リアクション
○ ○ ○ 「鴉発見、迎撃開始っ」 金元 ななな(かねもと・ななな)が麻酔銃を構える。 「迎撃って……。ダメだよ、こんなところで撃ったりしたら。流れ弾で怪我人でちゃうよ」 子猫を抱えたミクル・フレイバディ(みくる・ふれいばでぃ)が、なななの腕を掴んで止めた。 「ミクレイは、この世界が鴉王国になってもいいっていうの!」 「ミ、ミクレイって誰? えっと、鴉王国は困るけどね。とりあえず、この仔をわんにゃん展示場に連れて行ってから、鴉退治を再開しよ? そうだ、その前に、どんぶりに入れないとね?」 ミクルがそう言うと、なななはしぶしぶ銃を収める。 「ええっとすみません、鍋やどんぶり、どこで貸してもらえるかな?」 ミクルはなななを止めるために仕方なく、『シャンバララーメン試食会』や、飲食ができるコーナーに陶器類を借りに向かう。 「お! あれはミクルじゃないか……今日はミクルも来てるんだな」 ミクルに気づいた人物がいた。 友人の緋桜 ケイ(ひおう・けい)だ。 「おー……ぃ」 声を掛けようとしたケイだが、久しぶりということもあり、ただ声をかけるだけじゃつまらないと感じてしまう。 「そうだ!」 そして、思い出したのが先ほど拾った薬。 この薬を飲んで犬に変身した人物がいた。だから犬に変身する薬に違いないとケイは思っていた。 変身して、驚かせてやろう。 わん! と吠えて驚かせた後に、正体をばらして笑うんだと。 そんな悪戯心を持って、ケイは薬を飲んだ……。 …………。 『って、なんじゃこりゃー!!』と、叫んだつもりが、口からでた声は「カァァァァァァァァ!!!」だった……。 「にゃーん、にゃおーん」 「ん? あれ、君も……迷仔かな?」 容器を借りて外に出たミクルに、子猫が近づいてきた。 その子猫の首には、首輪がついている。 「にゃーん、にゃおーん(ミクルさん、お久しぶりですっ)」 子猫――ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は、笑顔でミクルにご挨拶。 ソアはわんにゃん展示場で薬と知らずに変身薬を飲んでしまい、いつの間にか猫に変身していたのだ。 わんにゃん展示場に戻りたいのだけれど、ただでさえ方向音痴なのに、周りの景色が全く違って見えるため、完全に迷子になってしまっていた。 (言葉通じませんー。ま、まあ、とにかく保護してもらわないと……) ソアは心を落ち着かせながら、ミクルの足にすりよって、にゃあにゃあ可愛く鳴いてみる。 ミクルは優しい男の子だから、保護してもらえば、ひとまず安心できる、はず……多分。 「猫鍋、犬鍋……でも、鴉は……うーん」 袋を下げて、銃を構えて何やら呟いている女の子が気になるけどっ。 「ちゃ……いや、にゃんこ鍋ですと!」 女の子――なななの呟きにくるりと振り向いた男がいた。 「そのどんぶり、そして土鍋! 『鍋』と聞いては黙っていられませんね!」 バババッとマイ鍋を持って走り寄って来たのはクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)。 「闇の鍋奉行として勇名を馳せる俺もお手伝いいたしましょう!」 「鍋奉行!? もしや真のわんにゃん鍋を知る男なのでは!?」 「無論、わんことにゃんこ料理にも精通しています故、お任せください!」 「鴉は、鴉はどうしたらいいの!?」 「鴉肉は、鯨肉に近い味だそうで、調理次第では非常に美味に……」 「待って、待って、待って! そこの2人!! 話が変な方向に行ってるよ!? 食べるんじゃないんだよね、鍋とか容器の中に、ワンちゃんや猫ちゃんを入れるだけだよね!? なべ猫だよね!」 ミクルが慌てて2人の間に入って、会話を止める。 「えっ? なべ猫? ……あ、ああ。食べないのですか?」 「食べません!」 「食べないよ!」 ミクルの言葉に、なななも頷くが……。 「鴉は食べてもいいけどね! 猫と犬はもったいないから写真を撮ってからにしないと」 「写真を撮ってからでも、食べないよっ!」 ミクルはなななの言葉を大声で否定する。 「……えーっと、じゃあ、仕切りなおして、こほんっ」 クロセルは咳払いをすると、ポーズを決める。 「お困り事をズバッと解決! ここはお茶の間のヒーローたる俺にお任せください!」 「おおー! お待ちしておりましたヒーロー! 我等と共に、悪を成敗しましょう!!」 なななは目を輝かせて、クロセルの手を握りしめてぶんぶん上下に振った。 「あっはっはっはっ、イタズラ鴉なんて、俺のロングハンドで一網打尽にしてくれますよ!」 クロセルはふんぞり返って高笑い。 「……なんだろう、なんかより任務が困難になった気が……」 ミクルは何故かすごく不安になっていく。 「にゃーん。にゃんにゃん」 そこに可愛らしい声が響く。先ほどの猫だ。 「あ、ごめん。僕のこと、気に入ってくれたのかな。嬉しいな」 言って、ミクルは自分にすりすりしている、ソア猫をひょいっと持ち上げた。 「安全なところまで、送るね」 腕の中の猫の隣に、ソア猫を置いて、一緒に抱きながら歩いていく。 その時――。 「カァ! カー! カァァァー!」 鴉がものすごい勢いで急接近。 「今とっても大事なこと考えてるんだから、邪魔しないで!」 なななが銃を抜き放ち、鴉に銃口を向ける。 「カ、カァ!? カー、カァー」 鴉はなななを避け、ミクルの方へと近づく。 「この仔を狙ってるんだね……。ごめん」 悲しそうな顔で、ミクルは子猫を庇いながら、銃を抜いた。 「カ、カア!?(ちょ、何ですか、その銃は!?)」 鴉――に変身したケイは急上昇すると、ミクルとなななの頭上を旋回。 「猫鍋を妨害する悪しき存在め! 成敗っ!」 なななが麻酔銃を撃つ。 「カァーカー(ちょっと待て、ミクル!?)」 ケイは助けを求めて、ミクルに近づこうとするけれど、ミクルの銃口もケイに向けられたままだ。 「カァァァ? カァーア(気のせいじゃない? こっちに向けてます? み、ミクルさん!)」 バサバサと、ケイはミクルの周りを飛んでアピール。 「にゃー(どなたですか?)」 ミクルの手の中のソア猫がケイ鴉に話しかける。 「カー、カァー(ミクルの友人だ。俺だよ、俺! ミクル!)」 「にゃにゃー(鴉になってしまったの人もいるのですね!)」 ソアはその鴉が、ケイだとは気付かない。気づいていても、ミクルに伝える手段はないのだけど。 「暴れないで。大丈夫、僕が護るから」 にゃあにゃあ騒ぎ出したソア猫達をミクルはぎゅっと抱きしめる。 「この仔達は傷つけさせない。ごめん、少し眠ってて!」 言うと、ミクルは麻酔銃をケイ鴉に向かって撃った。 なななとミクルの放った弾丸は、ケイ鴉の翼を掠め、黒い羽根が舞飛んだ。 「カ、カァーーーーーー!(ミクルの、バカヤロー!!)」 ケイは悲しく鳴くと、空高く飛んでいく。 「逃がしませんよ!」 飛んでいくケイ鴉をクロセルがロッグハンドでキャッチ。 しかし、すぐにケイ鴉はすり抜けようと……。 「逃がしませんって!」 クロセルは行動予測の能力で、逃げ道を予測。雷術を放つ! 「カァー……!」 対抗手段のないケイ鴉は雷に打たれてふらふら落ちてくる。 「捕まえました」 そしてケイ鴉を捕まえたクロセルは、マイどんぶりの中に入れる。 「もう大丈夫だからね。そうだ、キミ達もこれに入ってて」 ミクルはなななが下げている袋の中からどんぶりを取り出して、まずはソア猫をその中にちょこんと入れた。 「にゃー?(これ、ラーメンのどんぶりですよね?)」 ソア猫はふちにちっちゃな手を乗せて、首を軽く傾げる。 「か、可愛い……どうしよう。可愛すぎるっ」 「つ、連れて帰りたいっ」 ミクルと、なななはソア猫の可愛らしさに、しばし任務を忘れて見入ってしまうのだった。 「……こちらはイマイチ可愛くないですね。美味しそうでもないですね」 ぽすっ。 クロセルは目を回したケイ鴉が入ったどんぶりに、蓋をしておく。 「カァー……(ミク……ル……)」 悲しげな声を上げているようだが、知りません! 「にゃー、にゃん、にゃあ(元に戻ったら、鴉さんも、ミクルさんのお友達だと教えてあげませんと。それにしても、いい気もちです……)」 ゆらゆら、わんにゃん展示場に運ばれていくうちに、ソア猫は気持ちよくなって眠ってしまう。 それがまたとても可愛くて。3人はおやつ休憩をとって、喫茶店のテーブルにソアなべ猫と蓋をしたなべ鴉を置いて、しばらく眺めていたという。 ○ ○ ○ 「こ、これはなんとゆーか、素晴らしい兵器なのではっ!」 わんにゃん展示場に捕獲した動物を預けた後、ななな達は鴉討伐を再開していた。 「兵器? 何がだ」 薬瓶を手に、目を輝かせているなななに、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が尋ねる。 「これを井戸や川に流し込めば、わんにゃん王国が築けるじゃない! 戦争の相手国をわんにゃん王国にしちゃえばいいのよ!」 「いや、それができたら、エリュシオン側がシャンバラをわんにゃん王国にしていただろうが」 なななの主張に、ダリルは思わず苦笑。 「わうーん。わんわん」 「ワン」 「ワンワン」 「……か、可愛い。でもルカルカさん達なんだよね」 ミクルは、足下で尻尾を振っている金白色、黒曜色、赤茶色の3匹のハスキー犬達をしゃんがんで撫でかける。 でも、この子犬達は犬ではないのだ。 教導団の先輩であるルカルカ・ルー(るかるか・るー)(金白)とパートナーのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)(黒曜)と夏侯 淵(かこう・えん)(赤茶)が、リーアが作った薬で変身した姿だ。 「ここまでくると変身ではなく変態だと思うが……」 一人、変身をしていないダリルがちっちゃくなったルカルカ達を見下ろしながらつぶやく。 「わうわう(変態は語感が悪いから却下だもん)」 「むむむ……。何喋ってるのか分からないよ、本当に先輩達なの?」 なななは鍋とどんぶりを手に、子犬達に迫る。 「わんわんわう(本当よ。薬で犬になったの)」 「ワン!(6時間で切れるんだぜ)」 「ワワン(意思疎通は、こうすればいい)」 金白のルカ犬、黒曜色のカルキ犬が何やら吠え、赤茶色の淵は地面を足で叩いてモールス信号で意思を伝えていく。 「そ、そっか。3匹ともお腹が空いてるのね! 小さくなれば、1個のお弁当で3人楽しめるもんね!! でも、夕飯はまだっ。仕事を終えてからね!」 「わわーん(ちがーう!)」 「バフッ(駄目だコイツ……)」 「ワーンワン(モールス信号知ってるだろ? ちゃんと勉強してるか!?)」 犬達がなななにつっこみを入れるが、なななは勝手な解釈でお腹が空いているのだと決めつけた。 「……ま、弁当はともかく。作戦通りやってみるか」 ダリルにはモールス信号を理解できていた。 ルカルカ達が立てた作戦は、犬になった自分達の尻尾の毛を切って餌にして、鴉化人間を誘い出そうというものだ。 野生の鴉はともかく。 子猫や子犬を襲っている鴉は動物化に失敗をした、人間達だろうから。 「うん、お願いね。僕も捕まえられるよう頑張るよ」 ミクルの手の中には、用務室で借りたネットがある。 直後に。 「カー、カァー」 広場の方に向かっていく鴉の姿を発見。 「それでは、行くぞ」 ダリルが3匹に空飛ぶ魔法↑↑をかけた。 「わおーん(突撃ー!)」 ルカ犬を先頭に、ハスキー犬の子犬が鴉に突撃していく。 「そ、空飛ぶいぬーーーーーーー!! ディスクに乗ってぇぇぇ! 円盤犬になるべきーーーー!」 なななは歓喜の声を上げながら、応援?している。 |
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