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リアクション
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「こんにちは。入っていいかな?」
「はひ、どうほ!」
鼻の穴にティッシュを突っ込み、首筋をトントンしつつ、キヨシはドアに向かって言った。
入ってきたのは湯島 茜(ゆしま・あかね)だ。
(わわ、綺麗な子だな!
……でも、こいつもパラ実生か)
暗くなる。
2度あることは3度あると言うではないか!
ところが――。
「あれ、パートナーは?」
キョロキョロと部屋の中を見る。
「契約者じゃないの?」
「う、うん……」
何だかふつーな会話の流れである。
(案外まともなのかも?)
取りあえず、座布団代わりに段ボールを差し出してみた。
「ねぇ、どうして空大進学を目指してるの?」
「う、ん。兄さんの夢を叶えるためにね……それにいつまでも東大浪人に縛られるのも嫌だったし」
「へぇー、浪人生なんだ」
ふぅんと茜は悪戯っぽく口元に指を当てた。
「でも、そんなことで空大に入れるのかな?」
「? 何をす……」
急にキヨシは押し倒された。
これが女の子か? と思うくらいの凄まじい力だ!
「本気ださせようと思って」
「本気? あの、茜さん、一体何を……」
「ふん、あなたが只者じゃないくらい、あたし分かってんだから!」
「は、はいぃ?」
とーとつな展開に、キヨシの目は点になる。
「契約者の力に、一般人が対抗出来るもんかっ!」
茜は四肢を押さえて、キヨシの体の自由を拘束する。
「あなたをものにして、真のパラ実の実力を試させてもらうよ!
後田キヨシ!」
「なっ! なななな、何するですかっ!
僕ぁ、ただの地味な埼玉県民だってっ!!」
「え? パラ実のくせして、山葉と同郷!?
ますます怪しい……あなた、本物のワルね?」
茜の形の良い唇が、キヨシの目の前にある。
キヨシ、大ピンチッ!
「あのぉ……」
「お取り込み中大変申し訳ありませんがぁ。
お邪魔してもよろしいでしょうか?」
ドアから、エッツェル・アザトースとネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)がニヤニヤとみている。
見られた――!
茜は自分の計画がばれた! と勘違いして、去って行った。
(やはり、根回しもナシに訪れたのが間違いだったよっ!
今度は用意周到にしてイッチャうんだからね? キヨシ!)
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「おいしい所を邪魔しやが……じゃなくて、助かったぜ!」
はあ、と脱力気味にキヨシは礼を言って、ハッとした。
「あれ? お前は確か……昼間邦彦に捕まっていた……」
「ええ、エッツェル・アザトース。
『愛の伝道師』とお呼び下さい」
「それで……私は……優秀な助手の……ネームレス・ミスト。
よろしくです……」
えいっ、と竜殺しの槍で床に穴をあけようとする。
「わぁ、床まで破壊すんなぁ!」
「大丈夫です……トラッパーで……巧妙に……お作り……しますから……」
「そういう問題じゃなくて!!」
キヨシは慌ててネームレスの手を止めようとする。
天井ばかりでなく、床も破壊されたら、一貫の終わりだ。
だが、彼女はニッコリと笑うと。
「いいえ……私は……主公の……助手。
キヨシ様の……お手伝いを……させて……頂いた……までの事です……」
「僕の?」
「正確には欲望のだな」
ふふふ、と2人して意味深長な笑いを浮かべる。
「純情青年の調教とは!
実に面白い……ではなく、『愛の伝道師』としては当然の事」
「いや僕、別に調教されに来たわけじゃないから……」
「駄目です……キヨシ様……」
何としてでも調教したいネームレスは、キヨシを押し倒す。
「そんな……ことでは……立派な……空大生に……なれません……」
そして、無理やりキヨシの片目を床の穴に押し付ける。
その向こうには……なんと!
エプロンを脱いで、着替え中のマレーナの姿があるではないかっ!
ボロボロの服の隙間からは豊かなバストが見えていて、要するにじれったい。
キヨシの目が釘付けになる。
エッツェルは耳元で囁いた。
「これを……もっと、みたいとは思わないのですか? 純情青年よ。
女風呂……のぞき……さあ! 私と共に」
放心状態のキヨシは、操り人形宜しくコクコクと頷く。
こうして、キヨシは全く受験勉強がはかどらない上、「悪の道」に片足を踏み入れてしまったのであった。