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リアクション
ジバルラたちの『イコン工房への特攻』から少しが経った頃、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)たちは職人たちの前で両手を広げて笑みかけていた。
「私たちは侵略にきたのではありません! すこしお話を聞かせては貰えないでしょうか
」
ジバルラたちの城門突破に紛れて集落内に潜入した。しかし彼女の狙いは偵察に在らず、言葉の通り『彼らとの会話をすること』だ。
「私たちは地上から来ました。シャンバラという大陸のカナンという名の国です」
その国の北部に築いた入り口、そして橋頭堡を通ってこの地を訪れたことを彼らに告げた。信用を得るには事実のみを正直に伝えることが絶対だ。
「ザナドゥの軍勢が地上を侵略すべく現れました。幸いなことに追い返すことが出来ましたが。この集落にもパイモン軍の兵隊の姿が見えました。あなたたちも襲われているのではありませんか?」
今後の活動のため、集落の悪魔たちとは良好な関係を築いておく必要がある。全ては彼らからの信用を得るため、そのために―――
「んおっ!! 女性も居るんじゃないか!」
世 羅儀(せい・らぎ)の声がした。
「うおぉ!! しかも綺麗なお姉さまも居るじゃねぇか、なんだなんだよおぃおぃ聞いてねぇぞ」
瀬島 壮太(せじま・そうた)の声もした。
いつの間になぜかすっかり意気投合したのか、2人は祥子の後方で女性の悪魔たちに声をかけていた―――
「あ、怖がらないで、何もしないから。ただ少し話を聞きたいだけなんだ」
「そうそう、どうせ話を聞くならアンタらみたいな綺麗な姉ちゃんに聞きたいって思っただけなんだ。少しだけ、良いかな?」
流暢に言葉が次々と。悪魔たちから信用を得ようとしている祥子の後方で―――
「あれ? でも待ってよ、魔族って、もしかして人間を食べたりするのかな? キミたちもオレたちをどう食べようか考えたりする?!!」
「んな訳あるか。なぁ? ん? ほらみろ、そりゃそうだ、こんな美しい姉ちゃんがガッツクなんてなぁ、失礼だよなぁ、ハハハハハ」
「それもそうか、ハハハハハ」
軽すぎる笑い声が聞こえてきた。自分たち地上の者たちはあなたたちの味方だ、力になりたいと訴える祥子の背後で、悪魔たちの視界に入る場所で楽しそうに悪魔娘たちと―――
「ごめんね、オレたちここに来たばかりだから何も分からなくて。仲良くしてくれたら嬉しいなって思うんだけど」
ナ―――
「『仲良く』って言い方がヤラシイんだよ、普通に楽しく茶でも飲みながら話をさせてくれりゃあ、それで俺たちは大満足だ」
ナンパな―――
「そっちの方がイヤラシイでしょう。でも、いかがです? どこかゆっくり腰を下ろせる所でお話するというのは」
「んだよ結局同じじゃねぇか。悪ぃなぁ、オレらこういうの慣れてなくて」
「ナンパな……」
「ん?」
羅儀が気付いたが時すでに遅し。瞳を吊り上げた祥子が背後から―――
「軟派なことを、するなっ!!!」
一閃で2人を薙ぎ飛ばして成敗した。峰打ちだと祥子は言ったが、エモノは『レプリカ・ビックディッパー』であるように見えるのですが……。
「すみません。我がパートナーながら恥ずかしい限りです」
成敗された羅儀のパートナー、叶 白竜(よう・ぱいろん)が謝罪した。といっても、それを承知した上で情報を得るために泳がせていた事もまた、事実である。
職人たちの前ではさすがに隠したが、集落に入りてから『デジタル一眼POSSIBLE』で撮影を行っていた。白竜が誰よりも堅実に情報集めを行っていることもまた事実だった。
「彼女が言ったように私たちは危害を加えに来たわけではありません。パイモン軍についてはもちろん、あなたたちの事も知りたいと思っているだけなのです」
話を聞くには信用を得てから、それは彼も同じ意見だった。幸いなことに今のところ感触は決して悪くない。もとより信用を得るには時間がかかると心得ている、焦る必要は決してない。
「痛ってててて」
頭から背中まで全てに痛みを感じた。成敗された壮太は、しばらくはダメだと仰向けになって空を見上げた。
暗く黒い空を見ていても飽きるだけなのでパートナーであるミミ・マリー(みみ・まりー)の元に電話をかけた。
といってもコール音すら鳴らない事がほとんどで。ザナドゥはどうも電波が安定しない。当然といえば当然だが、いざ通じないとイライラして堪らない。
「あ! 壮太!! 大丈夫?!!」
奇跡的に電波が良かったようだ。ミミが言った『大丈夫?』は今の彼にかけるにはぴったりの言葉であったが、もちろん状況が分かっているわけではない。
「悪魔に何かされてない?!! 閉じ込められたりしてない?!!」
どんな偏見だ。守護天使であるが故のイメージなのだろうか。彼女はマルドゥークの本隊に居るはずだ、魔族とは接触したくない、ザナドゥにも本当は来たくなかったというので本隊に預けてきたのだ。
「大丈夫だ。いや、大丈夫じゃないが……大丈夫だ」
「えぇ?!! どっちなの?!! 強がりなんていらないんだよ!!」
誰が強がっているか。ま、とにかく壮太は現状を彼女に伝えた。
集落の悪魔と交戦するような事態にはなっていないこと、それほど敵意を向けられているわけではないこと、そしてジバルラたちの同行は不明だが戦いの音だけは既に止んでいる、と。
それらはすぐにマルドゥークに伝えられ、そしてしばらくの後に彼からの返答がミミの口から告げられた。
「すぐ逃げられるように注意しながら、なら、そのまま調べて良し。ジバルラさんは出来れば助けて。だって」
「いや……絶対そんな言い方してないだろ」
「したよ! 言ってたもん! こんな感じだったもん!」
こんな感じって言っちゃってるじゃねぇか。怖がりすぎてオカシくなってるんじゃねぇだろうな。
それでも意図を察することはできた。撤退命令は出ていない、もうしばらくここで調査する事ができそうだ。
集落に入りてから、まだ半刻も過ぎていない、綺麗系のお姉さんともぜんぜん話し足りねぇ。調査をするにしても体は痛くとも、本番はこれからってもんだぜ。そうだろう?
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