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【第三話】始動! 迅竜

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【第三話】始動! 迅竜

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 同日 シャンバラ教導団所有 某研究施設
 
「加藤博士――あの人ならよく存じてますよ」
 教導団の保有する、とある研究施設を訪れた、黒崎 天音(くろさき・あまね)は加藤博士の調査の為に潜入していた。
 謎の敵への対処に使われている剣竜だが、相次ぐ戦闘で十分なテストを行う為のパイロットが不足しているという噂をどこからか聞きつけ、上層にイコン開発施設へのテストパイロットとしての協力を申請する。
 マスターニンジャの身体能力と今までのイコンパイロットとしての経験を根拠に申請した所、申請は見事に通り現在に至る。
 いくつかのテストによって身体データを取っている合間に、天音は担当の研究者に話を振ってみたのだ。
 すると、どうやらその研究者は当たりだった。
「そういえば加藤博士は優れた古武道の使い手でもあるという話だけど、どんな人物なのかな?」
 この情報源が当たりだとわかると、天音はつっこんだ所まで質問してみる。
「仰る通り、加藤博士は古武道を修めておられます。専門であるマスタースレイブの研究にも役立てておられたようですよ」
「なるほどね。なら、やっぱりいつも日本刀を脇に置いていたりするのかな?」
 あえて冗談めかして聞いてみる天音。
 すると研究者の方は本当に冗談だと思ったのか、気軽に答える。
「まさか。いくらなんでも、そこまでではありませんよ。もっとも、その必要もあまりないでしょうが」
 ふと気になった天音は即座に問いかけた。
「どういうこと?」
「ああ、ご存じない? 加藤博士には凄腕の護衛がいつもついているんですよ」
 初耳だった為か、天音は驚きと興味を禁じえない。
 それを察した研究者は更に語ってくれた。
「岡崎軍曹と仰る方で、元は教導団ではなく葦原島にいた古流剣術家の方だったそうで。マスタースレイブ研究の為に葦原島を訪れた際、加藤博士と出会って意気投合して以来、深い友人関係にあるそうですよ。そもそも軍曹というのも、加藤博士が彼を専属の護衛として雇う為に面倒がないよう、国軍に取り立てたからです。加藤博士は彼を相当気に入っていたらしく、教団での地位をかなり使って陳情したらしいですけどね」
 測定した身体データのカルテに不備が無いかチェックしながら、研究者はなおも語る。
「彼の方も彼の方で、加藤博士を師と仰ぐくらいには慕っていたそうですから。ほら、加藤博士は老齢に近いのに対し、岡崎軍曹は老齢でもありませんし」
 驚きでしばし絶句する天音。
 それを興味深さゆえに聞き入っているのだと解釈した研究者は、またも語り出す。
「だからこそ、今、貴方をパイロットしてテストしてる機体――剣竜が発見された時には驚かれたものですよ。当時、加藤博士はヒラニプラのとある場所に自分の研究所を持っていましてね。そこで護衛の軍曹と二人だけで研究していたんですが、そこが襲撃されて」
「襲撃……!?」
「ええ。研究所にあったマスタースレイブのデータや試作品が奪われましてね。犯人は不明なんですが、相当な戦闘力の持ち主だと推定されたんですよ。なにせ、生身の剣術おいてはもちろん、イコンに搭乗しての剣術でも凄腕だった軍曹がついていながら、結局、博士も拉致されてしまったんですから。二人は行方不明。そして後日、研究所の前に剣竜がまるで『返却』されるように放置されているのを諜報部が発見した、というわけです」
 天音は驚きで瞬きすら忘れている。
「で、犯人は更に岡崎軍曹も愛機ごと奪っていったようですね。調査の結果、剣竜のベースとなったのは岡崎軍曹の専用機としてカスタムされた鋼竜だということが判明しまして。剣竜唯一の武装である弐〇式高周波振動刀剣も元は、その鋼竜が使っていた超高周波ブレードですから」
 そこまで語ると研究者はカルテのチェックを終えたのか、紙の束を纏め始める。
「それでは、私はこの書類を一旦保管して来ますので、それまで休憩していてください」
 研究者が部屋を出て言った後、天音の護衛として傍についていたブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)はふと天音に言った。
「マスタースレイブの研究者に凄腕の護衛か、……よもや彼等本人が乗り込んでいるという事はないだろうが」
 冗談めかすが、何故か薄ら寒いものを感じるブルーズと天音であった。