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新米冒険者のちょっと多忙な日々

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新米冒険者のちょっと多忙な日々

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■幕間:道を外れた狂い人

「これは困りましたね……」
 目の前に立ちふさがる野盗たちと大石の従者。
 その奥では斉藤たちと東雲たちが戦っていた。
「邪魔ばかりっ!」
 避けて通ることはできない。
 倒すのは楽なのだが数が多くて前に進むに進めない。
「二人が危ないのよ!」
 セルファは叫ぶと槍を繰る。
「あと少しなのに――」
 彼女の視線の先、戦う二人の姿が見えた。

                                   ■

 毒を受けてふらついている風里の前に斉藤が歩み寄る。
「お兄ちゃんは鍬次郎と遊ぶみたいだから……ハツネはお姉ちゃんと遊ぶの
 クスクス……ハツネが勝ったらお兄ちゃんもらうね……優しくハツネのものにして……壊してあげるの♪」
「――あなたとは仲良くなれそうだって思ってたけど、思い違いだったわ」
 苦しそうに喘ぎながら風里は言った。
「優里に危害を加えるやつは殺してやる……」
 手にした槍に彼女が生み出した火が伝う。
 穂先が燃えた。
 身体をひねり槍で薙ぐ。
 狙うのは斉藤の首だ。しかしその一撃は大振りだ。
「……隙だらけなの」
 彼女の袖口から鎖が飛び出した。
 それは風里の腕に絡みつき身体に巻き付く。
「――はっ、くか……あ……」
 ギリギリと身体が縛られ拘束が強まった。
 骨が軋む。
「……すぐに感情的になるのはいけないの……気を付けないとこうなるの」
「どうな……」
 るのよ、と続くはずだった言葉は悲鳴に変わった。
 斉藤の生み出した炎が風里の腕を焼いたのだ。
 服が燃え、肌が露わになる。
 炎にさらされ肌が赤く染まっていた。火傷を負っているのだろう。
「お姉ちゃんは性格的に降霊者や継人類に向いてると思うの。欺いて隙を突き、仕留める……そういう風な戦い方が似合うの♪ 今のままじゃお兄ちゃんを守ることなんて出来ないの」
 絶対に、と言われたような気がした。
「あああああぁぁあっ!!」
 叫び、鎖をほどこうと身体をよじる。

                                   ■

 大石は笑みを浮かべると優里に近づく。
「さぁて、俺はこっちを相手にするかな……坊ちゃんよォ?」
 優里を刀を向ける。
「てめぇが負けたら嬢ちゃんをもらうかねェ……存分に辱かしめてやるよ」
「――っ」
 優里が大石を睨んだ。
 片手を前に付き出し、片手を腰まで引く。
「激昂するかと思ったが……」
 ジリジリと互いの間合いを狭めていく。
 大石が優里の慎重に戦いを進めようとしている姿を見て笑った。
「徒手空拳か、そりゃよほど近づかないと辛いよなあ……でもよぉ」
「――何か?」
 緊張に顔を強張らせながら優里が口を開いた。
 大石が笑いながら言う。
「そこはすでに俺の間合いだ」
「っ!?」
 優里が腰から短刀を引き抜くのと大石が抜刀するのはほぼ同時だった。
 凄まじい勢いで刃が優里に迫る。
 ガキンッ、と刃と刃が交差し火花が散る。
 刀の勢いが強すぎて短刀が手から弾かれた。
「反応は悪くないんだがなあっ!」
「あ――」
 凶刃が優里の肩を貫いた。
 前傾姿勢からの刺突だ。勢いのままに後方に突き飛ばされる。
「これで終わりだな」
 大石はつまらなそうに告げると刀を振り下ろした。
 しかし刃が優里に届くことはなかった。
 刃と彼の間に一本の槍が突き立てられたのだ。
「間に合った!」
 セルファは野盗たちの壁を抜けて優里の前に現れた。
 彼女の後ろ、倒れ伏す野盗たちの間を抜けて御凪の姿も見える。
 周囲を見回せば、毒から抜け出したらしい仲間たちが野盗たちを追いたてていた。
「形勢逆転ですよ。まだやりますか?」
 御凪が大石たちを見据えた。
「俺は戦闘狂じゃねえよ。ハツネ」
「わかってるの」
 斉藤は言うと素早く優里に抱き着くと言った。
「またね、お兄ちゃん達♪」
 二人はその場を去ろうとする。
 しかし野盗の首領らしき男が呼び止めた。
「おい! 契約と違うだろう。こちとら高い金払ってんだしっかりは――」
「……黙っててなの……ギルティ……ヤっちゃえ」
 男は最後まで話すことはなかった。
 斉藤が手をかざした瞬間、スライスされるように男の身体が分断される。
 血が、肉が、骨が、胃液が、脳髄が、その場にボトボトと音を立てて落ちた。
 死臭があたりに広がった。
 倒れていた野盗たちが悲鳴をあげて逃げ出す。
 後に残ったのは野盗の首領らしき男の死骸だけであった。