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■第三幕:悪の秘密結社設立の経緯

 ある依頼が書かれた一枚の用紙を手に、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が蒼空学園分校の廊下を早足で歩いていた。
「多感な学生が多いって話は聞いてたけどなあ……」
「明確に悪を自称する者の依頼を掲示するなんて何を考えてるのかしら」
 やれやれといった様子のシリウス。
 対してリーブラはむすっとした表情を浮かべていた。
 納得いかないのが目に見えるようだ。
「悪への憧れってのはハシカみたいなもんだからな。もう何人か参加しちゃってる気がするし、オレは現場を収拾してくる。裏取りは頼むぜ、相棒」
「現場の事はお任せしますわ、シリウス。わたくしは依頼の出された経緯を職員の方に聞きこんでみます。なぜ教員がこのような依頼を掲示することを良しとしたのか、責任問題含めて洗いざらい聞きますわ」
 二人は一度手を合わせると各々の目的に向かって歩き出した。

                                   ■

「すまん! 実はあれは手違いでな」
「手違いで生徒を犯罪に加担させてごめんで済みますかっ!!」
 両手を合わせて頭を下げてくる教員にリーブラは正論を述べる。
「いや、手違いといっても掲示はする予定だったんだよ」
 リーブラは要領を得ないといった様子でジト目で教員を見つめる。
 彼は頭をかきながら言った。
「ある程度の経験をつんだ生徒たちに事態の収拾を依頼として出す予定だったんだよ。この動物保護の依頼なんだが、悪の秘密結社とあるが実際は動物愛護団体なんだ」
「これは意外な事実が出てきましたわね」
「それでな、襲撃予定の動物園なんだがここも元々は動物愛護団体なんだ。経営が厳しいようでな、動物たちの飼育がおなざりになっている部分もあるらしい。そこを問題だとして動物開放をすることを決意した依頼主が、犯罪だとしてもやめられないと団体名を変えて依頼を出したというわけだ」
「……話し合いで解決できそうな気がしますわ」
 ため息をつき、リーブラは鋭い視線を教員に向ける。
 口の端を持ち上げて、満面の笑みを浮かべて聞いた。
「まぁ失敗は誰にでもありますし徹底的な糾弾はしませんわ。ただそれを受けて犯罪を犯した、犯しそうになった生徒が出たら、それは学園も責任を持つべきですわね? 生徒が反省しているなら、今回は大目にみてもらえますわね?」
「それはもちろんだし、すでに手は打っているよ」
 教員はリーブラと視線を合わせると続けた。
「依頼があったことを動物園側に伝えてあるんだ……それに学園側でも応援は要請している。最悪の事態にはならないはずだよ」