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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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魂の器・第2章~終結 and 集結~

リアクション

 
     〜2〜

「エリザベートちゃん、何処に行ってしまうんですか〜」
 ツァンダで機晶石の回収が行われると知った神代 明日香(かみしろ・あすか)は、1度行った場所だし役に立てるだろう、と蒼空学園にやってきていた。そこでエリザベートを発見して喜んでいたのだが、彼女は何処かに行ってしまうようだ。
「明日香、あの人が私を便利アイテム代わりに使うんですぅ〜」
 エリザベートは、ざっと事情を説明した。明日香はそれを聞いて、むー、となる。
「そうですか〜、あのツンデレシスコン男さん、テレポートもタダじゃないのに分かってませんね〜」
「ひどいですよねぇ〜……って、何ですかその呼び名〜」
「あのねエリザベートちゃん、あの人は〜……」
「……何か、謂れの無い事をどっかで吹き込まれてる気がするな……」
 こそこそと話をする明日香とエリザベートを見てラスはそう呟いた。そして、さてとピノに向き直る。
「いーか? ここでいい子にして待ってるんだぞ?」
 彼女はどことなく怒っているような、うらめしそーな顔で自分を見ていた。
「……ねえ、本当に行っちゃダメ?」
「う……っ、いや、そんな顔しても駄目だ。子供の行く所じゃない」
 唇を尖らせて上目遣いで、ピノは行きたいオーラをもやもやと発散させている。ほだされそうになるのを堪え、彼はめちゃくちゃな理由で説得した。正直、何故そんなに行きたがるのか全く理解出来ないのだが。
「ラスはホント乙女心がわかってないなー。『ピノのことは俺が守る』くらい言ってあげてもいいのに。なんだかんだで、お兄ちゃん大好きっ娘なんだから……」
 しょうがないなあ、という目で久世 沙幸(くぜ・さゆき)がそれを眺めている。聞こえていたら、前半に慌てて後半を全面肯定するところだが、残念ながらラスの耳には届いていない。空京からラス達と一緒に戻っていた沙幸は、研究所の護衛をするために藍玉 美海(あいだま・みうみ)と一緒にテレポート待ちをしていた。
「ラッスンがいない間は、俺がしっかりピノちゃんを守っといたるからな!」
 ピノの隣で、元気良く社が言う。
「あ、ああ……頼むな」
 まだむむー、としているピノから離れ、エリザベート達の所に戻る。背中越しに、千尋が無邪気な声を出すのが聞こえた。
「やー兄! ラスちゃんが戻ってくるまでお留守番なの? じゃあ、それまでピノちゃんと遊んでていい?」
「おう! でも、あんまり遠くまで行かんようにな!」
「うん! ピノちゃん、一緒に遊ぼっ☆」
「う、うん……」
 不安な気持ちにならないようにしようと思ってか無意識かは分からないが、千尋はピノと手を繋いで、楽しそうに走っていく。積極的に話しかける千尋に、ピノも徐々に顔を明るくしていった。その2人を、真菜華が手招く。
「ぴーのちゃーん! お留守番してるあいだ、トランプでもやろおー!」
「あ、マナカちゃん! ちーちゃん、こっちこっち!」
 ピノが千尋を誘い、3人はきゃいきゃいとトランプを広げはじめる。離れた所では、エミールが静かに本を読んでいた。3人娘の喧騒から避難するような感じだろうか。
 彼女達の様子を確認していくらか安心すると、ラスはエリザベートに声を掛ける。いつの間にか、彼以外の全員が一箇所に固まっていた。
「待たせたな」
「待ちましたぁ〜。じゃあ、行きますよぉ〜」
 最後に宣言するエリザベート。社が大声でラスに言った。
「お前はちゃんと無事に戻ってこいや! 怪我なんかしてピノちゃんを泣かせたら納豆ネバネバの刑やからな!」
「納豆……?」
 何を想像したのか、ラスは本気で嫌そうな顔をした。余談であるが、偏食設定カタカナ名の彼は納豆が苦手である。そして中の人は納豆苦手どころではなくGレベルに天敵である(関係無い)。
 まあ、心配していることは何となく察せられるが……。
 移動する直前、社はラスに溌剌と言った。
「んじゃ、また来世!」

「来世……?」
 縁起でもない台詞に微妙にテンションが下がった頃にはテレポートが完了し、エリザベート達は研究所の外に辿りついていた。岩や遺跡の多そうな場所だ。
「これでいいですかぁ〜?」
 エリザベートはそう言うと、さっさと研究所を訪問する。渋ってはいても、行動すると決めたら早い。
「どちらさまですか? あ、お疲れさまですぅ」
 迎えてくれたのは、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)だった。6人を案内しながら、彼女は言う。
「依頼を受けて来たんですかぁ〜?」
「いや、ファーシーからの伝言があって……」
「護衛に来たんだもん!」
「機晶姫エネルギーについてとか、色々と研究所を調べに来たのよ」
「三者三様みたいですねぇ。でも、そうですか、ファーシーさんから……」
 そうして、改めて中に入るとラスは皆に伝言内容を話す。モーナの行動を知って、アクアが刺客を送りつけたらしい、油断しないように、と。
「まあ予測だし、何も無いかもしれねーけどな」
「でも、可能性があるなら、私達が責任を持って研究所の護衛をするんだもん。技師のみなさんには集中して研究に取り組んでほしいからね!」
 沙幸が言うと、美海は研究所を見回した。
「連絡があってから時間も経ちましたし少し心配でしたけれど、まだ異常は無いようですわね」
「ファーシーからは、直接連絡を受けたのか? 先程聞いた話によると、それどころではない事態になっているようだったが」
 ライナスが確認の意を込めて聞くと、ラスは怪訝な顔で彼を見返した。
「それどころじゃない? ……向こうがどうなってるのか、知ってるのか?」
「さっき、優斗から話を聞いたんだ。アクアは……」
 長話になるからと全員がソファに落ち着くと、隼人は彼等に5000年の因縁について説明した。
「ふぅん……、巨大機晶姫の在処を吐かせる為に拉致られて今まで実験、ねえ……」
 一通り話を聞くと、ラスは冷めた表情で呟いた。
「で、逆恨みか」
「そんなはっきり言わなくても……。でもまあ、そういうことになるのかもな」
「傍迷惑な女だな……」
「ひどいですぅ〜。そんなことをされたら、私だって怒りますぅ〜。気持ちは分からないでもないですよぉ〜」
 ぷんぷんと憤りを見せるエリザベートの隣で、隼人が言う。
「俺が知ってるのはこのくらいだ。他に、何かそっちで聞いておきたいこととかあるか? 無ければ、俺は廃研究所に行くけど」
「いや……」
 ラスは即答しなかった。何か気に掛かっている事があるのか浮かない顔だ。そこで、政敏がライナスに言った。
「廃研究所について、改めて教えてくれないか? 依頼をしてきた理由とか」
 募集を知ってやってきた政敏とリーンは、まだ伝聞でしか情報を知らない。
「そうだな。彼は、私の知り合いで……」
 ライナスもそれに気付くと、約5キロ先の研究所の主について話し始めた。
「今現在は、音信不通だ……ああ、そのノートの内容の殆どは、彼と共に研究したデータや検証結果になる」
 そうして、研究ノートを示す。今、ノートはリーンの手にあった。読み終わった所だったのか、彼女はタイミングよくそれを閉じる。
「ねえ、話を聞いていて、あとこれを読んで思ったんだけど……」
 皆に向けて、言う。
「アクアは、寺院の実験でいくつもの武装を施されていったのよね。それは、戦いの為の機晶姫を研究していたとも取れるわ。それで、このノートに書かれているのは機晶姫の損傷やエネルギー不足への対処についての開発について……。アクアは、最後の研究者を数ヶ月前に殺したと言っていたのよね。ライナスさんの知り合いが行方不明になったのも数ヶ月前。
 ……もしかして、この2人、同一人物じゃないかしら」
 彼女の言葉に、集まった皆は一様に驚いた。珍しく、戸惑いを含めた声でライナスは言う。
「私は、彼から寺院関係者だという話は聞いたことが無いが……いや、そうだな。それをわざわざ告白しても彼にとって良い事も無い、か」
「もし寺院であったら、ライナスさん、協力していました?」
 モーナが聞くと、ライナスは即座に首を振った。
「いや……、してなかっただろうな。研究内容自体には興味があったから独自に研究はしたかもしれないが、関係を続ける事は無かっただろう」
 この言葉を最後に、皆はしばし沈黙した。ライナスの知り合いがアクアの殺した人物――。予測に過ぎない言葉だったが、誰もそれを否定しようとはしない。直感というやつだろうか。『彼女の予測は、恐らく真実だ』と……その場にいる誰もが、そう思っていた。
「その研究者って、どんな人だったんだ? 性格とか、癖とか」
「そうだな……」
 政敏に訊かれてライナスは考えるように上を向いたが、そう間を置かずに答えた。にしても数ヶ月会っていないというのは彼にとってどの位の感覚なのだろうか。
「生活面においてはずぼらな男だったな。私も他人のことは言えないが……」
「ああ、あたしもそうですね」
 モーナが苦笑する。確かに、この研究所もモーナの工房もお世辞にも綺麗とは言えないだろう。
「……後、煙草をいつも咥えていたな。煙草があれば飯は要らない、とよく豪語していた」
「なるほど、ずぼらで、ヘビースモーカーだったんだな」
『研究者』としてではなく、人としての彼を知っておきたかった。政敏はその2つを忘れないように、と確認するように繰り返す。そこで、リーンがソファから立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ行きましょう! ライナスさん、色々教えてくれてありがとうございました」
「ああ、気をつけて行ってきてくれ」
 政敏と隼人も立ち上がり、出口に向かう。
「あ、俺達も行くよ」
 そこに、ちょうど他の部屋から戻ってきた和原 樹(なぎはら・いつき)フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)セーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)も加わり、彼らは6人で廃研究所に向かうことになった。