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リアクション
三
ドドドドド……!!
地鳴りのようなものが聞こえたかと思うと、それが次第に大きくなり、更に近づいてくるのが分かった。
契約者たちは平太を囲み、それぞれ武器や盾を構える。
「来たぞ!!」
黒い塊が飛び出してきた。真柄 直隆(まがら・なおたか)は、自慢の「太郎太刀」を抜き放ち、渾身の力で振り下ろした。
「キャイーン!!」
悲痛とも言える叫び声を残し、その黒い物体は墜落した。地面に血だまりが広がる。
それで終わりではなかった。次から次へ、黒い塊が一行へ向かってくる。
暮流がブーストソードで薙ぎ払うと、ばたばたとそれらが地面に落ちた。
「これは……!?」
狼だった。普通のそれより、一回りは大きい。
「うおおおお!」
直隆が大太刀を振り回す。一匹、また一匹と倒れていくが、次から次へと狼たちは襲ってくる。
「キリがない……!」
ギリ、と直隆は歯噛みした。
「ど、どうしましょう!?」
半泣きになって、平太はジョージに尋ねた。
「倒すしかあるまい」
とジョージは答えた「我々の力を以てすれば、難しいことではない」
「そ、そうですよね」
「それに君の強さを皆に見せるいい機会じゃ」
「は? 僕ですか?」
「謙遜するな。わしを破ったときのあの力、君は只者ではなかろう」
「いやあれは僕ではなくて……」
御前試合で、ジョージは平太に敗れていた。ただしその時の平太は、武蔵に憑依されていたのだが。
「さあ、行くがよい、平助くん!」
「僕は平太――って、ええええ!?」
ジョージに力いっぱい背中を押され、平太は一行の正面に躍り出た。大きく口を開けた狼が、目前に迫っている。
「ぎゃああああ!」
叫び声と同時に目を瞑り、平太はしゃがみ込んだ。
「何をしておる!」
直隆の大太刀が、狼に突き刺さる。
「あんた、平助を殺す気!?」
「なに心配ない。彼はああ見えて、なかなか強いぞ」
それはへーた君ではなく武蔵です、と由紀也は突っ込みたかった。それ以前に生駒もジョージも、平太の名前を勘違いしているらしいが、それを訂正する余裕も今はない。
「ここはオレたちに任せて、へーた君たちは先へ!」
「おう!」
直隆が平太の襟首を掴んだ。ミアは【庇護者】で平太を守りつつ、前方へ向け【稲妻の札】を使った。立て続けに雷が落ち、ミアたちの前に道が出来た。そこをレキ、直隆、ルカルカ、シャノン、グレゴワール、ミアの順で駆け抜ける。――平太は直隆に抱えられたままだ。
「狼たちが勝手に襲ってくるはずないと思うんだけどね」
「指揮官がいるってことか?」
生駒の指摘に、由紀也が尋ねる。
「――由紀也! あそこですわ!」
沙耶が遠くを指差した。その先に、一際大きな狼――いや、二本足で立っているところを見ると人かもしれない――の影が見えた。
「おそらく、あれが指揮官か司令塔ですわ」
「一気に全部燃やす?」
生駒が火炎放射器を構えた。
「そんなことをすれば、山火事になってしまいますわ!」
ミアの放った雷で、既にあちこちから煙が立ち上っている。一刻も早く消火作業をしなければ、火が広がってしまう。
「生きるか死ぬかの瀬戸際なら、ワタシは燃やす方を選ぶけどね」
「他に方法があるはずですわ」
「だね。なら、誰か囮に」
「私が」
「わしも行こう」
「防護細胞」で身体を硬化させた暮流が、狼の群れに飛び込んだ。狼たちはたちまち餌に食らいつく。続いて【不壊不動】を発動させたジョージが、狼を一匹ずつ殴り飛ばしていく。
由紀也は片膝を突き、「十字型大銃:ヴィア・ドロローサ」を構えて待った。
狼たちの指揮官が、地面を蹴った。周囲の木を薙ぎ倒し、暮流とジョージに向け鋭い爪を振り下ろす。
「今だ!」
生駒の指示に、由紀也の指が動く。
――パン!
指揮官の額から血が迸り、それはどうと音を立てて後ろに倒れた。
狼たちは激しく吠え立てるが、指揮官がいない以上は烏合の衆だ。とどめとばかりに沙耶が【罪と死】を見せると、きゃんきゃん鳴きながら皆引き上げて行った。
「獣人――なのか?」
横たわる死体を見下ろし、由紀也は呟いた。
二足歩行をし、手の指も人間のようだが全身が毛むくじゃらで、獣のような牙や爪が備わっている。顔はほぼそのまま狼だ。衣服の類、武器の類は一切身につけていない。
「人狼……?」
ぼそり、と生駒。
「え?」
「いや、確かこの山、パラミタ古代種族の鬼とは違う、別の鬼がいるって聞いたんだけど」
反乱の首謀者の一人が、大鬼だった。古代種族ではないが、人間を凌駕する力を持っているという。
「古代種族の鬼に似た大鬼がいるんなら、獣人に似た別の種族がいてもおかしくないんじゃない?」
「じゃあ、これは」
「いわゆる、狼男じゃな」
一人納得したようにジョージは頷く。
「そんな馬鹿な。獣人に似た狼男? 何でそんなものがいるんだ?」
「それはここが『妖怪の山』だからじゃろう」
「この前は、狼だけだったはずだ。こんなのがいたなんて、聞いてないぞ!」
「隠れてたんじゃろう」
「それに満月じゃないし!」
「そう、そこじゃ」
ジョージは顎を撫でながら言った。
「これが人狼だとして、満月でもないのに狼化し、しかも狼たちと一緒にわしらを襲う」
「妙……ですわね」
沙耶の額にも皺が寄る。
「どういう意味?」
「そもそもの反乱は、一部の妖怪の暴走ということで片付いたはず。まだ人間に反感を持つ者がいたとしても、前回参加していなかった妖怪が人間を襲うなどと……」
「嫌な感じがするね」
生駒は、逃げた平太たちを案ずるよう目を細めた。
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