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リアクション
 教導団での新訓練カリキュラムへの参加を命ぜられたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。
「(『自己を受け入れて乗り越えろ』というが……どんな訓練になるのやら、多少の不安は感じるけど、考えてもしょうがないよね。なるようになるなる!)」
 若干の不安を抱えたまま、それでいてなるようになると気楽に構えていたセレンフィリティ。
 セレアナは自身の分身を出す事は希望せずにこの場にセレンフィリティの援護として参加していた。
 風と共に現れたセレンフィリティは過剰なまでに好戦的で、過剰なまでに攻撃的で、何より、むき出しの殺意と憎悪をシンプルに叩きつける類の女であった。
『相手を殺すことに何らの躊躇いなんてないわ。躊躇っていたら生き残れないもの。ねぇ、あたしの考えは間違ってる?』
『ただ目の前にいる他者は全て敵よ。味方なんて存在しない。味方だと思っていてもいつかは必ず敵として向かい合うことになるもの』
『敵である以上、共存も分離もままならぬから殺す。それのなにがいけないの?』
 憎悪と殺意の化身とも言えるセレンフィリティは猛攻撃をしかけてくる。
 いつもなら、普通の敵であるなら、こうまで押されることはなかったかもしれない。
 しかし、今向き合っているのはセレンフィリティ自身。
『ねぇ、覚えてる? あたしの初めの記憶がいつか』
「あ……」
『忘れる訳ないわよね? 売春組織で夜毎、時には昼も夜もなく見知らぬ男たちに凌辱される日々。その間は心を空っぽにして快楽に溺れることで惨めな自分の現実を逃れる。そうやって生きていたんだもん』
 憎悪と殺意の化身となった理由でもあるかつての記憶。
 まざまざと浮かんで来る、あの頃の日々。
『ねぇ、どうしてあたしは力を求めたの?』
「あたしは……!」
『そうよ。……快楽におぼれつつも、力のなかったあたしに許されたのは空想の中で自分をこんな境遇に追いやった世界への憎悪、他者の全面否定。その為には力が欲しかった……そう、今の自分に備わっているような!』
 激しかった攻撃が更に力と憎悪を乗せて一段と増す。
 セレアナの援護が無ければ、セレンフィリティはすぐに地に伏していただろう。
 甦る過去。男たちに凌辱される日々。なぜ力を求めたのかの理由を今一度思い起こされ揺れるセレンフィリティの心。
「セレン……」
 セレアナはセレンフィリティとの出会いを思い浮かべる。
 ボロボロになるまで酷使されて捨てられているところを……。
 手を差し伸べ、助け出したのがきっかけで今こうして隣に立っているのだ。
 だが、そんな出会いがあったからといって、今セレアナが助けるのは間違っている。
 あくまでも、これはセレンフィリティ自身がどうにかしなければならない問題である為、セレアナはあくまでも援護に留まった。
「(これはセレンがどうにかしなければならない問題よ。私にできるのは可能な限り援護するだけ)」
 セレンフィリティが乗り越えてほしい、乗り越えられると信じているからこそ、援護に努めているのだ。
 一緒にいた時間も長い。
 言わなくても、伝わるモノがあるのだろう。
 押される一方だったセレンフィリティが次第に押し返すようになっていく。
「過去を突き付けられたからと揺れるなんて、自分もまだ弱いのかもしれないわね」
 揺れる心が静まると、あとは己が培ってきた経験をもとに攻めていくだけだ。
「あの忌まわしい過去は死ぬまで自分の傷としてついてまわる……だからこそ、過去の亡霊とも言うべき憎悪の化身であるもう一人のあたしを倒さなければ……死ぬまで過去の奴隷として生きることになる。そんなこと、あたしは嫌だ」
 セレンフィリティの決心を聴き届けたセレアナは、援護を弱め最後には離れた場所で見守る姿勢をとった。
 援護が無くても今のセレンフィリティには自分を乗り越える為の力はあるのだと気付いたから。
「過去の奴隷にはなりたくない。……もう逃げたくないと、辛くてもそう決めたの。これが覚悟よ!」
 自分の弱さを受け入れた上で、覚悟と共にセレンフィリティはもう一人のセレンフィリティに打ち勝つ。
 どさりと倒れた彼女をそっと抱きしめるセレンフィリティ。
「もう大丈夫。憎しみも全部、あたしが受け入れるよ。だから、安心してあたしの中で眠って」
 憎悪から解放されることを願いながらそう言うと、抱きしめたセレンフィリティがセレンフィリティの中へ溶け込むようにして消えていった。
「これって……」
「セレンが受け入れた証拠じゃないかしら?」
「そう、かな」
「えぇ、きっとそうよ。よく自分を受け入れられたわね」
「セレアナがいたからだよ。あたし一人じゃきっとあの頃の奴隷のままだった。ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
 
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