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リアクション
10.閑話休題〜外出編〜
「下宿の外に行った者」達の結果はどうなったのだろう?
■
吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は歌が歌いたかった。
「ヒャッハーッ! 歌わせろーっ!
オレの美声を、多くの奴らに聴かせてやるぜぇ」
だが、実際には住人に止めらるわ、そうでなくても騒々しい夜露死苦荘のことだ。
歌の練習なんぞ、まともにできるわけがない。
ふと地図を見ると、「洞穴」と書かれてある。
「カツアゲ隊の本拠地……」
アイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)も興味があるようだ。
「歌の練習にはもってこい、かもしれませんな」
「ほぉ、じゃあ、行ってみるか」
そうして2人は、ドラゴンの襲撃前に下宿を発ったのだった。
■
南 鮪(みなみ・まぐろ)が洞穴の近くを通りかかったのは、空大からの帰り道だった。
「ヒャッハーッ!
これで、俺様のモヒカンゴブリン達も空大入りだぜェ」
ふふんと鼻先で笑う。
「ゴブリンさえもインテリとして働く時代が来る! とはよ。
さすが、信長。
目のつけどころが違うぜェ!」
スパイクバイクで通りかかったところ、竜司達の姿を見かけたのだった。
「へっ、トロールがどこに行くんだ?」
「つけていくじゃけぇ、鮪」
バイクから生えてきた土器土器 はにわ茸(どきどき・はにわたけ)が言った。
「信長の為に! おこぼれにあずかるじゃけぇ!」
「ふん、それもそうか。
元カツアゲ隊の『生き残り狩り』ぜぇ、ヒャッハー!」
迷うことなく、竜司達の後をつけていく。
■
先に着いたのは、当然竜司達だった。
「岩扉ですか、仕掛けがあるかもしれませんな」
アインはしばらく確かめるが、首を捻る。
「押したり、引いたり、暗証番号を入れて……とかいうのでもなさそうですな」
「ふん、力あるのみだぜぇ!」
血煙爪から轟雷閃を放つ。
「……びくともしませんね?」
アインは博識で、使えそうな知識を捻りだす。
「天岩戸……そうでしたか!
石扉の外で、歌ったり踊ったりすれば」
「開くのか?」
たぶん、とアインは答える。
トラッパーの準備をしつつ、耳をふさいだ。
「よかったですね?
これで、思う存分歌うことが出来ますな」
■
「トロールが歌うってよ!」
「耳栓が必要じゃけぇ」
鮪達は慌てて、やや離れた位置で、両耳をふさぐ。
まもなくして、竜司の轟音……もとい、恐れの歌が流れてきた。
■
歌声というより、咆哮だったが。
ギギギギ……。
石扉が開いてゆく。
「お! 開いたぜぇ。
さすがはアイン!」
だが、アインは眉をひそめる。
「誰かが開けたようですな。
ここはカツアゲ隊の本拠地……戦闘の準備を!」
だが、その必要はなかった。
「た、助けてくれ……」
カツアゲ隊の隊員達は、血走った眼で片手を宙に挙げる。
そのまま、パタッ、と気絶した。
その身を蝕む妄執の姿勢を整えていた竜司は、拍子抜けする。
「そうか、こういう結末もありますね……」
アインだけは、1人冷静に結果を受け止めるのであった。
「さ、中へ!
洞穴で思う存分歌いなさい」
「お? おお。
『夜露死苦荘のテーマ』をな!」
以後、洞穴は竜司の「ワンマンステージ」の会場となる。
■
カツアゲ隊の末路はどうなったのであろう?
アインの罠に引っ掛かった者共は、そのまま竜司の舎弟となった……が。
■
「おう、てめぇら!
夜露死苦荘の受験生になろうぜェ!」
鮪は、逃げてきて、動けなくなった隊員達を担ぐ。
抵抗する者には、ヒプノシスを使う。
そうして体の自由を奪い去ってから、順次バイクで下宿の受験生として、バラックに放り込むのであった。
残された隊員達の面倒は、はにわ茸がみる。
「アンちゃんらにも受験生になって貰おう言う話しじゃけえ!」
例によって、帝世羅と自分のイチャイチャ画像をばら撒く。
ソートグラフィーで作ったものだ。
「う、羨ましい……空大行きてぇ……」
お馬鹿な隊員達は、すっかり洗脳されまくる。
そうして、バラックの露と消えさるのであった。
彼等が「お受験マシーン」と化する日も、そう遠くはないはずだ。
■
同じ頃。
姫宮 和希(ひめみや・かずき)は、荒野を駆けまわっていた。
「ガイウスの話が本当なら……」
和希は必死になって、駆け抜ける。
「キヨシの小型結界が、どこかで売りに出されているという噂だな」
ガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)から聞かされたのは、ドラゴンが襲撃した直後のことだ。
「キヨシは持ってないようだ。
噂が本当であれば、小型結界さえ持ってくれば、ドラゴンは退けられよう」
「本当だな? ガイウス」
和希はパートナーの話を信じた。
そしてそのまま、下宿を飛び出したのだった。
夜露死苦荘の為。
マレーナの為。
そして何よりも、ガイウスの為に。
「これで、マレーナがガイウスを頼りにしてくれればいいんだけどさ」
神速、先の先、軽身功を使った。
これで、空を飛び谷を越え……超特急で下宿に持って帰れるはずだ。
「待っていろよ、マレーナ! ガイウス!」
和希はひたすら荒野を駆けてゆく。
■
町・汚亜死栖。
カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)はマレーナの名を借りて、小切手を作っていた。
ここはシャンバラ荒野。
よって、この町にも怪しげな者達は多い。
が、彼等がカレンの小切手を信用したのは、マレーナがドージェのパートナーだからではない。
もっと実用的なもの――裏に、誓約文が書かれてあったから。
『尚小切手の金額分、後田キヨシが身体(肉体労働)で支払います』
幸い、怪しまれなかったことで、ロイヤルガードの名声を使うこともなかった。
まずは上々といったところだ。
そうして、彼女達は情報を手に入れて行った。
小型結界の情報を!
「しかし彼は、カウンセラー・デビュー時の、栄えある一人目の患者にして、唯一の患者ではないのか?」
ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)がそれとなく指摘する。
2人は彼の指摘に従い、所謂盗品を扱うバザーをあたっていた。
小切手を住民達にちらつかせる度に胸が痛む。
「血も涙もない」とは、このことを指して言うのではなかろうか?
「えー、だって!
キヨシ君のためにやってるんだから、これくらいいいよね?」
カレンは無邪気に叫んだ。
キヨシの小型結界がないことに最初に気づいたのは、彼女だった。
受験票を取りに戻ってきたキヨシに、ついていなかったのだ。
だが、キヨシは今一つ事の重大さに気づいてないらしい。
「それに、ボクお金ないんだもん!
でも、荒野でものをいうのはお金だよね?」
「まあ、それは……」
「これは、君を立派に成長させる試練!
カウンセラーとしての務めも果たせて一石二鳥だよ」
そうして、後日。
キヨシが、夜露死苦荘に戻りにくくなる原因の一つとなるのであった。
彼女達が、「雀荘のオヤジが持っているらしい」情報を手に入れるのは、間もなくのことだ。
■
汚亜死栖・雀荘。
ジャラジャラと牌を回す音がする。
4人席の1つに、駿河 北斗(するが・ほくと)は腰かけていた。
背後にベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)とクリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)の姿。
だが、北斗の足元で、別の牌が動く。
それを雀荘のオヤジが見過ごすはずはなかった。
「お客さん、いけねぇよ。
素人さん相手のイカサマは」
パチンとオヤジは指先をはじく。
店の奥から、バラバラとヤクザな男どもが現れた。
「野郎共! やっちまえ!」
だがやられたのは北斗達ではなく、男どもの方だった。
「き、貴様! 契約者だな?」
「今頃分かったか?」
北斗は啖呵を切る。
「パラ実B級四天王、駿河北斗だ。邪魔する野郎はぶっ潰す!」
「何、B級四天王?」
一同の顔色が変わる。
オヤジがスッと席を立つ。
「B級四天王が、ボロ雀荘に何の用事じゃ?」
「アンタの雇い主に会いたい
ここで人集めるにゃそれが必要なんだろ?」
渋い顔。
北斗は金を積む。
「これで、どうだ?」
「……金で解決かい?
わしはそんなのは嫌いだねぇ。
荒野では、金が一番。
価値の分からないような大馬鹿野郎を、“X”様にあわせる訳にはいかないねぇ」
「っ!! 何だと!?」
北斗はあまりの無茶な言い分に、キレかかる。
だが、詰め寄ろうとしたところで。
「まって!」
「待ちやがれ!」
「そうです、待って下さい!」
学生達が入ってきた。
カレン、和希、ベアトリーチェの3名だ。
3名共、情報を集めて、ここに辿り着いたらしい。
「この人が! キヨシさんの小型結界の持ち主なんです!」
「え? キヨシの?」
何だか話が、ややこしくなりそうだ。
■
「そうかい、マレーナさんの下宿の人たちなんだな、あんた方」
オヤジは煙管に火をつけた。
フウッと紫煙を吐く。
「いいさ、そういうことならな。
小型結界は返そう」
捜索組は目を点にする。
「へ? それはまた、どうして……」
「おにーさん方、契約者だろう?」
「はぁまぁ」
「わしら契約もしておらんパラミタ人なんぞ、束になっても勝てはせんよ。
それに、恩もあるからなぁ。
マレーナさんと……これの持ち主には」
「キヨシに?」
一同は顔を見合わせた。
「まあ、こういうことじゃよ」
オヤジは煙と共に、昔話を話す。
オヤジが町に来たばかりの頃だ。
性質の悪いパラ実生達がいて、オヤジは絡まれてピンチに陥った。
そこを通りかかった女の子が助けようとして、絡まれる。
見かねた男子学生が助けてようとしたが、逆にのされてしまった。
財布をカツアゲされる寸前に、なんと! 女の子が光条兵器を取り出して、全員叩き伏せてしまった。
「その女の子がマレーナさんで。
のされた学生が、キヨシくんなんじゃよ」
ほっほっほ、と笑う。
「だが、あれは、この店を立ち上げるための資金。
取られなかったは、マレーナさんとキヨシくんのおかげじゃな」
小型結界を差し出す。
北斗に向けては、書状を差し出した。
「“X”様に差し出せば、『お墨付き』を頂ける事じゃろう」
「ありがとう! オヤジ」
北斗は礼を述べて、名を見て固まった。
「国頭武尊……武尊だって?」
「『私達がマレーナさんを助ける、その功績を貴方に譲渡します』。
……て、啖呵切ってでも渡りをつけるつもりだったけど」
ベルフェンティータはクスッと笑った。
「その必要は、ないみたいね?」
そうして“X”を探しあてた北斗は、望み通り1000人の町民たちと共に下宿を目指すのであった。
マレーナを救うため――。
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