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第三回葦原明倫館御前試合

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第三回葦原明倫館御前試合

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○第十四試合
セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)(葦原明倫館) 対 遊馬 シズ(葦原明倫館)

 試合場への通路で、シズは瞑想していた。選抜試験など、どうでもいい。ただ全力で戦い、勝つ。興味があるのはその一点だ。パートナーの東雲 秋日子が敗れた今、その思いは格別だった。
 ――もう一つ、漁火(いさりび)のことも気にならないではないが、今は考えても仕方がない。
 試合場へ出ると、秋日子が手を振っていた。
「頑張れ、遊馬くん!」
 それに手を振り返すと、シズはセリスに真正面から対した。
「よーしっ、始めっ」
 恭也の合図で、セリスが大上段に構える。振り下ろされたそれを、シズは木刀で受け止めた。重い。手が痺れるような衝撃だ。
 セリスがすっと引き、その隙にシズは脇腹へ木刀を振り下ろした。セリスもまた、同じ位置を狙い、二人の間で木刀が激しく鳴り響く。ビシリ、と何か裂けるような音もした。
「これならどうだ!?」
 シズの右目が光る。木刀に禍々しいオーラが纏わりついた。
「させるか!!」
 再び、二人の木刀がぶつかりあった――その瞬間、シズのそれが砕け散った。
「何っ!?」
 シズもセリスも、互いの攻撃で吹き飛ばされる。
「おおっとお! ダブルノックダウンか!? テンカウントで先に立った方が勝ちだ!」
 恭也が地面に伏せ、カウントを始める。
「ワーン、ツー……」
「遊馬くん! 立って!」
 秋日子の声が耳をくすぐる。立たなければ。そう思うが、体が言うことを聞かない。
「ファイブ、シックス……おおっとぉ、セリス・ファーランドが立ったああ! よし、ガッツポーズしろ!」
 恭也の要望に答え、セリスは両腕を上げた。
「よしっ、おまえの勝ちだあ!!」
 ――負けた、か。
 全力での勝負だ。悔いはない。――だが悔しいな、とシズは思った。

勝者:セリス・ファーランド


○第十五試合
中原 鞆絵(なかはら・ともえ)木曾 義仲(きそ・よしなか))(天御柱学院) 対 コード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)(シャンバラ教導団)

 コードは困った。目の前の対戦相手は、どこからどう見ても老人だ。それも女性だ。そんな人物を相手に、荒々しく戦ってもよいものだろうか、と。
 コードは鞆絵の中身が、義仲だということを知らないのである。見た目は老婆、中身は荒武者というわけだ。
 義仲もそれを知っているのか、鞆絵のフリをして、弱々しく頭を下げた。
「よろしくお願いいたします……」
「こ、こちらこそ」
 戸惑いながら、コードは薙刀を構え、かぶりを振った。――いやこれは試合だ。相手を侮ってはいけない、と。
 鞆絵(義仲)が、ふいっと片手を上げた。ほとんど条件反射で、コードは薙刀を突き出していた。
「チッ」
「――え?」
 老婆から舌打ち? コードは鞆絵(義仲)の顔を見た。まるで鬼のような形相だ。
「よくも【サイコキネシス】を見破ったな!」
 鞆絵(義仲)の木刀がコードの腿を打つ。それで我に返った。相手は外見通りの人間ではない!
「お前!!」
 鞆絵(義仲)は老婆の仮面を脱ぎ捨てた。楽しげに、大上段に木刀を振り上げる。
「させるかっ!!」
 コードは定位置の姿勢から、腰と腕の力で薙刀を振り回した。地面すれすれの位置を、滑るように飛んでいく。斬り上げられたそれは、木刀がコードの頭に届くより速く、鞆絵(義仲)のふくらはぎを強かに打ちつけた。
「一本!」
「同点だろうが!?」
 鞆絵(義仲)が抗議の声を上げる。チッチ、と恭也は指を振った。
「最初のサイコキネシスのとき、こっちの薙刀が当たってる。だからポイントは一−二で、コード・イレブンナインの勝利!」
「そんな馬鹿な!!」
 鞆絵(義仲)は喚いたが、客席のリカイン・フェルマータに睨まれ、すごすごと引き下がった。

勝者:コード・イレブンナイン


○第十六試合
スウェル・アルト(葦原明倫館) 対 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)(葦原明倫館)

 エクスは少々不満だった。彼女は武器として鉄扇を指定したのだが、殺傷能力が高すぎるとして却下。しかも代わりになるような物がなかったため、ただの扇を手渡されたのだ。ちなみに判断したのは、プラチナム・アイゼンシルト。この辺、パートナーの方が恭也よりも遥かに厳しかった。
「まあ、よい。わらわの花鳥風月、とくと見よ!!」
 踊るような動きで、扇がスウェルに襲い掛かる。だがスウェルも負けていない。【燕返し】で攻撃の全てを跳ね返した。
「これならばどうじゃ!」
 エクスはスウェルの背後に回り、その首筋に扇を叩きつけようとした。が、振り返ったスウェルがすっと腰を落とし、がら空きになったエクスの下半身目掛け、木刀を横薙ぎにした。
「!?」
 あまりの痛みと衝撃に、エクスはしばらく口が利けなかった。
「あの……大丈夫ですか?」
「……だ、大事ない……」
 震える声で、エクスはそう答えた。

勝者:スウェル・アルト


○第十七試合
グレゴワール・ド・ギー(ぐれごわーる・どぎー)(イルミンスール魔法学校) 対 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)(シャンバラ教導団)

 セレアナが試合場に出ると、既に二回戦への進出を決めているセレンフィリティ・シャーロットから声が上がった。セレアナはフッと微笑み、次いで真っ赤になった。
 対戦相手のグレゴワールが、全身を鎖帷子で包み、剣と盾を手にしていたからだ。まるで中世の騎士さながらだ。それに比べて自分は――とちょっと恥ずかしくなる。
 恥に思っているわけではないが、相手が重装備であればあるほど、ホルターネックタイプのメタリックレオタードが裸に思えてくる。
 セレアナはかぶりを振って、競技用の槍を扱いた。相手は盾を持っている。鎧からして、防御力はセレアナの比ではない。だがその分、動きが鈍くなるのは必定。隙を狙えば――。
 試合開始と同時に突き出された槍は、グレゴワールの剣と激しくぶつかり合った。いったん引き、今度は機動力を奪うべく、足元を狙う。しかしそれは、盾で塞がれた。更に振り回された盾で、セレアナは殴り飛ばされる。咄嗟に踏ん張ったが、今のでポイントを取られたろう。取り返すためにも、一発逆転を狙うしかない。相手の機動力の低さに賭けて。――セレアナは、槍の柄を強く握り締めた。
「轟雷――!」
 が、グレゴワールはそれを待っているほどお人好しでも紳士でもなかった。また、セレアナは、見誤っていた。彼は重装備を物ともせず、セレアナを吹き飛ばした。
 セレアナはセレンフィリティの声をどこか遠くで聞きながら立ち上がり、頭を振ると、グレゴワールに握手を求めた。グレゴワールは無言のまま頷くと、それに応えた。
 控え室へ戻る途中、セレアナは呟いた。
「心のどこかに慢心があった、か……それを気付かせてくれたことが、この試合で得た最大の成果ね」

勝者:グレゴワール・ド・ギー