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マレーナさんと僕(2回目/全3回)

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マレーナさんと僕(2回目/全3回)

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5.干し首講座の時間ですよ

 夜露死苦荘と言えば、名物は美人講師・藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)による「干し首講座」である。
 やる気を取る戻した受験生達は、今回も続々とかの講座に押し掛けているようだ。
 
 前回同様、廊下に出しても溢れんばかりの人、人…なので、教室は亡霊 亡霊(ぼうれい・ぼうれい)宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)の部屋を借りて、3室で開催されていた。
 
 ■

「あら、新人さんも多いことですし……これは、干し首講座の意義から説明しなくてはならないですね♪」
 ザッと優梨子は生徒達を見渡して、説明をはじめた。
「一口に干し首と申しましても。
 文化人類学・社会学の見地からの意義、化学に関する知識等、
 幅広く学ぶところはありますのです。
 ……化学に関しては、私より、助手の司さんが秀でていらっしゃるかもしれませんね」
 言って、白砂 司(しらすな・つかさ)サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)を紹介する。
「2人は、有能な私の助手です。
 分からないことは何でも聞いて下さいね」
 うっとりとするような笑みを浮かべて、補足事項を告げる。
「一方で、ストレートに職人としての技術で、一芸入試を狙う道もありまして。
 当講座では、それも全力で支援したいと考えております♪」
 ただし、と。これは声を低くして。
「『勉強もせずに落ち込めば〜』という噂がありますね?
 ちょっと困りますねぇ……。
 眉をひそめて、「友情のフラワシ」を現わした。
 もっとも、その姿は優梨子以外には見えないので、無光剣を持たせて存在を強調する。
「友情のフラワシ」効果で、何となく一同は優梨子から目が離せなくなる。
「さぼったら――分かってますね?」
 にっこりと、それはきれいな笑顔。
 学生達は、「はい、優梨子先生」、と恍惚とした表情で、向学心を表現するのであった。
 
 だが、当然。
 中には、「優梨子先生はいいけど、マレーナさんも気になるなぁ」的な輩もいる。
 こっそりと、講座からの逃亡を図らんとたくらむ輩もいる。
 
「そんな時は、あんたの出番だな! 亡霊よ!」
 宙波 蕪之進は亡霊 亡霊の背を叩いた。
 亡霊は冷ややかに見下ろすだけで、行動に移る。
 しかもその行動は、下宿全体に及ぶ。
「殺気看破」や「ディテクトエビル」を用いて、建物内をくまなく徘徊する。
 勉強中の息抜きならばともかく、サボり目的で「逃亡」を図らんとする物に出くわしたら、大変だ!
「アボミネーション」ですくませたうえで、反抗する気力を叩き折る。
 だが、敵はパラ実の、しかも空大を狙わんとする輩だ。
 一筋縄でいくはずもない。
(ふむ、抵抗しようと言うのか?
 ……面白い!)
 そういう骨のある受験生達は、次々と「則天去私」や「吸精幻夜」の餌食となって、ロープで縛りあげられる。
 結局優梨子の聴講生となるべく、講座に連行されるのであった。
 
 亡霊にサボり組を任せた蕪之進は、その足で首狩族のキャンプ地帯を訪れる。
「しかたねぇよな。
 エスケープ阻止はお嬢の厳命だしよぉ」
 蕪之進にとっての「絶対」は、オーナーの信長ではなく、契約者たる優梨子なのだ。
 そうした次第で、まずは優梨子からの伝言を首狩族達に伝えた。
「でもよぉ。
 手土産くらいねぇと、逆に自分が首を狩られかねないからな!」
「超有名銘柄の日本酒」、「蜂蜜」、つまみの「カニ味噌」の持参品も忘れない。
「よし! これで、準備は整った!
 後は説得するだけだぜ!」
 説得というよりは、演説の特技を用いて一同に語りかける形になるのだが。
 取りあえず、土産の効果はあって、首狩族たちは(顔見知りであることもあり)蕪之進を快く迎え入れた。

「『噂を真に受けて、危険を顧みずエスケープやサボタージュを図る“愛の戦士”が出るかも知れません。
 疑わしきは首を狩る精神で、こそこそしてる人がいたら倒しちゃってください』
 だとよ」
 首狩族たちは快諾したが、自分達の勉強の妨げにならない程度で、という制限が設けられる。
 とはいえ、目の前に来たら、確実に頼みは聞き届けられることだろう。
 ……と、そこまで考えて、うん? と首を傾げてしまった。
(しっかしよぉ。
 まぁ、簡単に逃げられちゃ、講座の緊張感に障りが出るっつーのも分かるんだが、やりすぎな気も……)
 だが、首狩族の闘う気満々な様子を見て、考えを変える。
(……まぁ、今更か。
 俺ぁ自分の身がかわいい)
 そうして、蕪之進は優梨子の下へ戻るのであった。
 
 ■
 
 その頃の、「干し首講座」。
 優梨子の忠告があったのにもかかわらず、どうしたわけか聴講生の数は確実に減っている。
 正確に言及するなら。
 亡霊が捕えた強制聴講生、もとい「干し首候補生」達がいないのだ。
(変ですね? どうしたものでしょう?)
 けれど、表向きは目立った反抗的な行動はない。
 フラワシ達は無光剣を掲げつつ、右往左往している。
 フラワシ達の目をかいくぐり、亡霊たちが別の階へ行っている隙をついて、誘導しているものがいる、ということだ。
(賢い裏切り者が誘導している、というわけですね?
 そんなことが出来るのは、監視役の連中くらいで……まさかっ!)
 優梨子はすうっと窓際に目を向ける。
 
 その裏切り者――白砂 司はサクラコ・カーディと共に、表面上は冷徹に講座の助手を務めていた。
(藤原先生……まさか!
 気が付き始めたか?)
 だが優梨子は相変わらずの様子で、表情からは読み取れない。
(気のせいか?)

「さて、皆さん。
 次の講座は、司さんになります。
 内容は、「薬師の経験を活かした干し首製造工程の薬品処理」でいいですか?」
 その前に、と優梨子はフラワシを寄せ、無光剣を握る。
「駄目でしょう? 悪い子達をむざむざと逃がしたりしては♪」
「ちっ、バレたかっ!」
 
 次の瞬間、司はサクラコと共に臨戦態勢に入った。

「俺は、藤原先生の干し首にはならん!」
 司はポチを呼び出し、適者生存で威嚇しようとする。
「うぅっ。肉には未練がありますけど!
 司君の首は取らせませんよ!」
 サクラコは自前の爪をとぐ。
 格闘の姿勢を取った。
「いかに司君の思い人であろうともね♪」
「わわっ! サクラコ!
 それは言うな!!」
 
 だが優梨子は不思議そうな目で。
「あら? 司さん、サクラコさん?
 どうしましたの?」
 小首を傾げる
「私、チョット戯言を言ってみただけですよ。
 だって、証拠もないですしね?」
 ふふっと笑いつつ、無防備に近づいて。
「それよりも、労を取って下さったお礼をせねばですね。
 ちょっと念入りに吸精幻夜をば♪」
「うっ! またその展開かっ!」
 しかし司はなぜか嬉々として優梨子の吸精幻夜を受け入れるのであった。
 
 ひゃあ、ドキドキしますぅ、藤原先生〜♪
 
 とか何とかほざきつつ、うっとりとした眼を彷徨わせながら。
 
 だが、司は知らなかった。
 その直後、捕縛されたもの共々、夜を徹して居残り補習させられてしまうことを。
 吸精幻夜による幻惑と、その身を蝕む妄執による精神攻撃を組み合わせた「再教育」。
 快楽と恐怖で縛られ、司は「お受験マシーン」への階段を本日も上り続けるのであった。
 
 ■
 
 かくして、優梨子先生の「干し首講座」は大成功を収めるのであった。
 聴講生達を通じて、干し首文化が空大を席巻する日も、夢ではないようだ――。