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【第三話】始動! 迅竜

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【第三話】始動! 迅竜

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迅竜 甲板上

 迅竜の甲板上では艦載機が迫り来る“ドンナー”部隊を迎撃していた。
 発進した鮮紅は、迅竜の対空砲火を斬り払って防ぎつつ向かってくる“ドンナー”を迎え討つべく甲板上に着地した。
 即座にツインレーザーライフルを構え、鮮紅は光条を連続して放つ。
 しかし、迫り来る“ドンナー”部隊はビームを纏わせた“斬像刀”でビームを斬り払いつつ進んでくる。
『刀剣一本で勝負する機体だけあって、流石に遠距離からの攻撃に対抗する術にも抜かりはないようだな』
 同じく甲板上に立ち、すぐ近くで戦う鷹皇から鮮紅に通信が入る。
「ええ。量産機なのに一機一機が達人クラスの挙動……こんなのが大量投入されでもしたら……なんにせよ、このままでは押し切られるわ……!」
 戦慄しながらも蓮華はトリガーを引き続けた。
『今はとにかく敵を近付けないことが先決だ。甲板への着地はなんとしても防ぐぞ』
 返ってくるのは真一郎の冷静な声。
 パイロットと同様に鷹皇の挙動も落ち着いたものだ。
 無駄のない動きで高初速滑腔砲を構えると、付近を飛行する“ドンナー”の一体に向けて発射する。
 弾速の速い高初速滑腔砲は避けるのが難しいと判断したのか、標的の“ドンナー”は“斬像刀”を傾けて砲弾を両断する。
 砲撃戦の一方、発進したディースと輸送車の横合いから別の“ドンナー”“斬像刀”を振り上げて襲いかかる。
 それに気付いた蓮華は咄嗟に標的をその“ドンナー”へと切り替える。
 矢継ぎ早にトリガーを引きながら、蓮華は通信機に向けて叫んだ。
「ディースと輸送車を援護するわ! 鷹皇、応龍弐式【爆撃型】、ハーティオンも標的を合わせて!」
 通信を受け、すぐに鷹皇と応龍弐式【爆撃型】、そしてハーティオンも回頭。
 鮮紅と同じ標的に狙いをつける。
『了解だ』
『了解でーす!』
『任せてくれ!』
 コクピットのモニターには左下に真一郎、右下にはフルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)、右上にはハーティオンの映ったウィンドウが同時にポップアップする。
 今回、フルーネのパートナーであるローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)は別件で出払っており、今は彼女が一人で機体の操縦を担当している。
「一気に行くわ!」
 三機に合図を送ると、蓮華はトリガーを引きまくる。
 鮮紅がレーザーライフルを発砲したのに呼応し、鷹皇と応龍弐式も射撃武器を連射する。
 レーザーライフルの光条に混じって鷹皇の高初速滑腔砲、応龍弐式の二連磁軌砲、そしてハーティオンのキャノンからも放たれる砲撃。
 ディースと輸送車に襲いかかろうとしていた隙をつくように、四機からの砲撃が“ドンナー”に迫る。
 狙われた“ドンナー”は咄嗟に反応し、砲撃を斬り払おうとする。
 だが、隙をつかれた上にいかんせん砲撃の数が多い。
 斬り払いきれずに一発被弾した途端、その一撃で“ドンナー”はバランスを崩す。
 それが原因で斬り払いが遅れ、すぐにまた一発、そしてまたもう一発という具合に、“ドンナー”は次々に被弾していく。
 やがて“斬像刀”を持つ方の腕を吹き飛ばされ、斬り払いを試みることすらできなくなった所に集中砲火を浴び、この“ドンナー”は遂に大破、次いで自爆装置により木端微塵に爆散する。
「一機に対して複数で戦うのはセオリー。一対一に拘らなくてもいいと思うよ」
 通信機越しに言いながら、蓮華は鮮紅の頭部を動かし、メインカメラでディースと輸送車の状況を確認する。
 一機と一台が無事だったことにほっと胸を撫で下ろすと、蓮華は告げた。
「今のうちにイコン整備施設周辺に向かって! 要救助者が待ってるわ!」
 蓮華の言葉を受け、すぐさまディースと輸送車は加速に入った。
『感謝する』
『ありがとな。行ってくる!』
 飛都と剛利から立続けに通信が入り、直後、一機と一台はこの場を離脱していく。
 蓮華がほっと一安心したのも束の間。
 残る八機の“ドンナー”たちは標的を迅竜から、甲板上の機体たちへと切り替えた。
 “斬像刀”を振りかざしながら飛び、対空砲火の中を一気に突き抜けた八機の“ドンナー”たちは次々に甲板へと着地していく。
 まず手始めに“ドンナー”の一機が鷹皇へと襲いかかった。
 卓越した歩法で一気に鷹皇との距離を詰め、“ドンナー”は“斬像刀”を突き出した。
 鷹皇も果敢に反応するが、“ドンナー”が“斬像刀”を突き刺す方が僅かに速い。
 深々と“斬像刀”が突き刺さる鷹皇だが、なんと鷹皇はその状態で敵に組みついたのだ。
 すぐに“ドンナー”は振りほどこうとするも、鷹皇は離さない。
『カルキ! 替えのガトリングガンを出してくれ!』
 真一郎の声が通信帯域に響くや否や、貨物用カタパルトの稼働音も響き渡る。
『おうよ! ルカの愛の弾丸が詰まったのを持ってけ!』
 整備要員として待機していたカルキノスが操作したのだろう。
 ガトリングガンを乗せた貨物用カタパルトが凄まじい速度で疾走し、甲板上――正確にはそこに立つ鷹皇めがけてガトリングガンを射出する。
 一瞬、片手だけを“ドンナー”から離した鷹皇は飛んできたガトリングガンを見事にキャッチする。
 一方、片手だけの捕縛となったのを逃さず、ここぞとばかりに“ドンナー”は身を捩って鷹皇を振りほどきにかかった。
 “ドンナー”はもう、鷹皇を完全に振りほどく寸前だ。
 だが、そこまでで十分だった。
 完全に振りほどかれるよりも早く、鷹皇はキャッチしたガトリングガンを“ドンナー”の腹部に押し当てる。
『ああ――ルカルカからの愛の弾丸がまだまだあるからな』
 真一郎の返事が聞こえると同時、鷹皇はトリガーを引いた。
 けたたましい稼働音を轟かせながら回転する銃身は零距離から大量の銃弾を“ドンナー”へと叩き込んでいく。
 しばらくして装填された銃弾を撃ち尽くした鷹皇はガトリングガンを豪快に放り捨てると、空いた手で拳を握る。
 そのまま鷹皇は眼前にある“ドンナー”の頭部側方――人間でいえば横っ面にあたる部分を力任せに殴りつけた。
 更にもう一方の手でも拳を握ると、鷹皇は“ドンナー”の装甲が取れた腹部に向かって渾身のボディーブローを叩き込む。
 真一郎の『殴り合いがしたい』という意向に基づく攻撃だが、結果的にはそれが鷹皇とパイロットたちを救った。
 すっぽりと抜けた“斬像刀”を持ったまま殴り飛ばされる格好になった“ドンナー”は甲板の外へと落下していき、自爆装置の起動により空中で爆破四散する。
 もし、殴り飛ばすのが後一瞬でも遅れていれば、今頃鷹皇は巻き込まれていたことだろう。
 無茶苦茶な戦い方だが、どうやらそれは鷹皇だけではないようだった。
 応龍弐式は応龍弐式で似たような戦い方をしている。
 機体サイズの関係で、ドンナーは応龍弐式に上方から跳びかかって斬らざるを得ない。
 それを利用し、応龍弐式は跳びかかってきた“ドンナー”にノーガードを晒したのだ。
 無論、ダメージは覚悟の上だ。
 それは功を奏し、振り下ろされた“斬像刀”は応龍弐式の機体に半ばまでめり込む。
 だがその瞬間、機体に装備された二連磁軌砲が火を吹いたのだ。
 超至近距離から二発の砲撃を受け、“ドンナー”は応龍弐式にとどめを刺せるだけの深さまで斬り込むより前に、甚大なダメージを受けて後方へと吹っ飛ばされる。
 やはり甲板の外で爆破四散する“ドンナー”。
 その頃、ハーティオンも“ドンナー”の一機と戦いを繰り広げていた。
『ぬうう……なかなかの強敵だ!』
 既にハーティオンは至近距離まで“ドンナー”に接近されてしまっている。
『くらえ、ハートビート・キャノン!』
 “ドンナー”に向けてキャノンを撃つハーティオン。
 だが、至近距離にいる“ドンナー”は咄嗟の反応で更に前進し、砲口よりもハーティオンに近付くことで砲撃を回避する。
 そればかりか一気にほぼ零距離へと飛び込んだ勢いを利用して、そのままハーティオンへと“斬像刀”を叩きつける。
『ぐっ……確かに強力な攻撃だ! だが、まだまこの程度で倒れる私ではない!』
 胴体を袈裟架けに斬りつけられるも、ハーティオンは何とか耐え抜く。
 “斬像刀”の刃は振動とビームコーティングのおかげで、頑丈なハーティオンの装甲をも易々と削り取っていく。
 対するハーティオンはバックステップで移動し、完全に斬り裂かれる前に脱する。
 とはいえ、依然として至近距離で相対していることには変わりない。
 “ドンナー”の得意とする間合いの戦いであることに違いはないのだ。
 しばしハーティオンが“ドンナー”と睨み合っていると、通信帯域に鈿女の声が響く。
『ハーティオン、グレート勇心剣を使いなさい』
 何の迷いもない鈿女の声。
『し、しかし……』
 しかしその一方でハーティオンの声には迷いが感じられる。
『貴方の言う通り、相手はなかなの強敵よ。即ち、グレート勇心剣を使うに足る相手だわ』
 やはり迷いのない鈿女の声。
 だが、ハーティオンはいまだ睨み合いを続けるだけだ。
『ハーティオン、貴方はいったい何を迷っているの?』
 問いかける鈿女に、ハーティオンは未だ迷っている様子で返事をする。
『鈿女の言う通り、相手はグレート勇心剣を使うに足る強敵だ』
『なら迷う理由はないはずよ? ハーティオン』
 するとハーティオンはどこか苦渋を感じさせる声で答えた。
『敵は近接格闘、それも剣を使った戦いに特化した機体だ……いかに私のグレート勇心剣といえど、奴の剣に勝てるかはわからない……』
 ハーティオンがもらした苦渋の声で鈿女は事情を理解した。
 鈿女はどこか諭すように、それに加えて励ますように語りかける。
『ハーティオン。聞きなさい。貴方が今まで学んできた『人の心』はそんなものだったの? 貴方が見てきた人々はたとえ勝ち目の薄い戦いであっても、そこで退いたら守りたいものを守れない場であれば立ち向かっていった筈よ』
 諭すように、そして励ますように、鈿女はなおも語り続ける。
『人の心を学んできた貴方なら、かつて彼等ができたように勝利をその手に掴むことができる筈よ』
 その一言で迷いを振り切ったように、ハーティオンはグレート勇心剣を取り出す。
 ハーティオンが剣を構えたのを見て取った“ドンナー”は一気に距離を詰め、超至近距離まで即座に肉迫した。
 その距離まで到達すると同時に間髪入れず“ドンナー”は“斬像刀”を、先程と同じく袈裟架けに振りかざす。
 “斬像刀”による一太刀が見事に決まり、盛大に火花と装甲を散らすハーティオン。
 だが、それでもハーティオンは倒れる寸前で踏みとどまる。
『勇気ある限り……私は死なない!』
 “斬像刀”の直撃によるダメージを受けながらハーティオンはグレート勇心剣を振りかぶる。
『行くぞ……見せてやる、勇気の力を――勇心剣! 流星一文字斬り!』
 満身創痍の状態からハーティオンは全身全霊の一太刀を繰り出す。
 ハーティオンを今まさに斬りつけている最中の“ドンナー”はそれを避けられない。
 振り下ろされた刃は“ドンナー”の頭頂部に炸裂し、そのまま機体を縦に一刀両断する。
『これが……勇気の力だ!』
 一刀両断した瞬間、“ドンナー”は残骸が二つに割れるより早く木端微塵に爆散し、迅竜の甲板の一部もろとも消滅したのだった。
 一方、鮮紅と相対する機体も同様の戦い方をされて圧倒されていた。
 懐まで飛び込んだ“ドンナー”は鮮紅がツインレーザーライフルを向けるよりも先にそれを二挺とも斬り落とした。
 だが、コクピット内の蓮華に焦った様子はない。
 むしろ、より気迫をたぎらせた様子でコンソールを叩き、操縦桿を倒す。
 コンソールと操縦桿からの信号を受けて、鮮紅は腰部のハードポイントから試作型のカットアウトグレネードを取り出す。
 更に鮮紅は、自分が巻き添えをくうのも厭わずに、超至近距離からそれを相手の顔面めがけて投げつけたのだ。
 咄嗟に手首を傾け、最小限の太刀捌きでそれを斬り払う“ドンナー”。
 しかしながら、たった今斬り払ったのはグレネード――即ち、榴弾。
 斬り払ったことによって爆発したカットアウトグレネードは特殊な磁場干渉波を発生させた。
 爆発そのものの直接的な威力は低いが、磁場干渉波は一時的に機晶石を動力としたエネルギーに干渉するため、エンジン、レーダーを機能不全に陥らせ、“ドンナー”の動きから精彩を奪う。
 無論、巻き添えをくった鮮紅もたたでは済まない。
 それでも蓮華は機体がオーバーロードすることも厭わずにすべての出力を最大まで上昇させ、磁場干渉波によって低下した分のパフォーマンスを強引に補填する。
「どう?女は怒らせると怖いのよ」
 会心の笑みを浮かべる蓮華。
 聞こえているかどうかは気にせず、接触回線で“ドンナー”に向けて言い放つと、蓮華はへし折らんばかりに操縦桿を倒し、踏み抜かんばかりにペダルを踏み込んだ。
 機体各所のアクチュエーターから過負荷による煙を吹きながらも、鮮紅は“ドンナー”を羽交い絞めにしはじめたのだ。
 羽交い絞めが決まっていくにつれて、“ドンナー”の各所から鈍い音が聞こえ始める。
 無理な出力上昇と関節の酷使による過負荷で、鮮紅のコクピットモニターはアラートメッセージに埋め尽くされていた。
 同じく危険を知らせようとアラート音もひっきりなしに鳴り響いている。
「イコンは本来こういう動きをするようには作られていないんだぞ。分かってるか?」
 スティンガーが苦笑混じに言う。
「えっ、だって……つい?」
「やはり苦笑混じりに言いながらも、精一杯応力分散と姿勢制御等に努めるスティンガー。
 ふと彼は何かに気付いたようだ。
「いや、まてよ…。丁度良いから敵の関節をキメてやるか。敵機関節を、予定外の方向に稼動域を越えるように過重!」
「あいよ!」
 威勢良く答える蓮華は、今度は操縦桿をもぎ取らんばかりの勢いで倒す。
 鮮紅が全力をもって締め上げているおかげか、“ドンナー”の各関節が一つ、また一つと鈍い音を立ててへし折れていく。
 遂には“斬像刀”を持ったままの腕もだらりと垂れ下がる。
 それを見て取ったスティンガーは蓮華の威勢に当てられたように叫んだ。
「とどめだ!」
「あいよっ!」
 先程よりも更に威勢の良い声で応えた蓮華は、操縦桿を倒しながらペダルを踏み込んだ、というより蹴り込んだ。
 二人の威勢の良さがうつったかのように、鮮紅は豪快な動きで“ドンナー”を逆さに持ち上げる。
 そして、鮮紅は“ドンナー”を甲板に叩き付けた。
 こうして見事なパイルドライバーが決まったのである。
 迅竜の甲板に大穴が開くほどめり込み、“ドンナー”は機能を停止する。
「やったわね」
 ほっと一息を吐く蓮華、だが、スティンガーは焦っているようだ。
「お、おい……早くコイツを外に捨てないと――」
 そこまでで十分だった。
 弾かれたように蓮華は操縦桿とペダルを操作し、鮮紅にめり込んだ“ドンナー”を引っ張り上げさせる。
 すぐに鮮紅は“ドンナー”の両脚を掴むと、円を描くように回転を始める。
「間に合って――!」
 何度目かの回転の後、十分に勢いのついた鮮紅は“ドンナー”の両脚を掴む手を離した。
 見事なジャイアントスイングが決まった直後、空中で“ドンナー”は爆破四散した。
 従来機がそれぞれ単機で一機の“ドンナー”を撃破するという大金星。
 しかし、被害は甚大だった。
 鷹皇と応龍弐式、ハーティオンの三機は“斬像刀”の直撃によるダメージで、鮮紅はオーバーロードと関節の疲弊で既に動けない。
 一方、残る四機の“ドンナー”は万全の状態だ。
 もはや動けなくなった三機には目もくれず、五機の“ドンナー”は甲板を飛び立ち、ブリッジへと向かって行った。