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リアクション
9.ドラゴン襲来〜空大へ行こう!〜
キヨシが下宿に戻ったらしい――。
その情報は、迎撃隊の面々を通じて、下宿生達のメールに入った。
『空大に行きたいそうだ。
急ぎにつき、乗り物があるものは至急たのむ!』とも。
■
「そんな情報を頂いてしまっては。
見過ごすわけにも参りませんね!」
クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は下宿の荷物をまとめると、なぜか忍び足で裏口から出た。
「あれ? クロセル先生。
どちらへ……?」
下宿生の1人が見咎める。
クロセルはギクッとして振り向くと。
「いや、そろそろイルミンスールにでも〜、ですかね?」
あははは〜と乾いた笑い。
一目散に、荒野を目指すのであった。
(いえ、決して適当な事を教えてきたツケで、
受験生達のお礼参りを、恐れているわけではありませんよ)
その思いが、本心だったりなんかして?
だが、教え子(?)の危機に際して、空大に無事送り届けてやりたい、というのも、偽りのない本心ではある。
「さぁて、キヨシくんは、どこです?」
キヨシは荒野を文字通り彷徨っていた。
「空大……どこ?」
今度は、地図を忘れてきたらしい。
メガネはだらしなくズリ落ちている。
「キヨシくん、乗りなさい!」
クロセルは空飛ぶ箒シーニュに乗せる。
だが、その直後にシーニュは火炎放射にさらされる。
「くっ、レッサードラゴンめ!」
はい、とキヨシに「機関銃」を渡す。
「はっ? 何するの?」
「決まってんでしょ? 攻撃です!」
「わ、わわっ!
僕、暴力反対!
それに使ったことない武器なんか、扱えないよ!」
クロセルは頭を抱えた。
シーニュで逃げつつ応戦するが、いかんせん相手はドラゴンだ。
ツワモノの彼でも、数匹がせいぜいである。
仕舞いには、爪で弾き飛ばされてしまった。
「わぁ!」
別れ別れになったキヨシは、一目散にドラゴンの魔の手から逃れるために、パニックから走り去る。
「き、キヨシくん! そっちは夜露死苦荘の方ですよー!」
というクロセルの声は届かない。
■
キヨシがゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)の運転する格安の車に拾われたのは、直後のことだ。
■
「え? 『食うだい』に行く方法?」
「そーだ、知っているはずだぜ!」
ゲブーに決めつけられて、キヨシは頭を抱えた。
「てめえ、受験しに行くんだってな!」
そういって、ゲブーは無理やりキヨシを車にほうりこんだ。
まァ荒っぽいが、ずいぶん親切な奴なんだなあ、とキヨシは考えていた。
ここまでは。
(だって、ふつー。
「くうだい」っていったら、「空大」のことだろう?
カンベンしてくれよ!!)
おまけにゲブーは下宿に戻るという。
「マレーナさんが、必要?
受験に?」
訳が分からない。
どうして? とキヨシが尋ねると。
「おまえ、『食うだい』受験には、特訓メシが必要だったんだ!
それ作ってくれた、おっぱい管理人には恩義があるぜ!」
人妻でも誰でも女性は俺様のモノ。
うんうんうなずく。
「俺様の活躍を見せるために車に詰め込むぜ!」
「じょ、冗談じゃない!」
だが今のマレーナは、ゲブーごときにもかなわない。
あーれー、と車に乗せられてしまった。
「じゃ、『食うだい』目指すぞ! キヨシ」
(なんだかなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!)
キヨシは涙目で窓の外の、流れゆく景色に目を向ける。
(助けは、こないのかぁ?)
このままでは、自分達はゲブーの際限のない食欲の餌食になってしまう。
不思議なことにドラゴンは車を追いかけてこない。
それどころか、戦闘をやめて、次々と下宿から離れていくではないか?
(ん? どうしてだ???)
それは、この車に小型結界が搭載されているためだが。
キヨシはまだその事実に気づかない。
ガツンッ。
激しい衝撃と共に、車は止まった。
「うおっ! 砂がかんだぜぇ……」
そこは格安の車。
下宿から少し離れただけで、とまってしまった。
「『食うだい』、無理だったな……浪人か……」
キヨシはなんだか憐れになった。
こいつは、あれほど「食うだい」にはいりたくて。
マレーナの、あの究極に不味い食事にも耐えてきたのだ!
「頑張れ、ゲブー。
来年があるさ!」
浪人のみじめさは痛いほど知るキヨシである。
「キヨシ……てめえ、いい奴だぜぇ」
女だったらよかったのに、という言葉は、この際呑み込む。
だが、2人にアツイ抱擁の時間はなかった。
キヨシが外に降りたとたん、ドラゴンの強襲が再び始まったのだ。
「キヨシ、ゲブー、それからマレーナさん!
こちらへ、早く!」
迎撃隊の一部がやってきた。
彼らに護られて、3人は一先ず下宿へと引き返す。
■
その頃。
空京では、【西シャンバラ・ロイヤルガード】の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、本部で空大受験の情報を待っていた。
「え? のぞキヨシくんがいない?
夜露死苦荘にいるみたいだって?」
美羽は、金色のイコンを発進させた。
グラディウス――。
肩に描かれたロイヤルガードのエンブレムが、陽光を受けて輝く。
サブパイロットに、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が搭乗する。
「駐車場に置くわよ! ベアトリーチェ」
「ええ、その足で、私は例の『小型結界』を探します」
地図を思い浮かべた。
「コンビニ『蛾痛』。
あそこならば……」
グラディウスが発進する。
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