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第三回葦原明倫館御前試合

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第三回葦原明倫館御前試合

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○第九試合
麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)(葦原明倫館) 対 楯谷 鳴(たてや・めい)(蒼空学園)

 楯谷 鳴は蒼空学園の新入生だ。新入生で御前試合に参加する――という事実は、周囲を驚かせるに十分だった。北門 平太も「勇気あるなあ……」と心底感心したほどである。
 鳴は特にやりたいこともなく、単に面白そうだからという理由でパートナーと契約し、この世界へやって来た。今は目標となるものを探している真っ最中だ。これを聞けば、平太はきっと「青春ですね!」と言うことだろう。
 そこに飛び込んできたのが、「妖怪の山」の話と、遠征部隊を選抜するための御前試合。これに参加しない手はあるまい、と鳴は膝を打った。
「ふふっ、これは出るしかないでしょ。わざわざこの学園にやってきた甲斐があるってね。どんな奴らがいるのか楽しみだなぁ〜」
 残念ながら蒼空学園からの参加者は少ないが、他校生の実力を見るにも、いいチャンスである。自分には実戦の経験が少ないが、まあ何とかなるだろうという漠然とした自信もあった。
 武器は何を使ったらいいか分からなかったので、模擬戦用のナイフにした。しかし、これは失敗だったかと相手を見て思った。
 由紀也は長銃だったのだ。間合いが違いすぎる。
「ちょっと様子見かな……」
 鳴は相手の出方を待った。が、由紀也も同じだった。プラチナムが積極的に戦うよう、二人に指示をする。
「分かってるよ!」
 鳴は由紀也へ向かって駆けだした。が、とたんに腹部へ強い衝撃を受けた。それも二発。
 由紀也が目にも留まらぬ速さで、引き金を二度引いたのだ。
「それまで!」
 鳴は世間の厳しさをちょっとだけ知った。

勝者:麻篭 由紀也


○第十試合
アンドロマリウス・グラスハープ(あんどろまりうす・ぐらすはーぷ)(葦原明倫館) 対 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)(シャンバラ教導団)

 アンドロマリウスは悪魔である。自称「ソロモン72柱の魔人の1柱、序列72番」で、あらゆる悪と不正を憎む。一人称は「アンちゃん」だ。
 御前試合と聞いて、パートナーのスウェル・アルト(すうぇる・あると)と戦うこともあるかもしれない、それは楽しみだなあとちょっとお気楽に考えたりしていた。
 しかしさすがのアンドロマリウスも、対戦相手が水着だけ、というのにはちょっとびっくりした。いやこれは、こちらを動揺させる手か、それとも単なる趣味かな?
 まずはその辺を探ろうと、アンドロマリウスは木刀を横薙ぎにした。間合いを測り損なったらしいセレンフィリティの胸に、小さな血の痕が走る。
「イッタイなァ! 何すんの!?」
 模擬弾が炸裂し、今度はアンドロマリウスの腹部が青く染まった。
「なにエロい目線であたしの身体を見てるの? あたしの芸術的なナイスバディを見とれたくなるのは判るけど、隙だらけだよ!」
 いや、そういうわけじゃないんですけどね、と思ったが口にする間もなく、セレンフィリティの【サンダークラップ】が炸裂した。
「チェックメイト!」
「ビリビリしますっ!!」
 防御も吹き飛ばされ、アンドロマリウスはばったりと倒れた。
「それまで!」
 アンドロマリウスは苦笑しながら立ち上がった。辛うじて救護班送りにはならなかったが、まだあちこち痺れている。
「あらら、アンちゃん負けちゃいましたかー。次の試合、頑張って下さいねっ」
「ありがとう」
 セレンフィリティはにっこり笑って応えた。

勝者:セレンフィリティ・シャーロット


○第十一試合
ザーフィア・ノイヴィント(ざーふぃあ・のいぶぃんと)(蒼空学園) 対 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)(薔薇の学舎)

 御前試合に参加すると決めたとき、クリスティーがまず行ったのは、師匠である轟 平八郎(とどろき・へいはちろう)への報告だ。
 クリスティーは平八郎の「天下一刀流」の門人なのだ。「天下一刀流」は、特別に優れた流派ではないが、逆に悪すぎるということもない。平八郎の強そうな見た目と、それに反して分かりやすい教え方をすることから、一頃閑古鳥が鳴いていたものの、今はそれなりに門人が増えている。
 だが、数ある流派の一つに過ぎないという事実はある。
 御前試合に参加して優勝すれば――そうでなくとも、いいところまでいけば――と、平八郎が欲を出したのも無理からぬことだ。故に平八郎は、喜んで一番弟子を送り出した。
「天下一刀流クリスティー、参る!」
 クリスティーは木刀を正眼に構えた。まずは肩――だがザーフィアは、極めて冷静にそれを見極めた。近眼のくせして、その辺の目はいいのだ。
「ならばこれだ! 見切れるかな!?」
 クリスティーは【疾風突き】を放とうとしたその瞬間、ザーフィアの大木剣がクリスティーの体を吹き飛ばした。
「この身は剣――君の為に強くなり続ける一振りの剣なのだよ、燕馬くん。――って、あれ、燕馬くん!?」
 始まる直前まで観客席にいたはずの新風 燕馬だったが、気絶したクリスティーを救護室へ運ぶため、既にその場を離れていた。
 格好つけたセリフを華麗に流され、ザーフィアはそそくさと退場した。

勝者:ザーフィア・ノイヴィント


○第十二試合
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)(葦原明倫館) 対 東 朱鷺(あずま・とき)(葦原明倫館)

 明倫館に転校して来て、一年以上が経つ。これまで様々な経験を積んできた。ここは一つ、陰陽師としての力を試すことにしよう、と朱鷺は考えた。
 ところが試合前に問題視されたのが、朱鷺が使用するという【●式神の術】だ。朱鷺は自分の持つ「試作型式神・壱式【黒麒麟】」を式神として使役するつもりだったが、「殺傷能力の低い」武器が規定のためそれは却下された。
 やむなく、他の参加者同様、運営側が用意した木剣を選んだが、どうにも使いづらい。他の術に変更も考えたが、どれも試合には不向きだったので、このままで行くことにした。
 木剣が、見えない糸の付いた操り人形のように動く。まるで本当に意思を持つかのように。
 まずは唯斗の足元を狙った。唯斗は身を低くしてそれを受け止め、逆に朱鷺の脛を蹴った。が、木剣もそれを防ぐ。防いだ勢いで唯斗の足に攻撃しようとしたがそれより速く唯斗の掌が朱鷺の腹部に触れた。
「!!」
 朱鷺は瞬間、顔を歪め、次いで衝撃で吹っ飛ばされる。
「それまで!」
 やれやれと立ち上がった朱鷺は、木剣をプラチナムに返した。
「陰陽師の真の強さをお見せできなかったことが残念です。今度は、ぜひ、朱鷺の術を味わってください」
 唯斗の背に、薄ら寒いものが走ったという。

勝者:紫月 唯斗


   審判:柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)(葦原明倫館)
○第十三試合
アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)(蒼空学園) 対 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)(シャンバラ教導団)

「フハハハ! 我ら秘密結社オリュンポス、御前試合で優勝し、葦原島にその力を示そうではないか!」
 アルテミスが登場するや、誰よりも早く、誰よりも目立っていたのはドクター・ハデス(どくたー・はです)だ。
「さあ、アルテミス! 我らオリュンポスの脅威を思い知らせてやるのだっ!」
「了解しました、ハデス様! オリュンポスの威信をかけて、この試合勝ち抜いて見せます!」
 アルテミスは右手に握った木剣を、ダリルに突き付けた。
「オリュンポスの騎士アルテミス、参ります!」
「あー、どーでもいいけど、応援はもうちょい静かにな?」
 試合場へ乗り出さんばかりのハデスを、審判の恭也がしっしと追い払う。
「よし、始め!」
 そして恭也の合図と同時に、アルテミスがダリルの下半身を狙う。だがダリルは、慎重に彼女の動きを観察し、後ろへ飛ぶと同時に銃の引き金を引いた。
 アルテミスは弾を真っ二つにした。割れた弾が、彼女の後方で地面を青く染める。そしてアルテミスは木剣を大きく構えた。
「受けてください! 必殺、斬魔剣!!」
【金剛力】【チャージブレイク】【一刀両断】により強化された剣が、ダリルを襲う――かに見えた。
 だが。
「遅い」
 振り上げた瞬間、アルテミスの胸元が青く染まった。
「勝負あり! ダリル・ガイザック!!」
 アルテミスの体から、たちまち力が抜けていく。
「……いい勝負をありがとうございました。是非、最後まで勝ち抜いてくださいね」
 差し出した手を、ダリルもしっかりと握り返した。

勝者:ダリル・ガイザック