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悲劇の歴『磔天女』

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悲劇の歴『磔天女』

リアクション

1 
 全く身動きの取れない龍杜 那由他(たつもり・なゆた)皇 彼方(はなぶさ・かなた)。これではなす術がない。
「おーい! 誰かいないのか!」
 彼方が大声を出してみるも、明倫館内に反応する声はなく、白塗り人間の呻き声しか聞こえない。救援を頼みたいが、誰もいない。そんな絶望的な状況の中、たった一筋だけ見えた光。那由他と彼方ははっとして、視線だけを外に向けた。



2 
「マスター、レティシアさん。この空気……大変嫌な感じが致します。って、あれは那由他さん!? 大変です! 今すぐお助けせねばなりませぬ!」
「ふむ? おお、これは。久々に面白い現場に居合わせたものだな」
「レティシア……絶対この空気を楽しんでるだろ」
「うるさい黙れ斬るぞ」
 不穏な空気を察知し、逸早く那由他達を発見したのは、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)とパートナーのレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)、そしてベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)だ。フレンディスの肩からひょっこりと顔を覗かせ、東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)も眉間に皺を寄せる。
「那由他ちゃんと彼方くん、もしかして動けないの? これはまずいよ!」
「秋日子さん。まさかあの中に突っ込む気では……?」
「もちろんだよ。私達が助けないで誰が助けるの? フィーネさんも来てくれる? もちろん遊馬くんも」
「……フィーネさんもあの中に飛び込むと思うと凄く気が重いぜ」
 秋日子のパートナーである遊馬 シズ(あすま・しず)フィーネ・アスマ(ふぃーね・あすま)がそれぞれ眉を下げるが、秋日子もフレンディスもそんなことではへこたれなかった。
「行こう、フレンディスちゃん、レティシアさん、ベルクさん! 那由他ちゃん達を守れるのは、私達しかいない!」
「はい、秋日子さん! フィーネさんとシズさんも、宜しくお願い致します」


 6人が那由他と彼方の元へ駆け寄った時、白塗り人間との距離は数十メートル。全員が武器を構え、前方から来る白塗り人間と対峙した。
「やれやれ……何だよこの連中は……無駄に数が多いときたもんだ」
「何者かは存じ上げませんが、那由他さん達に刃を向ける以上お覚悟下さい……」
「主らも動けない相手ではつまらないであろう? 我が存分に相手になろうではないか。我を満足させられるよう全力で挑んで来るがよい。全員斬って捨ててやろうぞ!」
「ちょっとちょーっと待て、フレイ、レティシア? こいつらの正体が解らねぇ以上、無暗に殺さねぇ方が良さそうだぜ?」
 滾るフレンディスとレティシアは不満そうにベルクを振り返ったが、秋日子もうん、と頷いた。レティシアにおいては非常に不機嫌そうに、
「……已むを得まい。但しベルク。代わりに後でお主を斬って捨ててやろうぞ」
 と呟いている。
「白塗り人間ってみんな同じ姿してるけど、明倫館の生徒かもしれないって本当なのかな? あ、これ小耳に挟んだんだけどね。そうだとしたら、みんな誰かに乗っ取られてるかもしれないってことでしょ?」
「確かにな。それに那由他サン達の金縛りってのは呪詛の類なんだろうか? 白塗り人間にも、もしかしたら呪詛がかけられてたりするんだろうか?」
「可能性はあると思うぜ」
 秋日子とシズの後方で、彼方が声をかけた。
「助かるぜ、ありがとう。ええと、東雲とティラ、だっけか? 東雲の言う通り金縛りにあってる。白塗りの奴らの後方に女の子が現れて、その子が片手を上げた瞬間かかっちまった」
「呪詛なのかは分からないけどね。その女の子をどうにかすれば解けるかもしれないけど、他に解く方法があれば……」
「成程。呪詛だったとして、かけた術者はその女の子とやらで間違いなさそうだな。んー……。術者見当たんねぇし、とりあえずダメもとで呪詛払いをしておくか」
 シズが笛を取り出し、旋律を奏でて呪詛祓いをし始めた。その横で、フィーネが黒い微笑を浮かべている。
「秋日子さん。この人達はぶちのめしちゃっていいんですよね?」
「え? いや、まぁあまり白塗りさん達を傷つけないように手加減しつつ倒していこうかと。まだ正体だって分からないんだし。ね? あ、そうそう、遊馬くんはフィーネさんが暴走しないようにちゃんと見ておいてあげてね! 呪詛祓い中で大変かもしれないけど!」
「え? ちょ、待」
 シズの返事を待たずして、フレンディス、レティシア、そして秋日子は前に出た。白塗り人間との距離をじりじりと縮めていく。フィーネはニコニコ笑ってシズを見、思わずシズの口からため息が漏れた。
「……大変だな、シズ」
「ベルクさんも……」
 シズとベルクの間で、何かが芽生えたようだ。
「とにかくだ。ここは葦原明倫館内。助けを求めてる学生がいるかもしれない。そいつらも見つけないと」
「ああ、それならもう、向かってる人達がいるようだぜ?」
 ベルクが示した方向には、5人の人影があった。