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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第1回/全2回)

リアクション

 集落内、外壁沿いをゆくジバルラと生徒たち。その先頭をゆくゲルヴィーン・シュラック(げるう゛ぃーん・しゅらっく)は駆けながらに鼻を、クンクン、とひくつかせた。
「なに? 何か匂う?」
 隣をゆくロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)の問いに、ゲルヴィーンは「そうだネ」と応えた。
「でも変な匂いじゃないネ、ただ懐かしい感じがしただけだヨ」
「ホームシック?」
「そうネ」
 自称、人間年齢17歳の悪魔は小さく笑った。
「でも、こうもいきなりザナドゥに出戻りするとは思わなかったネ」
 わりと前だろうか、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)と契約したのは。それでも思いのほか短くも感じる。それだけ濃密な時を共に過ごしてきたという証なのかもしれない。
「ボクはこの空気、少し嫌いだな」
「そうネ、ここにはアニメのSEもポスターも看板すら立ってないからネ」
「そうじゃなくて! っていうかそんな街並みはアキバだけで十分だよ!!」
 大人の夢を壊すツッコミだった。きっとそんな自覚もないロートラウトは、何度か腕を折っては伸ばして言った。
「ちょっと動かしにくいんだよね、節々が」
「そんなことないネ、自由に動くヨ」
「ボクは動かしにくいの!! ギシギシするっていうか、ギチギチするっていうか」
 ロートラウトは機晶姫である。ザナドゥに来てからというもの、関節部分が錆び付いたような、また表面部同士がくっついてしまっているような、そんな感覚がしていたという。ザナドゥの空気が体に合わないのかもしれない。
「って事で、頼りにしてるよ! 悪魔くん!!」
「おうヨ!! 任せるネ!! この町にアニメを浸透させるべく頑張るネ!!」
「違うよ?! 軍の兵を倒すんだよ?!」
 ゲルヴィーンの妙な決意表明が成された時だった。エヴァルトの声がした。
「見えたぞ」
 道の終わり、開けた先に巨大な建物が見えてきた。他と同じく一階平屋だが敷地は広く、なによりの特異は集落の外からも見えた巨大な影が屋根を突き破ってそびえ立っている事だった。
 ここまで近寄れば、はっきりと分かる。人型の機械兵、自分たちはそれを「イコン」と呼んでいる。
「突入します」
 エヴァルトは先頭に躍り出ると『光学迷彩』を発動して気配を消した。着込んだ『ブラックコート』と併せれば姿は殆どに隠れたことだろう。
 すぐ後ろに続くロートラウトゲルヴィーン、それにジバルラの姿に気付いたのだろう、2名の敵兵が『トライデント』を構えるのが見えた。しかし、それも遅い。
「ふっ!!」
 拳で一閃。『超人的肉体』で強化した腕力で頬骨が折れるまで振り抜いた。
 もう一人の敵兵がそれに気付いて顔を向けた時にはエヴァルトは『アクセルギア』を逆噴出して体を止め、そして兵の鼻っ柱に肘打ちを叩き込んだ。そこから更に続けて腕を伸ばして眉間に掌底、そのまま顔面を掴んで引き寄せると、頸骨を膝で叩き折った。
 端で見ていると壊れたマリオネットのように体が何度も踊り折れ曲がっていたが、最後には放り投げられたのだろう、門をブチ破っり、建物内へと飛び込んでいった。
「行くぞ!!」
 此度のエヴァルトの覚悟は尋常ではない。先日の戦いでカナン軍のイコンギルガメッシュを大破させてしまった責任を強く感じていた、だからこそ、その埋め合わせを! 手柄を立てて挽回したい! と強く願っていた。それらが彼を『修羅の如く』に戦わせていた。
 すぐに寄ってきた軍兵は2名。作業台に居たのだろうか、両名ともに天井付近から飛び向かってきた。
 奇声と共に迫る銛刃、それと平行になるように体を後方へ倒しながらに素早く避けると片手を地面について支えた―――ままに脚を蹴り上げて顎を砕いた。
 もう一体の悪魔の『トライデント』が迫っていたが、彼は蹴り上げたままの脚の踵を戻して銛を弾くと、休ませていた脚で悪魔の後頭部の僅かに下、首根を鋭く蹴り抜いて吹き飛ばした。
 右、左。
 着地と同時に目で確認した。捉えた敵兵は右に一人、それだけ―――
 打撃音。それは背後からだった。
 エヴァルトの背に突き放たれた銛刃が迫っていた。その間に『神速』をもって割り込んできたロートラウトが『トライデント』を弾くと、勢いのままに飛び込んできた悪魔の顎をアッパーで殴り上げた。
 宙に浮いた悪魔の体、その頭上に跳んで回り込むと零距離で『龍の波動』を掌から発した。
 放たれた闘気が悪魔を地面に叩きつけた。
「助かった」
「背中は隙ができて当然。ボクが守るよ」
「ふっ、行くぞ」
「了解」
 バッタバッタとなぎ倒す。掴んだ腕を折り、腹を殴り抉り、首をホールドして頭から落とす。そんなパートナーたちの姿を見て、
「……どこが『体が動かしにくい』ネ」
  ゲルヴィーンは一人思った。
「……何が『頼りにしてるよ!』なのヨ」
 頼られた男に、出る幕は無かった。
「出番が無いネ!! 仲間外れだヨッ!!」
 2人の修羅が所内の敵兵を一掃し、まもなく制圧した。



「おっと、一足遅かったようだな」
 沈めた敵兵たちを縛り上げた頃、彼らとは別行動をとっていた瓜生 コウ(うりゅう・こう)が姿を見せた。
 巨大な人影を探ろうと集落内を歩き進み、結果この建物にたどり着いたという。まぁ、あれだけ目立てば誰でも容易にたどり着ける―――
「オレたちは集落の様子も探ってたんだ、一直線に強行突破したそっちが早くて当然だろ」
「ま、そういうことにしといてやるよ」
 ジバルラはそっけなくそう言った。彼の興味は既に別のものに移っているようで、建物内に鋭眼を向けて離れていった。構わずコウは自身の目的を果たすべく職人たちに話しかけた。
「あの人形について訊きたいんだけどな」
「待て」
 これを草薙 武尊(くさなぎ・たける)が制して止めた。
「なに?」
「全員に話を訊く必要はないだろう、作業のある者は持ち場に戻っても良いはずだ」
 エヴァルトたちが敵兵と戦っている間、彼はずっと職人たちの前に立って、彼らが戦いに巻き込まれないように守っていた。
 乗り込んだときの初動作で彼らが「非戦闘員」であることは明らかだった、風貌も異なる。彼らが人形を造る職人である事を聞き出したのも武尊だった。
「乗り込んできたのは我々だ、彼らの自由を奪うことまではするべきじゃない」
「構いませんよ」
 職人の一人がそう言った。
「軍の奴らがノビてる今、作業を続ける義理はない」
 その声に同意したのか、他の職人たちも力を抜いてそれぞれに体を休め始めた。
「えっと……何だ? あいつらに支配されてたのか?」
「支配ではない。奴らは客だ」
「客? そんなふうには見えなかったけど」
「我らの監視役でもあるからな。奴らは我々を外敵から守り、そして最低限の生活を保証する。代わりに我らは奴らの欲する武器を作り、それを納める」
「それは『客』とは言わない」
 コウに纏っていたレイヴン・ラプンツェル(れいぶん・らぷんつぇる)が思わず声を荒げた。同じザナドゥ出身者として彼らの不遇な現状に苛立ちを覚えたようだった。
 それでも職人である悪魔は、力なく続ける。
「しかし我々には力がない。守られているから生きていける、だから力を貸している」
「力?」
「武器は作れても扱えない。無論、使うだけなら出来る、しかしそれは戦力とは言わない。我々の種族は絶対的に戦う力が劣っているんだ」
 パイモンが束ねる悪魔やそれに属さない悪魔、それに野生の魔獣たちにさえ太刀打ちできない弱い種族。彼は自分たちのことをそう言った。
「あなたたちが造った武器がどのように使われているかは、ご存じなのですね」
「武器は相手を殺すために存在する。子供でも分かることだ」
「では―――」
「それでも我々は『造ること』に誇りを持っている。美しいものは美しい、納得のいくものしか造らない、我々はそう生きてきた」
 少しと会話が切れたので、草薙 武尊(くさなぎ・たける)が天井を見上げて訊いた。
「これは、『イコン』なのか?」
「イコン?」
 天井から突き出た巨大な人型。職人もそれについて言っているのだと気付いたようだ。
「地上では『イコン』と言うのか。面白い呼び名だ」
「巨大な人型の機械、いや、人型兵器の事を地上では『イコン』と呼んでいる」
「なるほど。覚えておこう」
 ザナドゥのイコン、やはりザナドゥにもイコンは存在した。外観は似ているものの、おそらく内部構造などには違いがあることだろう。
 職人が自分たちの技術をそう簡単に他人に明かすとは思えないが、地上のイコンとの比較は是非とも行いたいと、この場に居合わせた者ならば思ったことだろう。エヴァルトが探すギルガメッシュの修復法の手掛かりも、ここにあるかもしれない―――
「これじゃねぇ」
 声はジバルラのものだった。彼が探していた『不気味な力の正体』、それはこのザナドゥのイコンではない、と彼は言った。
「変なタイミングで言うな。ややこしい」
「んなこと知った事か。とにかく、これじゃねぇ事だけは確かだ」
 実際に足下からその目で観察して、そう結論付けたようだ。彼は再び『力の正体』を探しに行くという。数名の生徒がこれに続くと名乗りをあげた。
 集落を見下ろす巨大な人影の正体はザナドゥのイコンであった。そしてそれを造らせていたのはパイモン軍。ここまで数名の軍兵を蹴散らしてきたが、集落内にはまだまだゴロゴロと居ることだろう。
 行く者も残る者も油断は禁物。そんな状況はまだまだ続きそうである。