百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

秋はすぐそこ

リアクション公開中!

秋はすぐそこ
秋はすぐそこ 秋はすぐそこ

リアクション

 
 Episode1. 秘密のキス
 
 
 六月の花嫁は多忙だった。新婚旅行の時間も取れない程に。

 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、結婚してから二ヶ月になろうというのに、まとまった休みを取ることができないでいた。
「新婚旅行っていうか……今年も夏休み無しかぁ……」
 全然遊ぶ暇が無い。セレアナとはいつも一緒だけれど、問題はそこじゃない。
「もう泣いちゃおうかな……」
と呟いていると、セレアナが勢い良くドアを開けて入って来た。
「セレン、休暇が貰えたわ! 二人一緒よ!」
「え?」
 スケジュールの調整で、急にポカッと長期休暇が入ったのだ。
「夢じゃないわよね……。
 というかやっぱり嘘って言われる前に、とっとと何処かに行きましょう。
 行き先はダーツで決めるってことでいい?」
「……セレンの行動力って時々面白いわ。いいわよ」
 半ば呆れつつも、セレアナは反対しない。
 何処に行くかは問題ではない。二人で行くことが重要なのだ。

 そうして決まった場所は、イルミンスールだった。


 ザンスカール・ウォーターパークは、広くて人も多過ぎず、遊ぶには充分に快適な場所だった。
「今年はまだ海にもプールにも行けてなかったしね。
 このまま諦めかなと思ってたけど、まあ、新婚旅行にプールもいいじゃない?」
「そうね」
 去年バイトをした水着ブランドから貰った、お気に入りの水着を着て、腕を組んで歩き。
 プールやスライダーでは手を繋いで。
 二人は一通り、ウォーターライドや流れるプールなどを楽しむ。

 散々遊んだ後で、プールサイドのデッキチェアが空いているのを見つけ、並んでのんびり寝そべった。
「はあ、楽しい。少し疲れたわね」
 セレアナが買ってきたドリンクを飲み終えると、セレンフィリティは、だらっと力を抜く。
 気合を入れて遊び過ぎて、やっと人心地ついた気がする。
 暫く休みましょ、と言おうとして、横を見ると、セレアナはもう寝息を立てていた。
 セレアナも遊び疲れたのだろう、ヘッドフォンで聴いていた音楽が、子守唄になってしまったようだ。
「ふふ……可愛い」
 隣のデッキチェアに寝そべって、暫くその寝顔を見つめていたが、無邪気で無防備な姿に、むくむくと悪戯心が沸いて、そっと近づく。
 キスなんて、今迄数え切れない程しているけれど、シチュエイションが違うと、こんなにドキドキするから不思議だ。
(セレアナ……)
 まるで初めてを奪うような気持ちになりながら、そっと唇を重ねようとして――

「フハハハハ!」

 突然、高笑いが響き渡った。
「!?」
 びくっ、とセレンフィリティは居住まいを正す。
「ん……なに?」
 セレアナがぼんやりと目を開けた。
「え? えっと、何かしら……」
 未遂に終わったキスを残念に思いつつ、セレンフィリティは笑って誤魔化した。