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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(前編)

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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(前編)

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〜VS.ユリン その二〜


 圧倒的な力の差とは、こういうことか。
 騎沙良 詩穂はユリンを前に、攻めあぐねていた。
 彼女の予想通り、ユリンは力任せの技を振るうタイプだった。だが、その力とスピードが予想を遥かに超えていたのだ。
「『風靡』は渡せない、テメエは殺す!」
 樹月 刀真は左手に「白の剣」、右手に「黒の剣」を握り、斬りかかった。耳を劈くような音が響き、ユリンの腹部が光った。
 ――何だ? と思ったが、これが玉藻 前の言う、ユリンの弱点かと考えた。ユリンの唯一と言っていいほどの弱点は、曝け出している腹部であるという。だが懐に飛び込むには、ユリンは小さすぎ、刀真は身長がありすぎた。
【百戦錬磨】の経験で、ユリンの視線や構え、肩やつま先の動き、重心移動や呼吸と気配から動きを読み取る。だが、読み取った瞬間には、既にユリンは動き終わっている。
 刀真に出来るのは、ユリンの大剣を受け止めることだけだ。【ウェポンマスタリー】や【金剛力】で強化しているにも関わらず、腕が痺れ、感覚がなくなってくる。ちゃんと柄を握れているかも分からなくなってきた。
 刀真が僅かに身を引いたとき、
「我が一尾より、煉獄がいずる!」
 前が【ヒロイックアサルト】で強化した【ファイアストーム】を放った。さながら巨大な尾のような炎が、ユリンに襲い掛かる。
 ユリンは右足を軸に回転し、炎を弾き返す。飛ばされた炎は周囲の黒装束やセドナたちに降りかかり、雑草を燃やす。詩穂やセルフィーナ・クロスフィールド、シャーロット・モリアーティが、慌てて消火活動を行った。周囲を伐採していたのは、幸いだった。山火事になりかねない。
「これはどうじゃ!?」
 間髪入れずに清風 青白磁が【自在】を放つ。闘気が龍の形を取り、ユリンに襲い掛かる。ユリンはこれも、右手のガントレットで弾き返した。
「くそ……お前は一体、何なんだ!?」
「ユリンだよ?」
 息も切らさず、あっけらかんとユリンは答えた。
「教えろ……なぜ『風靡』をそこまでして狙う!?」
「知らない。パパがいるんだって」
 これまた、あっさりと答える。誤魔化している様子はない。
「本当に、弱点はないの? お腹以外に」
「普通に考えて、あの大きさであの体捌き……長時間動けるとは、思えないのですが」
 詩穂の問いに、セルフィーナは眉を顰めた。
「時間を稼げばいいってこと?」
「保証は出来ません」
「向こうの手数が多いんじゃ。こっちも増やすしかないじゃろう」
 青白磁は再び闘気を練り始めた。
「パパ、パパ、パパ……何でもパパの言いなりってわけか」
「そうだよ? だってパパは偉いんだからね」
「その考え、絶対に間違いだと教えてやる!」
「あはっ。どうやって?」
「こうするのよ!」
 前の【ブリザード】が、ユリンを襲う。ユリンは左の剣を回転させ、盾のようにしてそれを防いだ。
 一方、青白磁の【自在】がユリンの右腕に襲い掛かる。ユリンはそれも、剣で弾く。だがその瞬間、詩穂の抜いた「光明剣クラウソナス」がまばゆい光を放った。目晦ましというほどではない。だが、一瞬、そう、僅かな間だけ、ユリンの気が逸れた。
 そのたった一度の隙を、刀真は見逃さなかった。死角から飛び出し、【神代三剣】を放った。
 三度の斬撃。
 確かな手応えがあった。
 呆然と目を見開き、女が倒れていく。仮面が割れ、肩を大きく斬られ。そしてユリンの右腕と共に、地面へ落ちた。
「しまった――!」
 ユリンとの戦いに集中するあまり、黒装束の動きまで見ていなかった。手出しする様子がなかったから、尚更だ。
「ひどいなあ」
 ユリンは口を尖らせた。「このコたちは、ボクを守るようにパパから言われてたんだよ。手を出すなって言っておいたのに、そんなにあぶなく見えたのかな?」
 右腕から血を流し、それでもユリンは平然としている。
「強がりはやめろ。その腕では、もう戦えまい」
「これ?」
 ユリンは、手首から先のなくなった右腕を持ち上げた。彼女の曝け出された腹部が、再び光る。
 傷口の肉が盛り上り、中心から指が覗いていた。それが徐々に姿を現し、手の平が見え、手首まで生えてくる。血だらけの、真新しい手。
 ユリンは落ちた右手から、剣を無理矢理剥ぎ取った。
「新しい手って、言うことなかなか聞かないよね?」
 みんなもそうだろうと言わんばかりに、ユリンは同意を求める。
 だが、刀真たちは言葉を失っていた。こんな化け物相手に、どう戦えと言うのだ?
「でも、すぐ慣れるからね。そしたら、もっともっと、遊ぼうよ!」
 ユリンは無邪気に笑う。
 それにどう対応したらいいか分からぬ刀真たちの脇を、ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)がゆっくりと通って行った。


〜超獣の欠片〜


 大抵のことは、堂々としていれば疑われないものである。
 ファンドラは戦闘の最中、さも当然と言わんばかりに正面から砦へ入った。まだ、あちこちで契約者と黒装束が戦っていたが、それも無視して、建物へ向かおうとした。
「待て。氏名と所属を述べよ」
 レーザーマインゴーシュを突きつけ、叶 白竜(よう・ぱいろん)が立ちはだかる。挟む込むように、世 羅儀(せい・らぎ)が背後に回った。
「非戦闘員です」
 言うなり、ファンドラは【ヒロイックアサルト】を発動した。空間から武器が現れ、それを手にすると、ぐるりと背後に薙いだ。
「おっと」
 予知していたようで、羅儀はひょいと避ける。
「この最中に、非戦闘員なんて言い訳が通じるとでも?」
 羅儀が手の平をファンドラへ向けた。足元に網状の力場が広がる。ファンドラは咄嗟に、呼び出したハルバードを突き立て、そこから飛び退いた。
「『風靡』を狙いに来たのですか?」
 白竜の問いに、当然ながらファンドラは答えない。
「答えないなら、行くぞおおおおおおおおおお」
 レジナント・アームズを装備した羅儀は、叫びながらファンドラへ向かった。
「私は、戦闘は苦手なのですよ」
 ファンドラは羅儀に背中を向け、逃げ出した。
「待てえええええええええ」
 レジナント・アームズの特性上、声を出し続けなければならない。声を出しながら走るのは、非常に応える。白竜が「追う必要はありません」と言ったこともあり、羅儀は遂に諦めた。膝に手を当て、ぜーぜー息を吐いている。
「どうやら、<漁火の欠片>の持ち主ではなかったようです」
 白竜は<超獣の欠片>の持ち主だ。先達ての作戦会議で、白竜は目当ての人物たちと会った。それぞれの欠片は、呼応するかのように光り、鳴った。最初は柔らかな音だったが、近づいた途端、キイィィィンという耳を劈くような金属音へと変わった。
<漁火の欠片>同士では何も起きなかったが、そこに<超獣の欠片>が加わると、不協和音を起こすらしい。
 つまり、欠片を使うことによって、別の種類の欠片の在り処を見つけることが可能ということだ。
 その作戦会議の際、敵がなぜ「風靡」を狙うのか、心当たりがないかも尋ねてみた。
 ハイナは「一つだけ」と答えた。
 ただしそれも、想像の域を超えないとし、故に今は話せないと付け加えた。
「オーソンに会えたら、それも訊いてみるつもりでありんすよ」

 ――ファンドラが逃亡した頃、建物の階段へ黒装束が殺到していた。