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狂乱せし騎士と魔女を救え!

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狂乱せし騎士と魔女を救え!

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 三人とは別場所の城内を探索していたのは神崎 優(かんざき・ゆう)
 パートナー神崎 零(かんざき・れい)神代 聖夜(かみしろ・せいや)陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)ら三人と共に手がかりを探していた。
「何かあったか?」
「ないわ。いくら普通の古城より綺麗だからって荒れてるものは荒れてるのよね」
「獣の勘が、ここに何かあるって騒ぐんだが……」
「早くしなければ間に合わなくなってしまいます」
 四人から焦りの色が見える。
 与えられた時間は短い。いくら契約者や校長たちと言えどいつまで足止めできるかはわからない。
「……ん、ここ、何かおかしい」
 聖夜が指摘した場所、そこは一見普通の床。
 だが聖夜の耳には聞こえていた。
「下から風の音がする」
「風の音? だがここは床だ。風が通るわけがない」
「……なら、ここだけはただの床でないってことじゃない?」
「……そうか、彼らが生きた時代、騎士と魔女は相容れぬ者同士。そこらでおいそれと会うわけには行かない。なら! 聖夜!」
「ああ! 思い切り、ぶち抜く!」
 床を思い切り叩きつける。すると脆くなった床は崩れ去った。
「これは、隠し通路?」
「あの時代で二人が会うためにはここまでしなきゃいけなかった、ということか」
「不憫ね」
 四人は隠し通路の暗がりを進んでいく。
 すると道の先には隠し部屋が広がっていた。
 狭苦しく、埃くさい部屋。壁に古びたランプが掛けられただけの部屋とも言えぬ部屋。
 四人が辿ってきた道の反対側にはもう一本の道が伸びていた。
「私たちが辿ってきた道が城を護る騎士の道で」
「向こうにあるのは魔女が使った道かもしれないな。あくまで仮説だが」
「……私、絶対二人を解放したいです! このまま石像にだなんて、できません!」
「ああ、その通りだ。二人の心を救う為に、解り合う為に必ず見付け出してみせる!」
 この部屋を見つけた四人の意思は更に固まった。
「おい、あの部屋の隅にあるローブ。もしかして魔女のだったりしないか?」
 聖夜が見つけたローブ。それはひどくボロボロで、もはや布切れのようだった。
 ローブを拾い上げた優が調べ始める。そしてローブの裾の辺りになにやら見慣れぬ文字を発見する。
「これは、随分と古い文字だな」
「読めそう?」
「やってみよう……ヴァシ……ハ……だめだ、損傷が激しすぎて読めん」
「そんな、せっかくの手がかりかと思ったのに」
「だがこれが魔女のものなら、魔女の名前はヴァシで始まり、どこかでハが入ることがわかった。今はそれでよしとしよう」
 ローブを大切にしまい、他の手がかりを探し始める四人。
 その胸に、絶対に騎士と魔女を解放すると誓って。


 場所は変わりザンスカール。古城はアゾートたちに任せ、ここでの調査を単独で行うユキノ・シラトリ(ゆきの・しらとり)
「同じ場所ばかりじゃ意味は薄そうだし、かといってここに何があるって確定したわけじゃないけど……」
 せわしく走り回り小さな手がかりも見逃すまいと探していたユキノ。
 しかし、ここザンスカールはあくまで現在作られた国。
 騎士と魔女が生きていた時代とはまったく違う。
 手がかりがある方が稀、あったとしてそれを見つけられるのは更に稀有。
「……それでも、絶対諦めないよ!」
『何をごちゃごちゃと』
「ジェレミー様!」


「相変わらずうるさいやつだ。少しは静かにすることを覚えろ」
 ユキノとは対照的な態度のジェレミー・ドナルド(じぇれみー・どなるど)
 彼はユキノとは別行動を取り、巨人の頭頂部へと向っていた。
『何か進展はありましたか?』
「他の契約者が足止めをしてくれるおかげで巨人の動きは鈍い。が、徐々にその勢いを取り戻している」
『そんなっ!』
「だからこそ、この時間を無駄にするな。焦らず、的確に動け」
『でも、どこを探せば』
「……むっ?」
 ジェレミーはエリザベートたちとは別行動をとっており、エリザベートたちの後ろからやってきていた。
 そして彼の目の前には騎士の形をしたシルエットがさまよっていた。
「何だこいつは?」

―――魔女モ、騎士モ同じ人間……ダ。

「? 魔女も、騎士も同じ人間だ?」
『へっ?』


『こいつは、騎士の残留思念か何か?』
「魔女も、騎士も、同じ人間だ?」
「!」
 ユキノが呟いた言葉に、街を歩いていた一人の青年が反応する。
「ねえ、そこの人。今、『魔女も騎士も同じ人間だ』って言わなかった?」
「え、ええ。言ったけど」
「どこでその言葉を?」
「ええっと、その、わ、私の尊敬する人の言葉でね!」
『……阿呆が』
 あたふたするユキノに呆れるジェレミー。
「奇遇だね。僕のおじいちゃんの友達もその言葉を使ってたらしいよ」
「! ね、ねえそのおじいちゃんの友達の名前とかって覚えてる?」
「え、えっと確か。ティー何とかって」
「全部思い出せない!?」
「えー無理だよ。あ、それじゃ僕はこれで!」
 そう言って青年は去ってしまった。
「ティー何とか、それじゃわからないよ。……でも『魔女も騎士も同じ人間だ』、これは使えるかも」
『ああ。……分身はあくまで分身か。伝えるのならば頭頂部へ行く他ないぞ』
「わかった。とりあえず、佐野さんに連絡してから、ギリギリまで調べて、そっちに向います!」
 かすかな手がかりを見つけた二人。少しずつ、騎士と魔女の姿が見えてきた。

「アゾートさんの調査によれば、ここに隠居しているはずですが……」
 人の手が入らぬ森の奥。森というより、密林に近いだろうか。
 そんな森奥にやってきたザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)もまた、二人の魂を解放するべく行動していた。
 ではどうしてこんなところにやってきているのか。
 答えは、この森の奥に隠れるようにして建てられている掘っ立て小屋の主に会うため。
「すいません。シェーショーさんはいらっしゃいますか?」
「……こんな森の奥に来るとは、厄介者だね、あんた」
「あなたにとってはそうなのかもしれません。ですが、それでもあなたから聞かなければならないことがある」
「お断りだ」
 掘っ立て小屋の主である老婆。ひどくしわがれている。生きていることが不思議なほど。
「あなたがかつて二人の指輪に呪いをかけ、あの二人を石像とした」
「それで?」
「今、あの二人は狂気に捕らわれています。それを救わなければなりません」
「ふん、ならさっさと指輪を取り返して無理やりにでもはめ込むんじゃな。そうすりゃ二度と生身には戻れまいて」
 乾いた声で笑う老婆。だが、その声に敵意はなかった。
「二度と……?」
「その通り。万一指輪が外れた時を考えてな、再度はめ込んだときは更に強い呪いがかかるようにしてある」
「石化を解除する方法は?」
「かけたら終わり、当時そう考えたわしが解除方法など用意しておるわけがなかろう」
「ならせめて二人についての情報を……」
「もとより知らん。裏切り者の名など、知らん」
 老婆の口からは何も語られない。
「……わかりました。失礼します」
 ダメだと判断したザカコが老婆の前から立ち去ろうとした、その時。
 ぽつりと呟きが聞こえた。
「ヴァシィーカーラハ」
「……え?」
「わしの娘の名じゃ、ヴァシィーカーラハ。大ばか者でな。……どこぞの騎士と恋に落ちたまま、それっきりじゃ」
「!! ……ありがとうございます!」
 頭を下げて礼を言うザカコ。
「わしは娘の名を独り言で呟いただけじゃ。さあ、さっさと帰れ」
「はい! 必ず、必ず救ってみせますから!」
 ザカコは身を翻して巨人の元へと急ぐ。
 その後ろから微かに「頼んだよ」、そんな声が聞こえた気がした。