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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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     〜3〜

「私達もツァンダに戻りましょう〜」
『蒼空学園に戻る』と言いたくなかったのかそんな言い回しをすると、エリザベートがぴょんっとソファから飛び降りる。
「ほら、置いて行きますよぉ〜」
「ああ……」
 促されて立ち上がりつつ、ラスはツァンダの回収依頼についてモーナに訊いた。
「なあ、元巨大機晶姫の製造所から石を回収するのは、ファーシーの本来のデータをくっつける為なんだよな? 魔物化しかけた」
「うん、そうだよ。ここに来る間にそういう話を聞いてね、試してみる価値はあるんじゃないかなって。勿論、それが可能かどうか調べる必要はあるんだけど」
「ほぼ思いつきじゃねーか……」
「思いつきの何が悪いのさ」
 開き直られた。回収に行くのは誰だと思ってるんだ誰だと。そして、彼は先程から考えていた事を確認する。すると、モーナの顔が少し曇った。
「……そうだね……、確かに、その可能性はあるかもね。ファーシーの件は、かなり特殊だし……」
「だろ? 大体、そんなやつをくっつけるなんて危険にもほどが……」
「うん、その、危険だっていう意見は、2人目」
「? 2人?」
「――でも、それならそれで確かめて欲しいかも、だね」
「……何で」
「だって、そっちもちゃんと助けないと」
「……お人好ししかいねーのかこの大陸には……」
 うんざりしつつ、テレポートをしようとエリザベートを促す。外に出る必要性も無いのでこの場から直接だ。
 その直前。
「……キミも含めてね」
 そんな声が聞こえたような気がした。が、彼はそれを無かったことにした。

                           ◇◇


 その少し前、ツァンダでは――
「お待たせしたっス!」
 すっきりとしたシンプルな女性服を着たシグノーが、ワイルドな服を身に纏って若干戸惑っているチェリーと一緒に戻ってくる。
「赤っぽいカツラがあったからそれも借りてきたっスよ! あれ? 人数が減ってるっスね?」
 歩いてくる2人に、ヴァルは研究所に行く面々が移動を済ませたことを伝えた。そして、着替えの間に行った根回しについて説明する。
「先日の関係者……警察を含め、連絡を入れられる者には通達をしておいた。チェリーは今回、冒険屋として動くとな。これで、妙な勘違いから起こるような不要な面倒は避けられるだろう。……キリカ、シグノーの護衛を頼む」
「分かりました」
 キリカは頷く。先程は襲撃者を撃退すると言っていたが、服を交換したことでシグノーの防御力は皆無になってしまっている。それに、先日のキリカの行動を見ていた者ならば、彼女はチェリーに付いていると何の疑いも無く思うだろう。シグノーがチェリーだという信憑性も、増す。
「……2人だけで大丈夫か……?」
 チェリーはキリカに、不安そうな視線を向けた。人数もいるし、情報攪乱をするというのならこちらは比較的安全だろう。それならば、彼女達に人を割いた方が良いのではないか。集まってくれた皆を見回して、ライスに言う。
「……シグノーの護衛についてもらえるか?」
「えっ、オレ!?」
「さっき、『護衛でも何でもする』って言ってたから……」
 確かに言ったが。場合によってはパシられてもいいくらいのつもりではあったが。まさかこんな長距離なパシリになるとは。
「……分かった。無事にキマクで会おうぜ」
 少し不服そうなのは気のせいだろうか。
「僕も行くよ。広い所で大勢に囲まれたら危ないからな。夜盗とかじゃなくって、契約者が相手に来たらなおさらだ」
「そうですね、囮の方が危険なのは言うまでもないこと。遙遠も行きますよ」
 同意した遙遠を意外に思い、霞憐は彼を見上げた。
(いつもだったらめんどくさいとか言い出して乗り気じゃないのに、今回はそうでもないんだな……)
 霞憐は、遙遠が襲撃者に来て貰った方が好都合、とか考えているとは露ほども気付かなかった。襲撃者から、何か新たな、更なる情報を得ることが出来るかもしれない。その情報が、遙遠の目的だった。
(……正直、寺院がどうのこうのとか、刺客とかどうでもいいのですよね)
 遙遠が動く基準は、身内を含める自分達に被害が来るかどうかである。何処か遠くで見知らぬ誰かが傷ついても大した関心は無い。というか、そういうのを気にしていたらキリがないわけで。
(今回も、事件に巻き込まれたから今回も事件に巻き込まれたからチェリーさんが気になって……という形になりましたが、これが事件に巻き込まれず『そんな事件が街中であった』だけであればスルーしてたでしょうしね)
 まあ、そんな事を言うと霞憐を含め皆から総バッシングを食らいそうなので表には出さないが。
(ふむ……そういう意味では、こうしてここに居るのも運命か何かなのですかね)
 一方、1人思索にふける遙遠をちょっと不思議そうに見上げて霞憐はこう結論付けた。
「……まぁ、手伝ってくれるならいいや」

 そして、束の間の別れが来る。シグノーとキリカは自前の軍用バイクに乗り、護衛の3人は蒼空学園側で貸し出した乗り物を使う。具体的に、遙遠達はヘリファルテ、ライスも軍用バイクである。
「チェリーさん」
 エンジンをかけて出発する前、キリカはチェリーに声を掛ける。
「自分の肉体……魂を包む器も大事にしてくださいね。器が壊れてしまっては、魂も零れてしまうのですから」
「……キリカ……」
「そうよ、チェリー、あんまり無理しすぎないようにね」
 菫も言う。それは、彼女自身にも当てはまることにも思えるが。
「それと、もし仇と遭ったのなら。かつての貴方ではなく、今の、貴方がどうするのか考えておいて下さい」
「今の、私……?」
 キリカは思う。この事件……アクアを含めた山田の仇に対し、今のチェリーがどうするのか。それが、結末のカギとなるのではと。
「……ああ、考えてみる」
 ここ数日で、チェリーは変わった。特別な感慨を持たないままに誰かを攻撃していた彼女は、仲間に助けを求め、こうして誰かの話を真剣に聞き、それに応えようとする。
 キリカはかつて、チェリーが毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)に対して仇討ちの肯定をしたことを知らない。
 だが、『今』は……?
『仇』という存在に対して彼女が出す答えは――きっと誰かを救うのだ。