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リアクション
■幕間:各々の立場
「心配になって来てみたら……」
「――医学部教諭、九条先生?」
悪の秘密結社の依頼を受けて動物園に来ていた風里の前に、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が姿を見せた。
「なんでここにいるのかしら?」
「それはこっちの台詞だよ。ちなみに私は例の依頼で、どちらが正しいか分からなかったから現状を把握しに来たの。良かったら一緒する?」
「優里ならうんって頷くところね」
「風里さんは?」
「私は依頼は受けるのは面白そうだから確定だけど、何も分からないまま使われるのって好きじゃないから――」
彼女はスカートの両端を持って優雅に一礼した。
「同行するわ」
「じゃあ、行きましょうか」
九条は風里を引き連れて園内を回る。
結構な数の動物が飼育されているが、飼料が足りていないのか全体的に痩せている動物が多い。飼育員もあまり見かけられず、人員も少ないのではという疑念がよぎる。
「悪の秘密結社、まさかの正義の味方フラグかしら?」
「どうかな? 動物保護とは言っているけれど、やろうとしていることは犯罪に分類されることだから。正義の味方というにはワイルドすぎるかな」
それに、と九条は動物たちの様子を眺めながら続ける。
「痩せ細ってはいるけど殺気立ってる子はいないようですよ」
「大事にはされてるのね」
「みたいだね」
まずは話を聞こうと九条たちが動物園の責任者に会いに行っていた頃、時を同じくして及川たちも動物園へと足を運んでいた。
「どう?」
及川がミリアたちに聞いた。
彼女たちの目の前には檻があり、中には幾匹かの猿の姿があった。
「そうですね。意訳すると『小娘が気安く俺に話しかけんじゃねーよ。こちとら腹が空いて気が立ってんだ。俺とお茶したけりゃ土産の一つも持ってくるんだな』って感じです」
「……うふふ」
アリスが微笑を浮かべながら檻へと近づく。
「さて、次は向こうの檻に行きましょうか。皆さん、ちゃんとついてきてくださいね」
ミリアの誘導に従って詩亜が猿たちから離れていく。
しばらくして、猿の泣き喚く声が周囲に響いた。
彼女たちが動物たちの声を聞いてまわった結果、少なからず改善は望んでいるようではあったが、特に大きな不満というものは感じていないようだった。
■
「お話はわかりました」
九条と風里は管理人室を後にした。
得られた情報はこのようなものだ。
曰く、この動物園の前身は動物愛護団体だったとのこと。動物保護と維持活動を進めた結果、動物園の経営へと転じたらしい。しかし時世からか客の数は日に日に減少し、飼育員の数も最低限でボランティアも募っているのが現状とのことだった。
「ハゲてたわ……」
「そっちの感想なの!?」
風里は一見、無表情だ。
だが何か思うところがあるのだろう。
物思いに耽るようにぼんやりとしている。
「悪の秘密結社のほうはどうだろうね」
「なんであれ、私は一度受けると決めた依頼はやり遂げるわ」
今度は依頼主が指定した場所へ向かう。
そこにはまばらながら幾人かの姿が見える。おそらく依頼の参加者たちだろう。
その中心。打ち合わせをしている男がいた。
「あなたが主催者?」
風里の質問に男は頷いて応えた。
九条が大太刀を手に風里の前に出た。何かが起きた際に守るためなのだろう。
その様子を見ていた男が危害を加える気はないと話す。
「悪の秘密結社などと名乗ってはいるが、俺たちは元々は動物愛護団体でね」
どこかで聞いた話であった。
つい最近、というよりさっきだ。
「ここの園長は動物の保護と称しながら動物を檻に閉じ込め、あまつさえ餌も最低限程度しか与えていない。いや、もしかしたら最低限の餌も与えられていないかもしれない。これは虐待の域だ!」
そうだろう! と鼓舞する男の周囲、同じ愛護団体のメンバーなのだろう人々が「おおおおおおおっ!」と雄叫びを上げた。
「それで逃がして、動物たちを保護したあとのあてはあるの?」
「もちろんだ。これだけの数の動物たちを保護するとなると大量の飼料と広い敷地が必要になる。個人でまかなえるものではない。故に動物たちに協力してもらってまともな動物園を俺たちの手で経営するのだ!! すでに土地に関して先方とは話がついている。後は動物たちをそちらに移すだけだ」
どこかで聞いた話であった。
つい最近のことだ。確実に。
「らしいけれど?」
九条が背後に佇む風里に声をかける。
「正しいとか間違ってるとか、私はあまり興味ないわ。九条先生は?」
「動物を大事にするっていう気持ちには同意するよ。どちらもしっかりと考えてはいるようだし……イタチごっこみたいだけど」
彼女は苦笑する。
命を守る立場として思うところもあるようだ。
「動物たちに危害が及ばないように行動するつもりだよ」
「私は――せっかくだから受けてみるわ」
「そう……やるからには中途半端なことはしないでね。責任は負わないと、ただ動物たちを傷つけるだけだから」
九条は言うと風里を見送った。
彼女もその場を離れようと踵を返す。
後方、風里たちのいるほうから声が聞こえてきた。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! おのれ、街の動物園、アニマル・プリズンめ! 貴重な改造人間の素材でもある動物たちを閉じ込めておくと許せん! 我らオリュンポスが、ライオン怪人(予定)やゾウ怪人(予定)たちを、アニマル・プリズンから助けだしてくれるわ!」
なにやら過激な、というか本物の秘密結社所属らしい人物の台詞であった。
「相変わらず面妖な服装ね」
「おお! 東雲風里ではないか。前の訓練ではしっかりと教えてやれなかったな。今日こそ、こいつら戦闘員を指揮し、アニマル・プリズンから怪人(予定)たちを救うのだ!!」
「兄さんっ! また可愛い後輩に、変なことを教えようとしてますねっ! 動物園は、兄さんが考えてるような、動物の収容施設じゃありませんっ!」
高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)は言うとドクター・ハデス(どくたー・はです)の前に出る。彼女は頭を抱えながら叫んだ。
「……っていうか、動物を見ると怪人を連想する癖は、いい加減にやめてくださいっ!」
「だが断る! さあ、行くぞ東雲風里よ」
動物開放戦線を繰り広げようと画策している集団へと合流するハデスたちを見ながら高天原は呟いた。
「し、仕方ありません……せめて、兄さんが解放した動物たちが、街に逃げ出したりしないようにしましょう」
その後の彼女の行動は迅速だった。
動物保護を目的とした活動を止めるべくやってきていた及川たちに声をかけ、動物たちが動物園の外に出ないよう配慮するのであった。
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