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リアクション
3
ジャタの森、サレイン集落から更に3時間ほど奥まったところにあるシグー集落にたどり着くふたりがあった。
この集落も森林を開墾して成り立つ土地のようだが、住居などは巨木の(読み:うろ)洞などを利用している。より自然を活かした生態を築いているようだ。
「ここが目的地のシグーですよ。久しぶりに来てみたのですけど、相変わらず自然が豊かなところですね」
「さすがは地元の住人。日が暮れる前に着けてよかったな」
「ジャタの森で迷子になったら、三毛猫獣人“猫の民”の名折れですから」
猫の民ことサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)の道案内で、白砂 司(しらすな・つかさ)は、シグー集落へ一番乗りを果たしていた。
集落の目抜き通りには枯れ葉が綺麗に敷き詰められていて、人工物と言えば大きな尖塔がそびえ立っているのみである。
鐘楼から流れる時報のように、長い間隔で打たれる鐘の音が響いた。それを合図に、司とサクラコの方へ住民たちが集ってきたではないか。
その中から首長と思われる老婆が進み出でると、気さくに声を掛けてきた。
「いやまあ、こんな山深い集落にお客さんとは、珍しいことじゃて」
「俺たちは遺跡の情報を得るためにやってきました。別に怪しい者ではありません」
すると、首長は怪訝そうな表情を浮かべた。
「怪しい者こそ、怪しくない、と言い張るのではないかね?」
「何もやましい事などはないのだが……サクラコ、頼む」
「司はお堅いから、誤解されてしまうんですよ」
首長のまえにズイと歩み出たサクラコが、身分を明かした上で事情を証す事にした。
「私はジャタの森で生まれた三毛猫の獣人サクラコ・カーディですね」
「ほうほう確かに。そなたの身体からはジャタの森ではなじみの深い匂いがするわ」
するとサクラコは獣人の姿に変化して見せた。
「この通りのネコ獣人ですね。なじみの匂いとおっしゃいましたが、首長も猫族なのでしょうか」
「わしゃヘビじゃよ」
そう言った首長は、長い舌をチロリと伸ばしてくれた。
「あいわかった、サクラコさんとお前さんを快くお迎えしよう。ジャタの森の獣人の知り合いは、集落における家族と同義じゃ。歓迎しようっ」
「感謝しますっ、首長」
「よろしく、お願いします首長」
ふたりはどうにか無事に、シグー集落へと溶け込む事ができた。
▼△▼△▼△▼
首長の住処に武器と荷物を預けた司とサクラコは、集落の中央付近にそびえた尖塔へとやって来た。集落の説明は、同行してくれる首長自らが説いてくれた。
「この尖塔は、いったい何に使われているのですか」
「なに、いまじゃあ大したことには使っておらんわ。遙か昔に、我々の祖先が闇狩を行っていた頃には、何からの意味を持っていたそうじゃがな。今では魔除けの狼煙として、日が暮れてから尖塔内で火をおこす程度じゃよ」
尖塔の中は煤で汚れていたが、遙か頭上で鈍く光る宝玉のようなものを確認できた。
「あそこの壁に埋め込まれているものは何ですか?」
「おー、あれか。代々伝わる蒼いオーブなんじゃがな。単なるガラス玉で何の価値もないぞい。狼煙の成分を変化させる魔法が宿ってるそうじゃが、何の効能もありはせん。前にここを尋ねてきた偉い人がそう言ってひどく肩を落として帰っていったんじゃから、間違いないじゃろて」
「価値はなくても、皆でずっと守っているものなんでしょう?」
「まあ、先祖の意志を継ぐために必要なもの、と言う程度のものじゃし。祭具とはそういうものじゃよ。信仰心を養えればそれで事は足りるのじゃ。欲しければやるぞい」
「い、いえ、結構です」
「昔はのう、闇を退ける紅のオーブ、何事にも動じない翠のオーブ、禍をはね除ける蒼のオーブと、それぞれ集落が一つずつ崇めていたんじゃ。外敵といち早く遭遇するサレイン集落が紅のオーブ、ここシグーが蒼のオーブ、もう一つをミーアドスという集落が守り続けてきたんじゃよ。ミーアドスは数年前にオーブを盗人に壊されて、散開してしもうたがな」
「もう一つの集落があったとは、知りませんでした」
司は、床に落ちている紙切れを見つけて拾い上げた。
「これは……紙で何か折ったものを、燃やしているんですか?」
「おおそれはじゃな、闇狩をする時に飼い慣らしていたという大きな獣の姿を、紙で折って表しておるんじゃよ。今はもう絶滅しているようで見かけないが、それを代々で供養するために御焚き上げしているというわけじゃ。むらの子どもたちはもちろん、手の空いたものはみんなで折る事になっている。いわば娯楽の一つじゃな」
「次はいつの晩に燃やすんですか」
「ここのところは物騒じゃから、毎晩、燃やしておるよ。なんでも、魔法が効かない魔物が夜中に出回ってるそうじゃからな。お前さんらも日が暮れたら、建物から出るんでないぞ」
集落の案内を終えた司とサクラコは、得られた情報を遺跡へ伝搬させる準備を整える事にした。
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