守らなきゃね!」
 北都とルカが話していると、木々の間からアゾートが飛び出してきた。
 乗っている箒の後ろには見知らぬ人物もいる。

「この人怪我してるみたいなんだけど、誰か治せる人いるかな?」
「我が治そう」
 モーベットが答え、アゾートの元に向かう。
 アゾートの連れてきた少女は、右腕に火傷をしていた。
 モーベットがヒールをかけ、傷を癒していく。

 傷が完全に癒えるのを確認すると、北都がアゾートへと声を掛けた。

「消火は僕らに任せて、その子を安全な所に連れてってもらえるかい?」
「うん、分かったよ。気をつけてね」

 アゾートは少女を乗せたままその場から飛び去っていった。

 北都たちは懸命に消火活動を続ける。
 すると突然、耳をつんざくような奇声が響き渡った。

「え、何?!」
 ルカが声のした方へ振り向く。
 そこには、枝に炎が燃え移った木のモンスターがいた。
 モンスターは奇声を上げながら、炎を纏った枝を振り回している。
 枝が触れた植物たちに、次々と炎が燃え移った。

「大変だ、早く止めないと!」
 そう言って北都が駆け出そうとしたとき。

 燃えるモンスターの頭上に、突如大量の水が浴びせられた。

「よし、うまく命中したようだな」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が飛空艇から身を乗り出し、下に居るモンスターを見る。
 飛空艇の下には大きなシートの様なものがぶら下がっていた。
 先程まで沢山の水を蓄えていたそれは、今は風に吹かれゆらゆらと揺れている。
 
「そやつの相手はわらわ達に任せよ!」
 草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が後部座席から地上に居る者達へと叫んだ。

 甚五郎は焼けて平らになった地面へと飛空艇を着陸させる。
 二人は飛空艇から飛び降りると、先程のモンスターへ向け走り出す。
 大量の水を浴びた木のモンスターは大部分の炎こそ消えたものの、未だ枝や葉の一部が燃え、煙を上げていた。

「ゆっくりしている暇は無いのでな。早々に決めさせてもらうぞっ!」
 羽純が植物モンスターへとブリザードを放つ。
 燻っていた枝が凍りつき、動きの止まったモンスターに、甚五郎が接近する。

「はあっ!」
 そして百獣の剣を一閃すると、凍りついたモンスターの幹を叩き切った。
 幹の上半分が、大きな音を立てて地面に倒れる。

 甚五郎はモンスターが動かないのを確認すると、急ぎ飛空艇へと足を向けた。

「急いで消火に戻るぞ、羽純」
「うむ」

 甚五郎達は再び飛空艇に乗り込むと、森の外へと向かった。

 後部座席に座った羽純が森を眺め、呟く。
「ここには希少な薬草もあるというのに……
 まったく!どこの馬鹿者が森の中で火なぞ放ちおったのか!」
 炎の見える範囲はかなり狭まっていた。
 しかし、その周囲には燃えて消火された真っ黒な焦げ跡が残されている。

 その有様に、甚五郎も怒りの篭った声で言った。
「森を燃やした犯人にはお灸をすえてやらないといかんな。
 何処の誰だか知らんが、後で必ず見つけてやる!」

 やがて、森の近くを流れる大きな川が見えてくる。

 川の畔では、ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)が待機していた。

「あ、来た来た。 こっちですよー!」
 ホリイが大きく手を振り、甚五郎に合図する。

 甚五郎達の乗った飛空艇が着陸すると、ホリイとブリジットが手際よく準備を始めた。
 飛空艇とシートをフックで繋ぎ、水を溜められるようにする。

「今度はワタシが運搬を手伝いましょう。羽純はこちらで待機していてください」
「ふむ、了解した」

 羽純が飛空艇の後部座席から降り、代わりにブリジットが乗り込んだ。

 甚五郎がエンジンをかけ、飛空艇を空中で停滞させる。
 そしてホリイがポンプを使い、飛空艇底部に繋がれたシートに水を汲み始めた。

 汲み上げられた水が徐々にシート内へと溜まっていく。

「よし、もういいだろう。ポンプを外してくれ」 
 かなりの水が溜まったのを確認し、甚五郎が言った。

 ホリイがシート内からポンプを抜き取る。
「よいしょっと。飛んでも大丈夫ですよー!」

 ポンプを外したホリイが飛空艇に乗っている甚五郎へと叫ぶ。

「水の重さでハンドルがかなり重くなっているはずです。甚五郎、くれぐれも操縦には気をつけてください」
 ブリジットが念を押すように言った

「ああ、分かっている」
 
 甚五郎が少しずつ飛空艇の高度を上げる。
 水の溜まったシートが揺れ少しバランスを取られるものの、どうにか制御する。

 そしてゆっくりと、未だ煙を上げる森へ飛空艇を進めた。