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リアクション
「……悪趣味だわほんと」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は目の前に転がっているものを見た。それはセレンフィリティだけではなくそこに居た全員に衝撃をあたえた。
その物体は、やはり人間のような形とライオンが混ざったようなキメラ。しかし、すでに事切れていた。
セレンフィリティを始めとし、卜部 泪(うらべ・るい)達はアゾート達とは別に洞窟を行動していたところ、このように数体のキメラを見つけたのだった。
「楓を連れてこなかったのは正解だったか……楓は拉致されて改造されたトラウマがあるからな」
灯真 京介(とうま・きょうすけ)は転がるキメラの死体を哀れむように眺める。そこに生きているキメラはすでに居ないようだった。
キメラの体に損傷などが無いことから、何かの病気か実験の失敗によって死んでしまったのだろうと京介は考えていた。
その姿がパートナーであるパラミタの研究員によって改造された楓とかぶって見えてしまっていたのだった。
「なんとしても生存者を探し出しましょう……楓のためにも」
横でぽつりとリル・ファティス(りる・ふぁてぃす)がつぶやく。リルもまた、同じようにキメラの姿を楓とかぶせて見えていた。
京介はリルの言葉に「ああ」と頷いた。
「こんな事をしたやつを同じ目に――それ以上の目に遭ってもらうわよ!!」
「落ち着きなさい、まずは生存者が居ないか確認をするのよ」
「そんなの――」
苛立つセレンフィリティにセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は落ち着かせるように声をかける。
セレンフィリティはそれを頭では理解し、なんとか落ち着こうとするが怒りという感情を押さえつけることは無理だった。
「おい! こっちになにかあるのじゃ!」
草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が突然声をあげ、洞窟の奥を指す。
セレンフィリティ達ははっとなり、そちらへと見上げる。そこには、鉄の棒が地面から天井まで何本も突き刺さっており、牢獄の形をしていた。
その自然の岩に穴を掘ったようにして出来た、牢獄の奥には数人の人間達が眠るようにして横たわっているのが見えた。
「あれは……人間がとらわれているのか?」
あくまで冷静に状況を判断しようと夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は牢獄をのぞき込む。
動く人こそは居ないものの、何か動物と合わせられた形跡などが無いことから手をつけられていないのだろうと甚五郎は思った。
「まあ、あれをさっさとぶっ壊して開けてみればわかる事だぜ!」
オリバー・ホフマン(おりばー・ほふまん)が先になって、何本も突き刺さる鉄の棒を無理矢理こじ開けようとした時だった。
「嫌な臭いが近づいてくる!!」
「なっ、なんだよ突然!」
フォグホーンが突然声を上げる。その声にオリバーは驚き、慌てて牢獄の檻から手を離した。
「嫌な臭いですか?」
泪もそれを聞き洞窟をぐるりと見渡した。近づいてくるとすれば自分たちの入ってきた背後なのか、それとも今から向かおうとする前方どちらか。
直感からか前方を泪は注意深く眺めた。
「クスクス……さすが、獣人さんね。気配は消していたつもりなのに、においで気づくなんて」
奥からゆっくりと現れてきたのは斉藤 ハツネだった。
「……あなたがこんな事をやったの?」
セレンフィリティが低く響くような声でハツネに聞く。ハツネはただそれを笑って返した。
「どうなのかしら、ねえ?」
ハツネは後ろへと視線を向ける。そこにはまた1人若い男性が両腕を広げて立っていた。
男性はまたハツネと同じように意地悪い笑みを浮かべた。
「ククク、コレは良い実験材料達が集まりましたね!」
「お、おまえは村長の息子!?」
その見知った顔に、ダーは驚きの声を上げた。
「待っていましたよダー。地祇であるあなたを遙かに超えた力を私は手に入れたのだよ」
「何を――」
突然、轟音が洞窟に響く。ダーは首元をつかまれ、洞窟の壁へと打ち付けられていた。
「ガッ――お、おまえそのちからは――」
自身の首をつかむ男の腕にはびっしりと血管が浮かび上がっている。さらに村長の息子の顔には、赤い眼光がともっていた。
ダーにはそれがもはや人間では無く、キメラのような改造人間になっているのだとすぐに分かった。
「ダーっ!!」
慌ててフォグホーンはダーへと駆け寄ろうとする。
が、フォグホーンもまた突然目の前を走った白い線によって、洞窟の壁へとたたきつけられる。
「グガアアアアアアアアッ!!」
「ちっ」
甲高い鋭い獣の鳴き声が洞窟を響き渡る。白い体毛、しっぽ、すらりとした狼の体つきをしていた。
その獣の殺気を感じ取ったセレンフィリティは舌打ちをしながらも素早く銃をその獣、天神山 保名(てんじんやま・やすな)に構える。
「な、何なんだあの獣みたいなのは」
「キメラ……ではないのですね」
京介とリルは突然現れた白い狼に、どう対処すればいいのか混乱していた。
しかし、今はそれよりも牢獄に捕まっている人間を助ける方が先だと思った京介は後ろへ振り返り牢獄へと向かう。
そちらでは甚五郎達が何とか牢獄から人を救い出そうとしているところだった。
「カギがかかってるふうでもないか……」
「甚五郎、当機の自爆を承認しますか?」
「おい、その自爆って規模はどうなんだ」
「計算では洞窟ごと崩壊します」
「おいっ!! 俺たちも死ぬだろそれ!」
「はい」
ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)の機械的な提案に甚五郎では無く、オリバーがツッコミを入れる。
ブリジットとしては、至ってまじめに監獄を破壊する方法を提案したため、なぜツッコミされたのか分からなかった。
甚五郎はそんなやりとりを気にもせず、淡々と牢獄を調べ回る。
「甚五郎、間違いない。こやつらは生きておる。しかも人間としてな」
少し離れた方で、監獄の中を観察していた羽純が声を上げる。羽純は召喚者の知識を用いて監獄で横たわる人間を観察していた。
その結果、キメラとしての特徴はひとつもなく、人として生きていると言うことが分かったのだった。
「さてこの檻、どう開けたものか」
「私のソニックブレードで壊せる気がします」
唸る甚五郎に背後からリルが声をかける。
「むっ、そうか鋭い刃で制すればおそらくは……頼む」
甚五郎がその場を離れると、リルはソニックブレードを放とうとする。
「こちらは手をださせませんよ?」
リルの背後から声がした。その距離は10センチにも満たない、まるで耳元に直接声をかけられたような気がし、リルは慌てて振り返る。
そこには天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)が立っていた。
「どうしても手を出すというのならあなた達に、生け贄になってもらいましょう」
葛葉が杖を取り出すと、どこからかキメラ達がぞろぞろと数体現れてくる。
「キメラを作ったのはおまえか……」
「そんなことはどうでも良いでしょう? そんなことより、早くあちらにいらっしゃる【白面九尾】様を止めないと滅びますよ?」
「何がだ?」
甚五郎の問いかけに葛葉は地面を指さした。
「洞窟……か?」
「この森と村ですよ?」
葛葉の言葉に甚五郎を始めとしその場で聞いていた全員に戦慄が走った。
「戦うしか無いね……」
「そのようだ」
京介と甚五郎は剣を取り出すと、同時に葛葉に向かって襲いかかった。
先に京介の剣が振り下ろされるが、それを受け止めたのはハツネだった。
ハツネと京介の剣の間には何か見えない壁のようなものによって阻まれていた。
「クスッ。良い動きね。これならもうちょっと遊べそう♪」
「っ……このっ!」
京介は剣を一度ハツネから離すと再び振り下ろす。
「ほら、僕はこっちですよ」
「減らず口をぺらぺらとしゃべるもんだ」
甚五郎の横殴りの剣の雨を、葛葉は軽やかに避けていく。しかし、確実に洞窟の壁へと甚五郎は追い詰めていた。
そして、いよいよ壁に追い詰めたと思ったとき、葛葉は杖を取り出しフールパペットを使った。
「キメラか」
途端甚五郎の前に現れたのは、先ほどまでじっとしていたはずの4体のキメラ。甚五郎を囲むようにして、キメラは今かと襲いかかるタイミングを見計らってるようだった。
どうしたものかと甚五郎が考えていると、オリバーが両腕拳を突き出し、キメラへと鳳凰の拳で殴りかかった。
「ちょっと眠ってな!!」
「ギャルルルルッ――」
キメラは強い衝撃を背中から受けると、よろけ倒れそうになる。が、体制を整えると再び襲いかかってくる。
「げっ、効かねぇのか!?」
「背骨の真ん中あたりを狙うのじゃ!!」
「真ん中あたりですか」
羽純の助言を聞き、ブリジットはマスケット銃をキメラの背骨、真ん中を狙い撃った。
「グガアアアアアアッ!!」
「おお! 倒れたぞ!」
キメラが一体、地面を揺らして倒れる。思わずオリバーは両腕を挙げて喜んだ。
しかし、羽純と甚五郎はのこり三体のキメラへと集中を向けていた。
「おや、弱点を見つけるとはさすがですね。でもこれはどうでしょう?」
葛葉は残りのキメラ達を一斉に甚五郎達へと襲いかからせたのだった。
「そっちに行きました!!」
「当たらないわ!!」
泪が合図を送るも、セレンフィリティは苦戦していた。
銃口を逃げ回る保名に向けて、何度も発射するが見事にすべて逃げ切られてしまっていたのだった。
「なら、これでどう!?」
保名の逃げる先で前もって、構えていたセレアナは剣を構えると素早く保名の横腹へと振る。
が、それをも保名は横へと飛躍し避ける。
「ナイス!」
セレンフィリティはスナイプで保名の横腹を狙う。そして、銃声音とともに弾は見事に命中した。
「グッルルルルッ」
悲鳴のような怒りの鳴き声を、保名はあげた。
「やった?」
「ええ、これでおとなしくなればいいのだけれども――」
セレンフィリティとセレアナが喜ぶもつかの間、保名はすぐにセレンフィリティ達へと失速のごとく突進をしてくる。
その突進はまるで鉄球が突進してくるようだった。
「逆に怒らせたみたいね」
「知らないわよ、こんな事件を起こしておいて今更怒らせたも無いわ」
セレンフィリティは心の奥底から怒りを感じながらも、冷静に保名を倒そうとしていたのだった。
「はーはっはっは!! もう私は誰にも止められない!」
「ぐがっ……」
洞窟の床にダーとフォグホーンは転がっていた。フォグホーンは薄れゆく意識の中かろうじて地面の冷たさを頬で感じ取っていた。
ぼやける視界では、村長の息子が赤い眼光を光らせ虫でも見るかのように見下ろしていた。
「まったくすばらしい! この体ならば神をも軽く凌駕する」
「その力……キメラと同じ人体改造か」
「む、まだ意識があったか」
すでに虫の息になっているダーに村長の息子は、驚く。だが、ダーにはすでに立ち上がる力さえも無くなっていた。
村長の息子はそれが分かると、足をダーの腹部へと強く踏みつけた。ダーは声にならない悲鳴を上げる。
「ふっ、たわいもなかったな。このまま足でおまえを殺してやろうか?」
「ぐ、や、やめろ!!」
フォグホーンが横から声を上げる。だが、フォグホーンも同じくして力に限界が来ていた。
「ほう、しぶといな……ひと思いに瞬殺してやろう」
ダーから足をどけると、村長の息子はゆっくりとフォグホーンへと歩み寄っていく。
「今だよ!!」
「わかってるのじゃ!」
突然アゾートとパクトの声が響く。同時に、村長の息子は緑色の光に包まれた。
「ぐううううっ!! 小娘ども、なぁにをしたあああああっ!!」
突然、胸をつかみ苦しみ出す村長の息子に、パクトは軽蔑の視線を送った。
「力をほしいために、自らを犠牲にするにはちょっとリスクが大きかったのじゃ」
「なに?」
パクトの魔術は村長の息子にただ力を増強させるものだった。
しかし、それはパクトの心臓、筋力を増強させすぎたためにそれぞれの器官が麻痺したのだった。
「覚悟だっ!!」
間髪入れず、ダーが剣を村長の息子の胸元へと刺す。
「な……ぜ……だ」
村長の息子は口から鮮血を吐くと地面に倒れ込んだ。
「ふむ……保名もそろそろ弱っていますね。そろそろ頃合いでしょうか」
「何を言ってるんだ?」
京介と対峙していた葛葉はそう言うと、突然声を高く叫んだ。
「保名様!生贄はここですよ!」
「グルルルッ!!!!」
セレンフィリティ達と対峙していた、保名は葛葉の声を聞くとそちらへ振り向いた。
すると葛葉は先になって洞窟の外へ向かって走り出した。それを保名は獲物を捕らえるように追いかけていった。
「えー、もう終わりなの〜」
ハツネは名残惜しそうな声を上げる。甚五郎はその瞬間ハツネに隙が出来たのを見逃さなかった。
甚五郎の剣が風を切り、素早くハツネの胸元へと剣が突きつけられた。
が、そこにハツネは居なくなっていた。
どこに行ったのかと甚五郎は周りを見渡すと、先ほど葛葉達の走った方へとハツネは立っていた。
「……逃げるつもりか」
「ん〜、楽しかった〜。でももうちょっと遊び足りないかなあ♪ てわけで、最後の仕・上・げ♪」
ハツネは人差し指を口元に立てると、不気味な笑みを浮かべた。
突然ハツネの手元から何かが飛び出る。
「しまった!!」
甚五郎はその何かが飛び出た先、生存者がとらわれているはずの監獄を振り向いた。
監獄の中にはもう人の形をしたものは無くなっていた。
そこ残っていたものは、フラワシによってばらばらに切り刻まれた鉄格子、一面真っ赤、散らばった肉の塊。
甚五郎は絶望しながら、怒りのままにハツネへと襲いかかろうとするが、ハツネはいなくなってしまっていた。