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リアクション
奥山 沙夢(おくやま・さゆめ) 雲入 弥狐(くもいり・みこ) 長曽禰 ジェライザ・ローズ(ながそね・じぇらいざろーず) シン・クーリッジ(しん・くーりっじ) 茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす) 柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)
「先に言わせておいてもらうと、これから私が行うのは、尋問といよりはカウンセリングで、カウンセリングよりも、雑談に近いわ。
記憶喪失の壁に阻まれて、捜査に行き詰まりを感じているヤードのみなさんが、ダメもとで私を呼んだの。
ですから、お互いにリラックスしてお話しましょう。
よろしくお願いしますね」
「ヤードは、沙夢とあたしを呼んだのよ」
被疑者たちにあいさつをする沙夢の隣で弥狐は胸をはっている。
沙夢と弥狐の前には、机を挟んで長曽禰ジェライザ・ローズと茅野瀬衿栖が座っていた。
2人同時に会わせてもらえるように、沙夢がヤードに頼んだのだ。
「まずは茅野瀬衿栖さんから。
長曽禰さんは、茅野瀬さんのお話をきいていてくださいね」
だって、長曽禰さんのは、もう解決しているから。
「はい。お願いします。
私は茅野瀬衿栖。
人形師で、アイドル、探偵助手としても活動しています」
衿栖は、沙夢に、真実の館でルディに話した内容をほとんどそのまま話してから、館をでて、マジェで自力で自分の記憶を探すうちに、事件に巻き込まれたことも語った。
「神父さんにも相談しましたが、やっぱり自分でやるしかないと思って、日記をみながら、あの日の前まで自分が行っていた場所を順番にたずねてみました。
記憶のない日は、日記にスケジュールさえも書いていないので、私がなにをしていたのか、見当がつかないんです。
そして、再訪した建物が崩壊して」
「あなたは、無事だったの」
「はい。ダウンタウンの空き家です。3階だてのたてもので、誰も住んでいなくて、私が外が眺めていたら、突然、崩れはじめたんです。
気がつくとヤードの人たちがきていて、私は爆破の現行犯として、逮捕されました」
「でも、それは誤解なんでしょう」
「ええ。私は爆薬なんて仕掛けていません。
でも、記憶にない日に仕掛けたのかもしれない。
周辺の住人たちには、ここ数週間の間、私があの建物に何度も出入りしてるのを目撃している人がいるそうです。
私には、何度もいった記憶なんてないんです。
だから、いま、自分に全然、自信が持てなくなってて」
衿栖はかなしげにうつむく。
大変ね。あなたが無実なのを私は祈ってあげるくらいしかできそうにないわ。
「これはあくまで私の個人的な意見なのだけど、あなたに必要なのは、調査や取り調べではなくて、休養と診察なのではないかな。
記憶喪失は病気の症状の1つかもしれないし、お医者さんにかかるべきよ」
「それは、そうかもしれませんが、私の記憶が犯罪事件とかかわっているとしたら、早く取り戻さないと、誰かが被害にあうかもしれません」
「自分をもっと大切にしても、いいんじゃないのかな」
消え入りそうな声で、衿栖は、はい、とこたえた。
彼女のこれが詐病だとしても、誰も得をしはしないわ。
長曽禰さんのと違って。
私は彼女が本当に記憶を失ってしまっていると思う。
「ところで長曽禰さん。話は違うのですが、あなたは優秀なお医者さんですよね。
医学部で先生をつとめておられるほどですもの。
たとえば、茅野瀬さんがあなたの患者さんだったとしたら、どう治療なされますか」
急に話を振られた長曽禰は、あごに手をあてすこし黙ってから、
「脳波などの検査をしたあとで、ということなら、可能性としては、音楽、運動、催眠療法などかな。
脳自体に異常がなければ、ふとしたきっかけで記憶は戻ると思うよ」
「なら、あなたが正常だったら、衿栖にそれらの治療を施してあげるのかしら」
「意味のよくわからない質問だが、私は医者として、年齢、性別、その人の身分にかかわらず、私に助けを求める人を助けるのをモットーとしている。
彼女が私の治療を必要とするのなら、いつだってその思いにはこたえるよ」
「了解しました。
茅野瀬さん、聞いたわね。
長曽禰さんが私との話が終わったら、きっと、あなたを診てくれるわ。
もう、しばらくだけ待っていていてね。
それでは、長曽禰さん。
あなたに会わせたい方がいらっしゃいます。
さっき、あなたに会うために、ヤードにいらしたところなの。
この人に会えば、あなたはもう記憶喪失である必要はないのでしょう。
どうぞ。
柚木貴瀬さん。彼女を連れてきてください」
沙夢が呼びかけると、シン・クーリッジ、柚木貴瀬、それと簡素なドレスを着たロングのブロンドの少女が取調室に入ってきた。