リアクション
第11章 造反
黒白の灰は特殊防護室で保管されているが、噴霧する際のコーティング剤は別の部屋で保管されている。
しかし、要塞内の噴霧装置に入ったコーティング剤が一定の量を下回ると、アラームが発され、補給されないと一定の時間の後保管庫が開かれる。
先程の騒ぎで保管庫が開いた。タァが防護室を出ていったのを確認し、幹部の一人がそれを防護室内に運び入れた。
これで、薬は揃った。
防護室内には噴霧装置はない。簡易的な微粒子コーティング装置はあるが。
だが、最大の噴霧装置は――『丘』にある。
「我らは『丘』を手に入れるぞ!!」
幹部たちは、防護室内の小さなコンソールを操作した。
まず、防護室自体が要塞内の分厚い隔壁から切り離された。
そして、制御室のコントロール系統を防護室から切り離す巨大隔壁(これは防護室からしか作動できない)を下ろした。
――もちろん、タァと契約者たちがそこにいることを承知した上でだ。
この隔壁は、引き上げるシステムはない。
敵が制御室を制圧した場合に作動させる緊急用プログラムであった。
そして。
特殊防護室の小型動力部が作動を始めた。
要塞内に地響きだけを残し、防護室は要塞を離脱した。
小さな一個の飛空艇のようなものに変わった防護室は、ゆっくりとパクセルム島の大地に降りていった。
『ついにじりきで ふんむさくせんのけっこうにふみきったか……』
タァは呟く。隔壁に触れるルカルカに、
『むだだ。このかべは、ならくじんのわたしさえ、とおりぬけることはできん』
その分厚い壁を撫でて、しかしルカルカは絶望など知らない表情を見せる。
「このくらい、破ってみせるわ――ちょっと暑いけど、我慢しててね♪」
凄まじい熱が壁を駆け上がる。
【火門遁甲・創操焔の術】による圧倒的な炎が、一気に灼熱の溶岩で壁の表面を覆う。炎は硬質で重量のある隔壁をむしゃむしゃと食べるように蝕んでいき、その残骸すら自らの燃え盛る溶鉱炉の中で溶かし尽くして無に帰す。
かくして、壁は取り払われた。
だが、防護室はすでに要塞から消えていた。
丘の上の大樹が、風もないのにざわりと揺れる。
折れ痕からすら伸びる若枝の先の柔らかな新葉がさらさら鳴る。
――私は私に出来る事をする。信じてね、キオネ。
丘の麓、開かずの扉の前に、ばらばらになった鎧の残骸が積まれて置かれてあった。
クリスタルの中に金の粒をちりばめた、美しい残骸であった。
気の遠くなるような年月、開かれなかった扉の鍵が、かちり、と鳴った。
≪後編に続く≫
参加してくださいました皆様、お疲れ様でした。
あちこちにやることが点在している状況で、難しかったかもしれませんが、皆様にはいろいろ工夫したアクションをかけて頂き、感謝しております。特に、思った以上にザイキを心配してくださる方がいて、手厚く保護されて彼にとっては幸いでした(笑)。
主な結果ですが、
・洗脳された天使たちは全員昏睡状態で味方(警察・守護天使連合)側に収容されました。
・狂戦士=ヒエロは意識不明の状態で味方側に収容されました。
・魔鎧ペコラ・ネーラは自発的にヒエロから外れましたが、魂が欠け落ちたままでどこかへ飛び去り、生死不明です。
・セッション準備用生体システムに魂を繋ぐ杭は、卯雪からペコラに引き取られました。
これにより卯雪は現時点で完全にコクビャクの手を逃れました。
・移動要塞は事実上制圧されましたが、
特殊防護室はコクビャク幹部と「(改良型)黒白の灰」を内包して離脱し、島の大地に降下しました。
・グラフィティ:B.Bは一足先に要塞を脱出し、警察の陣営に向かいました。
次回がシリーズラストになります。もうひと踏ん張り、でお付き合いいただければ嬉しいです。
今回、時間的な都合で称号をご用意できませんでした。申し訳ありません。
それでは、またお会いできれば幸いです。ありがとうございました。