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リアクション
「アリサ! 助けに来たぞ!」
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が部屋に飛び込む。
その後ろで、「案内ありがとね」と、サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が誰かを開放する。
続いて、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)も室内へ。
ベアトリーチェは手前のベッドで拘束されている咲耶を固定ベルトから開放する。
「咲夜さん、大丈夫ですか?」
肩を掴みゆっくりと体をベッドから降ろす。だが、筋肉の弛緩により咲耶は自立すらできない。
「……はい、体が動かないので肩を貸してください」
「わかりました」
ベアトリーチェは肩を貸し、腕に腰を回す。それでやっと彼女は立てるくらいだった。
美羽が前に出る。ブレイドを構え、ハデス及び研究者たちに刃先を向ける。
「さあ、観念しなさい! ESC&ハデ――あれぇ?」
潰れ悶えるマッドサイエンティストを見てなんだか気が抜けた美羽だった。自分がぼろぼろに成敗する前にボロボロにされている。
「まあ、いいもん! そこのエブリヴァディ! アリサは返してもらうから!」
研究者は手を上げて、無抵抗を示す。
美羽が牽制している間にシリウスがアリサの拘束を解く。抵抗していなかったアリサには筋弛緩剤は射たれていなかったため、自立する事ができる。が、共に逃げるには手を引く必要があるだろう。
「お前らが……異星人ですか。そこの女よりも凶暴ですね」
そこの女とはアリサのことだ。アイザックが周りを見回す。美羽が切り返す。
「それはどーも。痛い目見たくないなら、大人しくしててよね? アリサも取り返したし、帰らせてもらうよ」
「帰るって、何処にですか?」
アイザックが問う。
「お前たちは元世界に帰れないのではないですか? 異次元間移動の理論はホルスス博士によって確率されているが成功事例は報告されてはいません。卓上の空論。お前らは何処に帰るというのですか? 身売りするそこの科学者のほうがよっぽど利口です。それに――」
アイザックはAirPADにて部屋の壁に格納していた、『くまさん』を緊急起動する。襲撃に備えての最終防衛手段。というよりも、ここまできた契約者たちを捉えるために用意していたものだ。
「げげ、こいつヤバイって真司がいってたやつだ……」
それが5体もだ。美羽もたじろぐ。勝てないことはないだろうが、戦えないお荷物が二人もいる状況で、三人だけで戦うのはフリだ。
それだけじゃない。
「ああ……げンごやに、いいジョウはっせい。して、ろすます。ね。」
落ちた天井の瓦礫から壊れた腕が伸びる。アリサが瓦礫のそれへと引き寄せられた。
電車男だった。透乃に叩きつけられて、五階下のここまで落ちてきた。体中がスパークしている。立ってはいるが、足の部品と装甲がズボンから飛び出している。
「アザイック はかせ ひじとち を とえらしまた。」
「ナーイス。ジャック。お前を洗脳したかいがありました。”脳”は無事ですか?」
「はイ。 だじいょぶ です。 あああんしんしてを。」
電車男はアリサの首を掴み上げ、周りを威嚇する。下手に動けば、彼女の細い首が折られるだろう。
「大人しくしてくれますか? どうせ、お前たちに意見する権利はないですが」
と勝ち台詞を言うアイザック。人質に5体の『くまさん』による圧倒的戦力差。彼女らにどうすることも出来ない。
天井の穴から、更に三人が降りてくる。ハツネたちだ。
「クスクス……すっかりボロボロなのね。電車男」
「ハツネさん……ああやっと言語が戻った。丁度良かった。彼女たちを拘束するのを手伝ってくれませんか?。」
電車男がハツネに協力を乞う。
「じゃあ、そうしましょうか? 鍬次郎」
「おう……」
鍬次郎が抜刀する。美羽たちをひと睨みし――
抜刀の流れで電車男の腕を切り断った。
「あれ――?」
落ちる腕ともにアリサが離れていく。振り返る電車男の背中でニヒルな笑顔をハツネが向けていた。
「残念。助けると思った? クスクス、でもしてあげない! だって唯斗お兄ちゃんに怒られるの。」
それだけが理由ではない。もし何らかの方法でパラミタに帰る方法が見つかった場合、電車男に協力していたらハツネたちは共に帰れる保証はされず、帰ったとしてもほか契約者たちに拘束されたまま豚箱行きになるかもしれない。
唯斗が「大人しくしていたら向こうに帰ったら暫く眼を瞑る。その間にどこかにいけ」と提言していたおかげだ。これを守っておけば自由は保証される。
「それにESCの方々の皆さん……勝ったつもりだったのでしょうが――」
葛葉が『くまさん』を指さし告げる。
「それ、もう僕らのモノ。ですよ」
『くまさん』たちが一斉に研究者へと反旗を翻す。あるものは壁へ、あるものは床へと熊手に押し付けられで身動きが取れなくなった。無論、アイザックも羽交い締めになる。
αネットに発言が上がる。
ダリル:このビル内のアンドロイドたちは全員掌握した。もう襲われる心配は無い。
ハッキングにより、社内にいるすべての電子類はダリルの操り人形になっていた。アイザックの権限も剥奪されているため、『くまさん』もアンドロイドも言う事を聞かない。
反撃できる戦力のは自律する電車男だけ。片腕がなくなってもまだ動ける。
「だめさせないの。」
反撃行動を予測してハツネが《サンダークラップ》で体を麻痺させる。彼の動きが鈍るその隙に納刀した鍬次郎が腰を低く構えていた。
「それじゃ――壊れてなの♪」
ハツネの宣言と共に鍬次郎の抜刀が電車男の首を捉える。
首と胴が離れたそれは二つとも床に転がった。