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リアクション
■幕間:大団円
「本当に正しいのかな?」
狐のような耳と尻尾が特徴的な少女が男に問う。
男はさきほど風里たちに動物保護を訴えていたこの件の首謀者だ。
彼は答える
「当然だ。人の勝手な考えでこのような檻に閉じ込め、あまつさえしっかりと飼育もされていない。この動物園の現状を見れば一目瞭然だろう」
「そうね。あなたの主張も分かるわ。でもあなたが取った行動は正しいのかしら?」
少女の隣、鮮やかな緑色の髪を後ろで束ねている女性が言った。
男を見据える瞳には強い意志が感じられた。それは男の意見がすべて正しいとは感じられていない、逆に間違っているという気持ちが表れているように見える。
「動物達と触れ合ったり、行動を観察して成長する子供達が悲しむんじゃないかな?」
少女、雲入 弥狐(くもいり・みこ)の言葉を男は一笑する。
「こんな状態の動物たちを見ては子供たちの教育にもよくないだろう」
「ちなみにこの動物園。元は動物保護団体だったらしいわよ」
「……だからなんだというのだ」
「動物たち自身には大きな不満はないみたいだわ。自分たちは保護されているという自覚があるようですね」
「動物達もさ、力はあるし、逃げようと思えばいくらでも逃げられると思うよ」
女性、奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)の言葉に雲入が続いた。
「例えそうだとしても、だ。動物たちの痩せ細った姿を見て手を差し伸べずにいられるものか!」
「んー……そう言われると――」
雲入が言いよどむ。
だが奥山は真っ直ぐに男を見据えると口を開いた。
「でも何の話し合いも持たずにいきなり実力行使というのはいただけないわ。本当に動物たちのことを考えるなら話し合いの場を用意して改善を要求するべきなのよ。こんなことをしたら動物たちにストレスを与えてしまうわ」
「むう……」
この正論には反論の余地がなかったのだろう。
男は口を閉ざした。
奥山が諭すように説得を試みる。
男は静かに話を聞いた。ときおり考え込み、また相槌を打つ。
しばらくして男は奥山に促されるまま、動物園の管理人の元へ向かった。
■
シリウスに背負われていた風里が目を覚ます。
「……ここは?」
「あ、気がついた? まだだめよ、手加減してもらってるとはいえ、気を失うくらいの衝撃だったんだから」
隣を歩いているエリスに視線を向ける。
心配しているような、呆れているような、そんな表情を浮かべていた。
「煉さんが怒った理由、わかる? 私達の力は普通の人より遥かに強いわ。だからこそ、使い方を間違えちゃダメなのよ」
「そうだぞ。まあ法より国より大事なモノがあるってヤツもパラミタには大勢いるけどな……義賊とか、さっきの秘密結社の兄ちゃんとかな。だが犯罪は犯罪だ。覚悟がなきゃあいつらと同じ道は進めないぜ」
前を見据えたままシリウスが話す。
「……っと挨拶が遅れたな。オレはシリウス、百合園とニルヴァーナで教師をやってる……まだ実習生だけどな!」
「ええ……ああ、よろしく……」
まだ意識がはっきりしていないのだろう。
風里の反応は鈍い。
「それで、悪の道体験入学はどうだった?」
「白衣のお兄さんと遊ぶのは嫌いじゃないけど、さすがに化物を敵に回したいとは思わないわ……もうコリゴリよ……」
化物、というのは桐ケ谷のことだろう。
たしかに風里との実力差を見れば化け物と呼んでも差支えない。
「それに――」
風里がエリスに視線を送る。
なんだろう、とエリスも風里を見た。
「私、説教されるのって嫌いなのよ。ずっと甘やかされてきたから……」