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リアクション
(2)魔鎧保管庫
「ぐはぁっ!!」
そのまま飛んだならばコンクリートの壁に叩きつけられていただろう。それをパートナーのクナイ・アヤシ(くない・あやし)がその胸で受け止め、防いでいた。
「ぅっ…………。大丈夫ですか」
「クナイ。ありがとう」
支えられて立ち上がった清泉 北都(いずみ・ほくと)は右手に痺れを感じた。『黄昏の星輝銃』はグリップだけしか残っていない。ジバルラの『メメント銛』に砕かれてしまったようだ。
「怪力なのは知っていたけどねぇ、こんなにされちゃうと……ショックだねぇ」
「正気を失っているというよりは、何かに憑かれている、といったところでしょうか」
紫銀の魔鎧を装着した直後からジバルラの様子が豹変した。両瞳は紫銀に輝き、纏った魔鎧からは禍々しい魔力を放っている。
「まぁ、魔鎧ですから意志を持っていても不思議ではありませんが。今のところ表立って何かを主張したりといった事は無いようですね」
「思いっきり本人に影響が出てるみたいだけどねぇ」
パイモンはどこにいる! 奴を殺して俺がこの国の王になる! 同じ野望を持つ奴はついて来やがれ!
ジバルラの主張はこうだった。北都はジバルラと行動を共にする機会は多かったが、そんな主張や野望は聞いたことがない。内に秘めていたものか、はたまた魔鎧によってもたらされたもの、なのだろうか。
「どちらにしても、あの状態はよろしくないですよね」
クナイは北都に『パワーブレス』を唱えた。力づくでも止めなければならない。我を忘れて手当たり次第に悪魔兵や契約者たちを攻撃する今のジバルラを放っておくなんて、自分たちには到底できない。
「ぐっ……やはり……あの魔鎧は外した方がよさそうですね……」
火村 加夜(ひむら・かや)が上体を起こして大きく呼吸した。彼女も一つ、カーマインを駄目にされたようだ。
「私たちの事もしっかりと認識した上で攻撃しているようですし。こちらも容赦しませんわ」
「ほぉ、威勢のいいこと言うじゃねぇか」
言ったソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)は「茶化した訳じゃ無ぇよ」とすぐに言葉を次いだ。
「魔鎧を外すって? どうするつもりだ?」
「気を失わせます! そして脱がします!」
「脱がせるって、ははっ、そいつは面白ぇ」
「べっ、別に変な意味で言っているんじゃありません! 確実に彼を元に戻すには、それが一番だと思っただけです」
「あぁいいっていいって、女は大胆な方が可愛げがあって良いと思うぜ、俺は」
「だからそうではなく―――」
「おっと」
ソーマが瞼を鋭く細めた。「おしゃべりはここまでだ」
「!!!」
道を塞いでいた悪魔兵を仕留め終えたのか、それとも二人の背後にある『この部屋の出入り口』が目に入ったのか。どちらであっても状況は何一つ変わりはしない、が。
「ふっ!!」
『紅の魔眼』で魔力を解放。駆け来るジバルラに正面から、ソーマは『アボミネーション』を放った。
畏怖の気を払うためだろう、ジバルラは二度ほど顔を左右に振って速度を落とした。足が遅まっていた間に加夜が懐に飛び込んで『ブリザード』を叩き込んだ。
「まだです、よっ!!」
後方に飛びながらに銃を構えた。狙いは鎧の脚部の隙間、結合部ならば強度は劣る。
鳴り響く銃声、直後に跳音。体前に突き立てられた『メメント銛』の刃と杖が加夜の弾丸を弾いた音だった。
瞬時に加夜の狙いを見極めた事には感服するが、それで「お手上げ」なんて事には、そうはならない。
「むしろ燃えてくるっつーもんだ、なぁ!!」
ソーマが『ファイアストーム』をジバルラにめがけて放つ。強力なスキルだが、これはダメージを狙ったものに在らず、狙いは対象の視界を攪乱することにある。
(負わせた怪我は私が治しますからっ)
事前の謝罪、いや言い訳だろうか。加夜はそう心で呟きながら、大技『神の審判』をジバルラに放った。
広範囲に攻撃が可能なスキル、故にジバルラに逃げ場はない。これで気を失っていてくれれば魔鎧を外して一件落着、だったのだが―――
「……危ない、危険。……油断大敵、強敵多し」
爆煙の中から現れたのはジバルラではなく、彼の前で彼を護った東 朱鷺(あずま・とき)であった。彼女の『叡智の聖霊』が盾となって加夜の『神の審判』から彼を護ったようだ。
「あなた……それ……」
『神の審判』を防がれた事よりも、加夜の瞳を丸くさせたのは朱鷺が身につけている鎧の方だった。
紫銀に輝くその鎧、形こそジバルラのそれよりも丸みが多いように思えるが、彼女が身につけるそれは間違いなく『紫銀の魔鎧』であった。
「……鎧は決して壊させない」
「え?」
「……貴重で稀有な研究対象、どうあれこれらは壊させない!」
「いっ?!」
朱鷺がギロリと瞳を向けた。そこで一人『サイコキネシス』を唱えていた北都とバッチリ目が会って、即座に『聖霊の力』を放ち、これを蹴散らした。
ジバルラの動きを鈍らせようとしたのだろうが、その隙に魔鎧を破壊されたり脱がされる訳にはいかないのだ。
ジバルラが「王になることを掲げた」ように、今の彼女は「未知への研究心と探求心が爆発」している、それが彼女の野心であり願いであるのだから。
「……ジバルラを、鎧を護る」
ジバルラの斜め前に立ち位置を見つけて、朱鷺は彼の護衛についた。おかげでジバルラが『メメント銛』を薙ぐことは無くなるだろうが、代わりに厄介な盾がついてしまった。
「面倒な事になってるわね」
それらの様を遠目に見つめてリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が呟いた。「遠目」なのは彼女が既に室外に居るからである。
「こっちは、あと……6、7……9人かな」
いや、直後にキュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)が一人焼いたので、残る悪魔兵は計8人。
「リカイン!」
「あぁ、はいはい……って、どっち?」
「ん? あぁ…………」
キューは瞬き三つの間に考えてから「回復が先だ」と答えた。
「了解、しばしお待ちよ」
応えるリカインは静かに息を吸って気持ちを切り替える。彼女は『ディーヴァ』名声を得た歌姫、発する声は様々な色と力を持つ。
『激励』は癒しと高揚をキューに与え、続く『咆哮』は悪魔兵たちの意を削ぎ、その身を硬直させる。
「上出来だ!!」
たとえ瞬間的な硬直だとしてもキューはそれを見逃さない。速度もある『雷術』を力の限りに叩き込んでいった。
「いいわよキュー、あと6人!」
「よし! リカイン、もう一度だ!」
「えぇ!」
『咆哮』を放つべく、歌姫が再び息を吸い込んだ時、すぐ後方から、
「あ〜、ちょっと、ちょっと待って」
という声が聞こえた。駆けてきたのは清泉 北都(いずみ・ほくと)だった。それでいて駆け寄り来ても、その速度が全く落ちてはいない。どうやら二人の横を駆け抜けるつもりのようだ。
「ここは任せるけど、それは待って」
『それ』が指すは『咆哮』か。確かにここで発してしまうなら『咆哮』の効果をまともに受けてしまう可能性がある。しかし、
「ちょっと! どうせなら一人くらい倒して行きなさいよ!」
「えぇ〜」
『宮殿用飛行翼』で天井付近まで飛び上がる。なるほどこれなら悪魔兵たちの頭上を一気に飛び抜ける事も可能だろう。
唯一これに反応して『トライデント』で突いてきた悪魔兵に、彼は『サイドワインダー』を繰り出してこれを沈めた。
「これで良いかなぁ」
通路の先で振り向いて言った。「イヤだよ〜」なんて言いながらも、ちゃっかり期待に応えていった。
ジバルラを抑えるのには、どうも時間がかかると踏んだ、故に彼は先に建物外に出て、ジバルラの相棒である巨竜の『ハウル』の元へ向かうのだという。ジバルラと合流されれば更に厄介な事になる、事情を説明した上でこの場から少し離れてもらうよう話すつもりのようだ。
「理にかなっているな」
「えぇ、私たちも早く役割を果たしましょう」
「了解」
集落からの退路を確保するためにも、まずはこの通路、目の前の5人の悪魔兵を蹴散らして道を作っておくこと。キューは再び『雷術』や『氷術』を放ち挑んでゆくのだった。
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