First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
(3)集落東部−1
魔鎧保管庫、その建物から飛び出してきた師王 アスカ(しおう・あすか)は、その身に紫銀の魔鎧を纏っていた。
装着した者の野心や願望を増幅させる効果がある魔鎧。紫銀の魔鎧を装着した直後に彼女が発した言葉は、
「芸術が私を呼んでるわ」だった。
この集落は芸術の宝庫だ。職人たちが作る魔鎧はどれもこれも美しい。どれもまだ眠ったままだというのに生命力溢れる力強い鼓動がひしひしと伝わってくる。なかでも紫銀の魔鎧のデザインは実に彼女好みのそれで、装着する事への迷いはほとんどに生じる事はなかった。
そして今、それらを生み出した職人と同族の悪魔たちが製作したザナドゥのイコンが起動して暴れているという。
「ザナドゥのイコンだなんて、くぅ〜〜〜♪♪♪ 創作意欲が沸いてくるわ〜♪♪♪」
紫銀の魔鎧の効果も相俟って、彼女がイコン『サタナキア』の元へ駆けだしたのは、恐らくは必然、しかし―――
「あれ?」
求めたそれが期待通りのそれかは別問題。
「ん〜〜〜〜〜何か違うなぁ……」
「何がっ…違う……のよっ……」
息も絶え絶えに言ったのはパートナーのオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)だった。
「ていうか……行き先くらい、言ってから行きなさいよ」
目的地も告げずに飛び出したアスカを追ってきたようだ。その顔は初めこそ怒りに満ちていたのだが、すぐに悲しみの涙をその瞳に滲ませた。
「うぅっ……アスカの魔鎧はベルが作るって決めてたのに」
「もう。まだ言ってるの? ちょっとしつこいぞ」
「しつこくないよっ!! 目の前でジバルラちゃんがあんなになったのを見てるのにっ! なんの躊躇もなく着るなんてどうかしてるよっ! 正気の沙汰じゃないよっ!!」
「思い切りの良い取り乱し方ね、それも可愛いぞっ♪」
「嬉しくないよ!! っていうかアスカに言われたくないよっ!!」
可愛いの方ではなく『取り乱している』の方にツッコミだ。……アスカが可愛いのは言うまでもないし……
「それで? モデルは見つかったの? ………………って、聞くまでもないか……」
見上げた先、首が痛くならない程度に見上げた空にその顔はあった。イコン『サタナキア』、機体サイズは『L』、いや『M』だろうか。肢体のパーツはどこか生物的なフォルムをしているようにも見えた。
「ん〜〜〜やっぱり動き、止めちゃおう♪」
「止めるって…………!!! あのイコンを?!!」
創作意欲は沸いてくる、しかし肝心の一挙手一投足が美しくない。だからスケッチブックに向かう前に、モデルの動きをまずは止める。描くのはその後だ。
「行くよっ♪」
「ってまた勝手にっ」
己が欲を満たすべくアスカはイコンの元へ駆け出した。そうして辿り着いたサタナキアの足下には、同じく紫銀の魔鎧を装着した水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)の姿があった。
「急いで! 早くこちらに!!」
名のある刀匠の子孫である彼女の願いは『戦いの余波から職人たちを守ること』。歩む度に家屋を踏み潰しているサタナキアから職人たちを守るべく彼らの誘導を行っているのだ。
サタナキアのパイロットは一体何をしているのか。緋雨が駆けつけた時から今までずっと不安定な歩みを繰り返している―――というより、ただの一度さえもまともに足を踏み出せてはいないのではないかと思わせるような、そんな歩みをしていた。
そしてそんな拙い歩みの内の一歩が、不意に、緋雨の頭上に迫っていた。
「緋雨!!」
踏み潰されれば即死は必死。そんな危機を救ったのはパートナーの天津 麻羅(あまつ・まら)だった。
「っ……ぐっ」
激しい衝打音。『レーザーマインゴージュ』がイコン脚部を殴りつけると、その衝撃で、降り落ちてくる足裏の軌道が大きく逸れた。
緋雨も職人たちも無事だった。しかしその代償は小さくなかった。
「ぐはぁっ」
「麻羅!!」
「騒ぐでない……大丈夫じゃ」
軌道を逸らす程の衝撃。表面だけとはいえ、イコンの頑強な装甲も砕いてみせたが、それは単に麻羅の腕力が成した事でも『レーザーマインゴージュ』の性能がそうさせた事でもない。もちろん要因の一つではあるが何より『正義の鉄槌』を使った事が大きかった。
そして瞬間的に強大な力を生み出すその力は、使用者に大きな反動をもたらす。
「何をしておる、おぬしにはおぬしの成すべき事があるじゃろう」
「……麻羅」
襲ってきた痛みには『命の息吹』を唱えて処置をしている。気休めであれ、何もしないよりはマシだ、それに時間もない。
麻羅は視線を対面に向けた。どうにか捉えた先に、櫛名田 姫神(くしなだ・ひめ)の姿が見えた。一人、気を静めて集中している。事前に打ち合わせていたよりも早くに彼女は『パラダイス・ロスト』を使う気かもしれない。
「まだじゃ…………それは最後の手段じゃというに」
自分たちの力が及ばなかった際に、そして『命の息吹』を使うことが出来る自分が傍にいる事が『パラダイス・ロスト』を使う条件とした。
自分の攻撃が通用しなければ、また何より緋雨に危険が迫るなら姫神は迷わず『パラダイス・ロスト』を使うだろう。そして封印していた力を解き放つと同時に姫神本人は臨死状態となる。
「まだまだ……これからじゃぞっ!!」
簡単には倒れられない、無論諦めるなど以ての外。
紫銀の魔鎧を装着してまで職人たちを守ろうとする緋雨の想いと、自分の身を呈してまで彼女の力になろうとする姫神の覚悟に応える為にも。こんな所で膝をついている場合ではないのだ。
生身でイコンを相手取ることの難しさは承知の上、それをこの身で体感した、それだけの話。
麻羅が『レーザーマインゴージュ』を携えて、また姫神は『対神刀』を手にサタナキアへと挑むのだった。
二人がサタナキアを挟み込むように位置取った頃、その場からは少しと離れた『イコン工房』に彼らの姿はあった。
「間違いない! いやこの俺が間違えることすらあるはずがない、故に間違いなくここにあるはずなのだ!」
とてもややこしい言い回しをしていた。男の名はドクター・ハデス(どくたー・はです)、自称『悪の天才学者』を名乗る地球人である。
「それでもご主人様……じゃなかった、ハデス博士。本当にここにあるのでしょうか」
「ある!! 間違いなくここにある! さもなくば机の残骸がここにあるはずがない!!」
探しているのは『イコン技術に関するものやイコンを攻略するヒントになりうるもの』。ザナドゥのイコン『サタナキア』を作ったこの工房ならばそれらが残されているに違いない、そう、例え建物の大部分が崩落していたとしても、図面や資料の類が残されている可能性は高い、というよりも無い方が不自然だ。
「かしこまりました。それでは作業を再開します」
『ハウスキーパー』のスキルを駆使してヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)が瓦礫を撤去、手がかりになりそうな物を発見次第、ハデスが検証と判断をしてゆく。
サタナキアと戦う者たちへ攻略の手掛かりを伝えるべく、もう一人のパートナー、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)は既にイコンの元へ向かっている。
果たして希望の光となりうるか。時間との戦いがこの場でも繰り広げられていた。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last