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蟲と鼠の饗宴-バイオハザード-

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蟲と鼠の饗宴-バイオハザード-

リアクション




6/ 終幕

 そこから先は、迅速だった。

 第二陣の、多人数による蟲と鼠たちの駆除部隊が突入。結界と、忌避剤を用いてピンポイントに、両者を追いこんでいって。
 ミハイル率いるパイロキネシスのチームが、それらを焼き払っていく。負傷者、感染者たちはそれぞれに運び出され、あるいは担がれて、次々搬送されていく。

 重症者と、そして子どもたちを優先して。
 ダリルの作成した薬が、大いに役に立っていた。

「──よか、った」
「柚先輩!?」

 その、子どもたちの最後のひとりが救急車に載せられて。施設をあとにしたのを見届けた直後。糸がぷっつりと切れたように、柚ががくりと膝を折り、その場に倒れ込む。

「ちょ、大丈夫──……って、うわ、すごい熱!?」
 美羽と彩夜に支えられ、どうにか前のめりに転倒することだけは避けた柚が、元気なく笑っている。
 すいません、安心したら、緊張が切れてしまって。そう、言いながら。
「先輩も重症じゃないですか、はやく病院に」
「へ、平気ですから……。救急車はもっと症状の酷い人を優先して……っ?」
 気遣う彩夜に、遠慮する柚。その構図は、不意に柚の感じた浮揚感に遮られて。

「ちょ、海? きみだって具合悪いんだから……っ」
「わーかってるよ。だけどこうでもしないと、素直に運ばれないだろ」

 三月の言葉で、彼女は把握する。自分が抱き上げられたこと。
 海に。いわゆる、お姫さま抱っこをされているという、現実。

「え、あの、その」
「寝てろよ、ほら」

 混乱し、軽くパニックになりそうになる。けれど、海の声と、全体重を支えてくれる人肌の安心感とに、完全に気が抜けていく。
 それ以上何も言えず、ほぼ無意識のうちに柚は眠りに落ちる。

「ダリルから一応薬も打ってもらったしな、運ぶくらいはできるさ」

 さすがに体力の限界か、担架に乗せられ運ばれていくセレンフィリティ、セレアナ、真人。彼らに付き添うフレンディス、ベルク、セルファ。そちらに、海もまた柚を運んでいく。
 その後ろ姿を見守る彩夜の髪を、ぽんと軽く叩いて、静かに加夜が撫でる。
「でも、彩夜ちゃんも頑張りましたね。偉いです」
「え? でも私はなにも──……」
「そんなことないと思うよ。だって私たちのこと、ちゃんと助けにきてくれたじゃん」
 きょとんとする彩夜に、美羽も続ける。
「前よりずっと、色んなことに積極的になってきたんじゃないかな」
「ええ。ちょっと見ていて、誇らしいです」
 面と向かって言われ、それらの言葉を言ったふたりの笑顔を交互に見上げて、紅くなり俯く彩夜。

「そ……そう、ですか?」

 負傷者の手当てを手伝いつつ、微笑ましいその光景を眺めて、ベアトリーチェが優しい視線を向けていた。



「何? 妙な奴だと?」
 
 飲みにくそうに、ダリルのつくった薬を──いくらオレンジの味がつけられているとはいえ、本来は注射によって投与されることが前提の薬だ、飲み下しにくくて当たり前だ──、ちびちびと口にしながら、セレスティアーナは吹雪からの報告を受けていた。

 それは、恭也のこと。今思えば不審なやつであったと、状況を彼女はセレスティアーナに説明していく。
 たったひとりで、しかも動じた様子も、戦い続けていた様子もなく。そして状況をほぼ完璧に把握していた。
 まるで、緊急事態が起こることに予め、備えていたような。なにかよからぬ目的のもと、彼はここにいたのではないか、と。

「まあ、少なくとも単なる一般の見学者って感じではなかったわよ、うん。そこは間違いないと思うわ」

 コルセアも、吹雪の言葉を補足するように同調意見を続ける。
 今回の一件、単なる事故だと思っていたが、まさか。人為的なもの、なのか? だとすればテロ──……いや、しかし。
 様々な思考が、代王の脳裏を錯綜していく。
「……ひとまず、話をその男本人から訊きたい。シロかクロか、判断するためにも。報奨は出そう。至急、探し出してもらいたい」
「それなら、大丈夫」
「ルカ。貴様か」
 王たる自分が一般人を押しのけて運ばれるわけにはいかないと、残っている救護テント。そこに、ダリルはどこへ行ったか、ルカルカがひとり姿を見せる。

「ダリルも、妙なことがいくつかあったって、気にしててね。今、その男ってのを探してる」

 だから、ダリルに任せましょう。あなただってまだ、本調子じゃないんだし。
 ルカルカに肩を叩かれ、まだ半分以上残っている薬の液面を見つめるセレスティアーナ。
「……うむ」
 彼ならば、まあ。
 たしかに、仕事ぶりには信用がおける、か。任せてみるか。

「で。それ、飲まないの? 具合よくなんないよ?」
「う、うるさい。ゆっくりと慌てずしずしずと飲んでいるだけなのが、わからぬか。そもそも薬というものはだな、口に苦しと言って」
「はいはい。左様ですか、代王さま」



 先客が、いた。彼自身が通信室において、セルファに一歩、先んじていたように。

「研究室からデータを抜き出していったのは、お前か」
「……ご明察」

 飛都の読みどおりの言葉を、平然とぽろりと、その男──恭也は悪びれもせず、立ちはだかったダリルへと言ってのけていた。
 彼は、ふたりのそんなやりとりを聞くだけ。物陰に息をひそめて、出ていくにいけぬまま。じっと耳をそばだて、聴き続ける。

「理由はなんだ。目的は」
「あー。悪いが」

 問い詰めるダリルに、面倒くさそうに肩を竦める恭也。

「疑われてる自覚アリだからこそ言う。生憎だが、今回のこのバイオハザード。俺はシロだ」
「何?」
「俺が頼まれたのは、薬のデータを盗んで来いってだけ。証拠に、あの蚊に感染したウイルスのデータは残しておいたろ? 一部それと知らずに消しちまったものもあったが。可能な範囲で復元もしておいたはずだ」
 
 少なくとも、俺が実行犯というかたちでのテロという線は、ない。恭也はきっぱりと、ダリルに向かい断言をする。
 
「……クライアントは、ライバル企業といったところか? それも、地球の……という可能性も?」
「ま、そんなところだ。どうもクライアントとしては堪え性のない感じではあったからな。少なくとも資本は地球だろう」

 どっしりこちらに本社を構えているような、そんな感じじゃあなかったな。今頃事態に焦って空気も読まずに通信なんぞやらかして、色々バレてたりするかもしれん。
 銃型HCを、彼は手の中で玩ぶ。疑われてもしようのない立場だという自覚はあるのだろう。果たしてダリルはここから、どう動くのか。

 ──飛都としては、どうすべきか。

「……そうか、わかった。いいだろう。信じよう」
「ほう、いいのか?」
「妙に必要なデータが揃って見つかったのも事実だからな。あれがなければ薬はつくれなかった」
 お前の言い分に、信憑性はある。そして、生憎とこちとら、企業同士の醜い争いに首を突っ込む趣味もないのでな。

「そうか。それじゃあな」
「行くがいい」

 ……信用するのか!? 思わず、物陰から飛都は立ち上がる。
 本当のことを言っている保障など、ないではないか。捕らえて、洗いざらい吐かせないと。
 追いかけようと、物陰から躍り出た。
 だがそこでは、こちらにいつから気付いていたのだろう、視線を向けてゆっくりと首を左右に振るダリルが、静かに佇んでいた。

「……しかし」

 そう言うのが、抵抗としては精いっぱいのものだった。
 恭也は、そんなふたりを尻目に、行く。
 夕陽がもう、地平線の向こうに沈もうとしているオレンジ色の中を。
 
                                          (了)
 

担当マスターより

▼担当マスター

640

▼マスターコメント

 ごきげんよう。ゲームマスターの640です。お待たせいたしました、リアクション『蟲と鼠の饗宴−バイオハザード−』をお届けいたしました。いかがだったでしょうか?
 今回、派手な場面を、という方と同じくらいにキャラクター同士の絆ややりとりを表現するアクションを投稿されていた方が多かったように思えます。その点が印象的だったこともあり、そういった部分を強調したお話になっていると思います。救出劇的なド派手なものを期待されていたら、申し訳なくもあったりしますが。
 それではまた、次のシナリオガイドでお会いできることを祈りつつ。では。