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リアクション
■
当初、その人格や経歴から、現オーナー“X”と目されていたのは2人いた。
夢野 久(ゆめの・ひさし)と東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)である。
そのうち、初めに動いたのは、桐生 円(きりゅう・まどか)だった。
本来は「弁護士資格」修得のために下宿生になったオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)もこれに力を貸す。
ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)も円を支持して、行動は開始された。
「まずは、“X”。
東園寺雄軒を探さないとだね!」
「しかし、なぜ雄軒だときめつけるのですぅ? 円」
オリヴィアは玄関から尋ねた。
土地の管轄法務局を尋ね、「登記簿」から辺りをつけに行くつもりなのだ。
「だってさ」と円。
「いつも知識がどうのこうの言ってるし。
あんな『知識馬鹿』じゃないと、『知』の時代とかいわないよ!」
「それもそうだねぇー」
「頑張るよ!
勉強出来る環境整えて、
全員『目標の大学』に合格させるためにもね!」
「ありがたいことですぅー」
オリヴィアは一礼すると、玄関から出て行った。
「では、夕刻に。
吉報をお持ち下さいませぇー」
「頼んだよ! オリヴィア」
「あとは任せておいてー!」
「……て、何してんだよ? ミネルバ」
ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)は顔を真っ赤にして、全身に意識を集中させている。
「龍鱗化だよ! 皮膚をかたくしてんのー。
けいやくしょーの争奪戦にそなえてねー!」
だが、当の雄軒は首を振る。
「私が? 何かの間違いでしょう?」
コンコンと、ドアをノックする。
司の部屋だ。
「こうして1人1人当たっているのですよ。
金持ちそうな方をね」
「どうしてだよ?」
「受験生達をタダ住まいさせよう、と言うお方です。
相当な金持ちに決まっているでしょう?」
「下宿生達の生活費も、馬鹿には出来ないのだ」
とはバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)の弁。
「それすら、“X”は全員分負担しているのだよ。
雄軒に、それほどの甲斐性があるとでも?」
「……そんなこと言って!
ボクを欺こうたって、無駄何だからね!」
円はきらりん、と意地悪く目を光らせる。
「東園寺さん、今現在吸血鬼の恋人が居る、違いますか?」
「ああ……て、ハッ! まさかっ!」
「ふふん、そーだよ!
売ってくれないなら、ちぎのたくらみで子供になってさ。
デート中に乱入して『パパー、ママの所には帰って来てくれないの?』って泣きじゃくるよ」
シュンッ。
円はちぎのたくらみで5歳程度の外見になる。
パパーッ! と雄軒に抱きついた。
「やめてください!
何すんですかっ!
違うと言っているでしょうがぁっ!」
「まだしらを切るんだねー? じゃあ、腕づくでやっちゃうよー!」
けいやくしょー! 叫んで、ミネルバは龍鱗化された腕でチョップ。
雄軒達の取り巻きを追い払う。
その隙に、円は光学迷彩で姿を隠して近づいた。
行動予測で権利書を探すが、見つからない。
「じょーちゃん、そいつは違うと思うがなぁ」
司の部屋から出てきたのは、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)だ。
彼の正体は、実は「空大の医学生」であり、研修生である。
……けれど、ここでそれは言わないお約束♪
「何してんだよ? 救急箱何か持って」
「ん? ああ、チョットな」
「管理人さんにお願いされたんだ」
と出てきたのは、司のパートナー――パラケルスス。
「で、学生の衛生面や心理面のサポートを考えていたところだぜ。
まぁ、それを彼女に頼んだのは、そこの男だが」
「で、当のマレーナさんは?」
「ああ、彼女は料理面を考えてくれるらしいぜ。
日々の献立とかだな」
「とか言いつつ、俺プレゼンツの『健康レシピ』を使うことになるだろうがな!」
「ふぅ〜ん……」
ミスティーア・シャルレント(みすてぃーあ・しゃるれんと)は形の良い眉を寄せる。
「でもマレーナさんって、料理は得意ですの?」
「さぁ、そう言えばマレーナのエプロン姿って。
ここに来るまで見たことがないぜ」
「じゃ、駄目駄目かもしれないですわね?」
ミスティーアはポケットの菓子を確かめて、ニヤッと笑った。
やった! これで、日々の食生活に貧しい下宿生達をからかえる!
「ところで、さぁ、ラルク。
なんで雄軒じゃない! てわかるんだよ?」
「“X”に相応しい奴の条件さ」
つっかかる円に、ラルクは冷静に根拠を示す。
「『ドージェに恩義がある奴』なんだろう?
だとしたら、この下宿に該当者は、たった1人しかいねぇ」
「? 誰です? その方は?」
雄軒達もズイッと身を乗り出す。
その時、外から大声で「演説」流れてきた。
「『夜露死苦荘』の皆様ぁ――っ!」
地声だが、ボロ屋以外は何もない荒野においては、はた迷惑なことこの上ない。
眉をひそめて、オーナー候補者達は窓から顔を出す。
「我らが『雪だるま王国』は、(打たれ強い)優秀な人材を欲しています!」
「定期テストで一定以上の点数を取れた者に御褒美として、
マレーナさんとのデート権……げふんげふんっ、
より親密にお手伝い出来る『1日管理人補佐権』を進呈する、なんてのは、どーでしょう?」
幾人かの反応があったようだ。
よろしくおねがいしまぁ〜スノー! と、選挙宜しく魔鎧 リトルスノー(まがい・りとるすのー)がビラをまく。
「どうか、どうか!
オーナー権は、このクロセル、クロセル、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)に一票をっ!」
リトルスノーは「事務員」を装備する、雪だるま王国の優秀なスタッフだ。
ビラを配りながら。
「クロセル様がオーナーとなりました暁には、
イルミンスールの秘術を持って、
全員合格へ導く所存でございまスノー!」
下宿生達の耳がピクンッと反応する。
クロセルは内心ほくそ笑んだ。
(イルミンスールの秘術、ですか。
そんなもの、門外不出でこのようなオンボロ下宿に持ってこれるもんですか!)
だが、口約束の「公約」とは、いつの時代もそんなもの。
騙される方が悪いのだ。
「おねがいしまぁースノー!」
リトルスノーは窓辺に向かって、ウィンクを送る。
おお! と下宿生達は彼女に向かって歓声を送った。
特技による懐柔は成功したようだ。
「けれど、それくらいじゃ“X”は出てこねえかもな?」
「『説得』くらいでなびくくらいの方であれば、今頃は私達の前に名乗り出ていることでしょうね」
だが共同経営の話は、これから先の金銭の事を考えると確かにオイシイ話かもしれない……。
彼等が様々な思惑から『共同経営』の話に意識を傾けたはじめた時、別の「演説」が始まった。
「私は、伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)……」
くっくっくっと低く笑い、クロセルの後方から声を張り上げる。
だがその髪と瞳は緑色で、藤乃のものではない。
顔はナラカの仮面で隠されてはいたが……。
「その口調……逢魔時 魔理栖(おうまがとき・まりす)?」
演説をふと止めたクロセルは、ふとその名を口にした。
自分達と同じ頃、下宿に入った者の名だ。
(と言うことは、本人は奈落人に憑依されてしまったのですね?)
憐れな契約者の事を思い、クロセルは嘆息をつく。
だが、当の藤乃はノリノリで、魔理栖の内から事の成り行きを見守っていた。
(この調子でパラ実ナメている奴らを、見返してやれば面白いですね♪ ふふふ……)
彼と同じ考えを持つ、だが数倍過激な考えを持つ魔理栖の弁は、物騒なものとなる。
「オーナー“X”、出てこい!」
「そこにいるのは、わかってんだよっ!」
「こなきゃ、私が鬼払いの弓やフラワシで、夜露死苦荘を破壊するまで……」
台詞は刑事ドラマの一場面のようだが。
最後の一文のみ、どー考えても悪役だ。
藤乃は手を掲げて焔のフラワシ、僥倖のフラワシ、慈悲のフラワシ、嵐のフラワシを準備する。
「さあ、用意は整ったよ。
出てこないと、下宿は荒野の砂塵と化して……」
馬鹿野郎!
パラ実受験生の園をなんだと思ってやがる!
藤乃達は雄軒達にボコボコにされてしまった。
「くっ、6対1(憑依のため)かよ!
卑怯じゃんっ!!」
「大丈夫だ、医者はいるっ!」
救急箱を出す、ラルク。
「そういうオチかいっ!」
ガクッ。
藤乃達は力尽きた。
オーナー候補者――藤乃、脱落。
その時、円の携帯電話が鳴った。
着信画面は「オリヴィア」。
「え? この土地の管轄法務局……の職員が見つかったって?」
「円っ! よかったねー!!」
その人が登記簿を特別に見せてくれるので、お金を持って来てほしいという。
「“X”の正体は完璧だね!
じゃ、ボク達は急ぐから!」
さっさと円はミネルバを連れて旅だった。
「おい、シャンバラ荒野に『法務局』なんてあったか?」
「聞いたこともないですね!」
バルトがこたえる。
彼等の予想通り、円達は偽の登記簿を掴まされ、金だけ騙し取られたのであった。
オーナー候補者――円、脱落
ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)が息を切らせてやってきた。
「おい! 聞いたかよ?」
「何をだ?」
「オーナー“X”の噂!
……な、何と! あの東シャンバラ・ロイヤルガードの姫宮和希だ! て話だぜ!」
「ん、だとう!」
こうしちゃいられない!
遠くから聞き耳を立てていたクロセルは、一目散に和希を捜しに行く。
「へっへっへ、悪く思うなよ!
これも、パラ実生達の事を思えばこそだぜ!
オレは真面目に受験させてやりてーんでな!」
ついでにマレーナもゲットだぜっ!
ジャジラッドは「美しき管理人」との甘い日々を夢見つつ、3人の背を見送る。
オーナー候補者――クロセル、脱落。
だが、動かなかった者共がいる。
ラルクと、雄軒達だ。
「な、ななな、なんでだよ!
おまえらも、和希ん所へ行った方がいいんじゃねえの?」
「俺は、“X”の該当者を知っている、って言っただろ?」
とはラルク。
「そいつは、和希じゃねぇ」
「私も、私がイメージした“X”とは違いますので」
雄軒が追従する。
「第一、和希は、どう頑張っても『金持ちそう』には見えません!」
「という訳で、俺は。
真の“X”――夢野 久んとこに交渉しに行くぜ!」
「何!?」
「オーナーの条件は『ドージェに恩義のある奴』。
だったら、パラ実の総長たる奴しかいねぇだろ?」
「く、くそっ! バレちゃ仕方がねぇ。
こうなりゃ、勝負だぜぇ! ラルク!!」
2人は先を争って、久がいる240号室へ急ぐ。
「それも違うと思うのですけどねぇ……」
ぼやきつつも、後をついて行くのは、雄軒ら3名。
そして、やはり雄軒の予想通り、夢野久もまた首を振るのであった。
「くそっ! あんた以外、誰がオーナーの資格持っているってんだ。
ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
オーナー候補者、ジャジラッド、絶叫! ……そして脱落。
「それでも、俺はまだ信じているさ!」
ラルクは諦めきれずに、自分のアツイ思いを久にぶつけるのだった。
「俺が何でオーナーになりたいかっていうとな……空大を受験する奴には人一倍夢があるんじゃねぇかな?
俺も勿論その一人だしな。
だからこそ、ここをより勉強が出来る環境にしてぇんだ。
勿論マレーナにもその手伝いをしてもらいたいし、それによ……夢を叶えるためにここを選んでくれたんだ。
だったら俺はその期待に応えたい!」
「……だが、久は“X”じゃねぇのさ、ラルク。
綺麗に諦めな」
佐野 豊実(さの・とよみ)がポンッと肩をたたくと、ラルクはその場に崩れ落ちた。
オーナー候補者、ラルク、脱落。
「残るは、私達2人のみ」
「そうだな、雄軒」
2人の間で火花が散る。
「どーやら、私達の目的は……」
「ああ、同じようだ」
早い者勝ちだ!
そう言って、2人は詐欺師アイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)の罠にかかるのであった。
「へ、このアインが“X”だと?」
てめえら、よく見破ったぜぇ!
吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)はアインのボディーガードとして、2人を威圧する。
アインはトパーズなどの宝石類を身につけ、いかにも金持ちそうだ。
知的にも見える。実際彼は、博識を駆使して賢そうに振舞っていた。
「ところで、おぬしら」
アインはサッと周囲に目を走らせた後、耳元で囁く。
「『裏口入学』について、どう思ますかな?」
「興味ねぇな」
真面目に空大進学の事を考える2人は却下する。
う〜ん、2人ですか……。
悩むアインを前に、雄軒はプレゼンをはじめた。
「私がオーナーになりたいのは、恋人のため……ではなくて知識のためです。
図書室とかの増築とか。
防音設備とか。
まずは環境を整えたくってですね。
下宿生の願いがあれば、出来るだけ聞く公平なオーナーになるつもりですよ」
さらに5万G上乗せして、土下座する。
「駄目ですな、と言ったら?」
「奪い取らせてもうらうまでだな!」
金剛力でつけた怪力で、バルトは竜司を投げ飛ばした。
空いた方の手で、ピーマンを握りつぶす。
「苦ーい汁でも、啜って頂こうか?」
「なるほど、力尽くですか。
おぬしはいかがしますかな?」
久を指さす。
久については豊実が代弁した。
10万Gをごそっと置いて。
「久はマレーナさんに出来る限りの事をしてやりたいのさ。
この下宿を成功させてやりたい。
私も賛成。
だから、オーナーになったら、『空大合格までの間、寮内での色恋沙汰を禁ずる』ルールを作りたい。
そうして、マレーナさんに本気の男を見つけて幸せにさせる。
総てはマレーナさんと受験生達のためだね」
アインはほうっと2人を交互に見比べる。
(ふん、こいつら……デキますな!)
2人はアインの眼鏡にかなった。
竜司に指示を出すと、2人に向かっては。
「何もオーナーが1人だけ、とは決めてませんよ。
金さえ置いて行ったら、おぬし達がオーナーですな」
へへぇ、と2人はアインにひれ伏す。
25万Gを前に、竜司は内心舌を出していた。
(へっへっへ。
これで【D級四天王】として、パラ実生達に住まいを提供出来るぜ!
おっと! その前に、女どもだな!
イケ面はいかなる時も、気が回らなくちゃいけねぇや!)
こうして、2人はアインの偽“X”の罠にかかり、まんまと金を巻き上げられてしまったのであった。
オーナー候補者、雄軒、久、ともに脱落。
彼等がアインの嘘に気づいて、2人してシメるのは、もっと先の話である……。
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