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第13章 新しいお友達〜リュー・リュウ・ラウン〜

「わ……、あれ、何のキャラクターだろう」
「まほう」に乗って無事空京駅に着いた日下部 千尋は、どきどきしながら人混みの中を歩いていた。地球でもよく見る感じの人々の他に、遊園地のマスコットキャラクターっぽい着ぐるみや、2本足で歩くドラゴンや、魔法少女のような可愛らしい衣装を着た女の子等、様々な人、種族が流線系な内装の建物の下で目的地へと向かっている。
 あまり外の世界に触れていない千尋にとって、目の前に広がる光景は新鮮だった。
「ここが、やー兄達が頑張ってる所……パラミタなんだね……」
 今日はやー兄――日下部 社(くさかべ・やしろ)と久しぶりに会える。
(ちーちゃんも……きっと、元気だよね? うん……だって私も元気だもん)
 社が家に帰ってきた時、千尋は彼と一緒だった日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)と沢山遊び、仲良くなった。彼女は千尋とそっくりで、とても明るくて、可愛い帽子をかぶっていた。
「お、無事に着いたみたいやな。ちぃ、こっちやで〜!」
「やー兄、ちーちゃん……」
 駅に迎えに来ていた社と千尋を見つけ、人とぶつからないように気をつけながら2人のところに辿り着く。嬉しそうに、千尋が彼女の手を握る。
「ちぃちゃん久しぶりー♪ 今日はこっちで楽しんでいってねー♪」
「うん……楽しみにしてるよ」
 はにかむように笑顔を見せる千尋に、社はうんうんと頷いた。大人しい彼女は友達と外に遊びに行くこともそんなにない。旅行を通して刺激を与えてあげるのも大事かと思い、今回、小型結界装置をプレゼントしたのだ。
 久しぶりに会う妹には、存分にパラミタを楽しんでもらいたい。友達もたくさん作ってくれれば尚のこと、嬉しかった。
「こっちの世界を観光するっちゅうのもええやろ。ちぃ、今日はいろんな動物に会えるで〜。 新しい友達も出来るとええな♪」
「あ、新しい友達……?」
「そうそう、ちぃちゃんに紹介したいお友達がいっぱいいるんだよ! 鳳明ちゃんとヒラニィちゃん、ピノちゃんとお遊びする約束してるんだー!」

                    ⇔

 街というものは広く、そして狭い。行き止まり、曲がり角、そこで暮らす人達と、建物の数々。人が街に留まり生活する中で、地平線の向こうまで見る機会は多くない。
 街から臨む空は狭く、そして広い。見上げた先にどんな障害物があっても、実際には空は、果てが無い。自然で生まれ、自然に生きる翼を持つ生物達はその空をどこまでも飛ぶことが出来る。だが、人と共に生きることを選んだ場合はその限りではない。
 飛ぶことよりも優先したいこと、それが、往々に生まれることもあるからだ。
 そんな彼ら――主にドラゴン種やワイバーン種が翼を広げる為に、それぞれに交流をする為に作られたのが、このツァンダ郊外にある「リュー・リュウ・ラウン」である。
 長々と書いたが要するに、ドッグランのワイバーンバージョンである。
 竜達だけではない。この広い広い草の原には、区画整理こそされているがパラミタ中の生物達に開放されている。聖獣から名古屋コーチンまで、果ては無い。性格を診断され、安全、温厚と判断されれば、大きな動物でも小さな動物と触れ合える事が出来る。
 リュー・リュウ・ラウンのルール。それは――
『遊びに来たペットを食べてはいけません』
 の1つだけである。

                    ⇔

「あっ、ちーちゃん!」
 主に竜達が集まる区画。ピノ・リージュン(ぴの・りーじゅん)トルネ・スリーウォンズが飼うワイバーンと一緒にいた。
「あれっ、ちーちゃん……ちーちゃん? あれ?」
「ちぃちゃん、ちーちゃんのお友達を紹介するよ♪ この子はピノちゃん! ピノちゃんにもお兄ちゃんがいるんだよー。ちーちゃん達と一緒だね♪」
「……お兄ちゃん?」
「あ、うん。一応いるけど。ちーちゃんって……双子だったの?」
 ここまでそっくりだと、そうとしか思えない。ピノは、驚きながらもはじめましてと声に出そうとして、でもその前に千尋が「ちがうよー!」と言った。
「ピノちゃん、こっちは地球のちーちゃんだよー♪」
「地球の? あ……」
 これまで千尋の出自など気にしたことはなかったけれど、双子じゃなくて、頭に『地球の』がついていて。それで何となく察しがついた。改めて2人を交互に見て、社を見て、もう一度、いつもと変わらない様子の千尋を見て――いきなり、ぎゅっ、と抱きしめた。
「ひゃ? ピノちゃんー?」
 それからぴょんっ、と離れると、ピノは千尋に笑顔を向けた。話をしているうちに千尋は緊張してしまったようで、笑ってもらいたいなと思いながら。
「ピノだよ! よろしくね! あ、あれ? でもこれって呼ぶ時に困るかも……」
「ポイントは『い』やでピノちゃん。『ちぃ』って発音するんや!」
「ち、ちぃ? ちーちゃんと、ちー……ちぃちゃん?」
 そしてピノは社に教わりながら、少しばかり発音の練習をした。

千尋ちゃんに会うの楽しみだなー、可愛い子なんだろうなー!」
 その頃、琳 鳳明(りん・ほうめい)南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)もリュー・リュウ・ラウンに向かっていた。目的地は、もうすぐだ。社達から誘われた2人は、はるばる地球から来た千尋に会いに来たのだ。年上に囲まれて育った鳳明は、千尋が可愛くて仕方がない。
 鳳明の隣を歩くペットの七殺の獅子『とら』から目を離さず、ヒラニィはククク、と後ろから怪しく笑う。
「あの猫科風味なケダモノめ。ドルイドの中のドルイドと呼ばれたわしに懐かんとはいい度胸だっ! 社やチビっこ共の前でわしがヤツより上位に位置することを見せ付けてやろう!」
 この場にとらが居るのには理由がある。
 1人で来る予定だった鳳明に“暇だから”という理由でついてきたヒラニィが、『子供は動物好きじゃね?』と提案したのだ。そして、その裏には先述のようなヒラニィの燃える陰謀があったのだが――ヒラニィが懐かれることはないだろう。多分、ドルイドだから。

「えっ、ちーちゃん、ドルイドなの?」
「動物さん大好きだもん♪ ワイバーンさんもカッコよくて凄いねー!」
 千尋はワイバーンの傍に寄って楽しそうに脚を撫でる。褒められたのが解ったのか、ワイバーンもどこか誇らしげに……見えないこともない。ピノにはまだ、よく解らないけど。
「ドルイド……すごいなあ……」
「あ、鳳明ちゃん!」
 そこで、千尋が彼女達の後方に声を投げかけた。鳳明達が到着したのだ。
「社さん千尋ちゃん、ピノちゃんもこんにちはっ! この子が地球から来たっていう千尋ちゃんだね」
 皆に明るく挨拶して、鳳明は千尋に話しかける。
「初めましてっ、私は琳鳳明。社さんとは……えーと……」
 なんて言えばいいんだろう、と、少し迷う。
(社さんはお友達だけど、846プロの社長で私は所属アイドルってことになってるから……社員? 部下?)
 そう考えた結果。
「……お友達? なんだよ?」
「なんで疑問系やねん!」
 微妙な自己紹介に、すかさず社がツッコミを入れる。そんな彼女達のやりとりを、千尋はじーっと見つめていた。その中で、千尋がとらに嬉しそうに近付いていく。
「わー♪ 鳳明ちゃんも動物さん連れてきたんだね! ねぇねぇ一緒に遊んでもいい?」
「もちろん! って……ヒラニィの言ったことが当たった!?」
 喜んでもらおうと思って連れてきたが、実際に千尋の笑顔を見るとついそんな事を思ってしまう。そうしてボケたりボケたりしているのも束の間、背後が突然光り、直後に現れた気配に鳳明は敏感に反応した。
「……はっ、誰!?」

 その直前、社の家では。
 準備万端整った響 未来(ひびき・みらい)が、わくわくしながら社の召還を待っていた。夏祭りの時、ピノに『今日は(略)オンステージとかやらないの?』と聞かれたので彼女の期待に応えるべく、今回はちゃんと準備して登場することにしたのだ。
「今日は地球の千尋ちゃんも来るそうだから楽しみねっ☆」
 そして、時は訪れた。
「む!? ついにキタわねっ!」

『じゃじゃーん♪ ミクちゃん登場! ミクダヨー! ミクダヨー!』
 ……と、言うつもりだった未来は鳳明とばっちり目があって中途半端な姿勢でぴたりと止まった。頭身低めの顔出しタイプのきぐるみ姿で、何ともいえない迫力をもって千尋達に迫ろうという予定だったのだが――2人は同時に、声を上げた。
「「あ、あれ?」」
「未来さん?」
「鳳明ちゃんが何でここにいるの!?」
「あ、ミクちゃんだー! なんできぐるみ着てるのー?」
「……って、私のドッキリサプライズが不発……」
 気付いた千尋に声を掛けられ、未来はそこでしょんぼりとした。それで事情を理解した鳳明は「……あ、いや」と半ば目を逸らした。両の人差し指を突き合わせながら、早口で言ってみる。
「えーと、ほら私ってば武道家として普段から近づく気配には敏感だし特に背後には気をつけるのが何ていうかエチケット? とかそんな感じだから咄嗟に反応しちゃって……」
 そこまで言って周りを見る。千尋と千尋とピノとヒラニィととらとワイバーンの視線が、鳳明に集まっている。社は後ろで苦笑いをしていた。
 何か、気まずい。
「その、ごめんなさい」

「うふふ♪ ちぃちゃん初めまして♪」
 結果、未来は千尋との対面を、きぐるみのまま普通に果たした。
「やっぱりこっちの千尋ちゃんも可愛いわねっ! 双子って言っても良いんじゃないかしら〜♪ きゃ〜♪」
「あ……ありがとう」
 ――そうして、無事に(?)皆が集まったところで。
「わぁ、この子、大人しいねー♪」
「とらはとっても賢い子なんだよ。それに、自分に不可能はないって思ってるみたい」
 せっかく連れてきたのだし、と、とらを含めた皆で、動物達と遊んでいた。プライドが高いとらは、“仲良く遊ぼう”という飼い主――鳳明の要求に全力で応えようと鼻を膨らませている。さわられたり撫でられたりしてくすぐったくても、変な顔をして我慢していた。
 鳳明以外に懐くことはないが、“仲良く遊ぶ”が現ミッションなので仕方ない。
 そんな彼女達を、千尋は社の後ろから控えめに顔を出して見つめていた。
「ん? ちぃは遊ばんのか?」
「遊びたいけど……でも……ちーちゃん、ピノちゃん……怖くないの?」
「うん、ちぃちゃん大丈夫だよ、すごくいい子だよー♪」
「1回触ったらもう怖くないよ! ほら!」
 ピノが千尋の手を取り、その指先をそっと毛に触れさせる。もふっとした肌触りに、ちょっとリラックスした。そして、先程から「がう」と威嚇されたりしているヒラニィに話しかける。
「ヒラニィちゃんは……よく怖くないね?」
「このケダモノごときが怖いわけなかろう! ほれ、こうして背中にも……」
 逃げられた。(ドルイドだから?)
「背中にも……」
 逃げられた。(ドルイドだから?)
「お手! そうだ、ここにお手だ!」
 そっぽをむかれた。頭をぺしんっ、とされた。
「ぐぬぬ……」
「……ヒラニィちゃんってお笑い芸人さん……?」
「ちがうわっ!」
 その光景を見てきょとんとする千尋にヒラニィはずっこけた。
「……まあいい。わしは寛大だからな。許してやろうっ。当然、お子様の遊びにも全力で応えてやるぞっ!」
 あくまでも上から目線でデカい態度で。
 実年齢5000歳、見た目と精神年齢12歳のヒラニィは元気に言った。
(やー兄もちーちゃんも沢山お友達がいるんだね……羨ましいな……)
 わいわいと盛り上がる皆の中で、千尋は1人、そんな事を考えていた。今日出会った皆は、千尋達を誘って誘われて、集まって。そんなお友達を、私も作りたい。
 彼女は隣にいたピノに、勇気をもって、言ってみる。
「あ、あの……ピ、ピノちゃんっ! よ、よければ……わ、私ともお友達になってくれますか……?」
「お友達? ……うん、あたしとちぃちゃんはお友達だよっ!」

 そして未来と鳳明は、小さな彼女達にメロメロな視線を送っていた。
「千尋ちゃんも千尋ちゃんも可愛いわっ! ピノちゃんやクロエちゃんも纏めて一緒に私の妹にならないかしらねっ!?」
「ええっ! 未来さん何を……! あのっせめてちひろちゃ……社さん未来さん、折り入ってご相談がっ! ……千尋ちゃんをうちにくださいっ!」
「! 真顔やてっ!? うちの妹はやらんでーー!」
「ああっ、頑固オヤジ風っ!?」
 その時、千尋が千尋とピノと手を繋いで、社達のところに駆け寄ってきた。
「やー兄! ちーちゃん達と手繋いでー♪」
「おー、じゃあ俺ら皆で手ぇ繋ぐかー!」
 遊びに来た7人で手を繋いで。広い草原の上を散歩する。
「えへへー♪ こうしてると皆家族みたいだよねー♪」
 社達の真ん中で、千尋は幸せそうな、笑顔を浮かべた。その中で、ふとピノは鳳明に言った。
「あの子、『とら』っていうんだねー」
「そうだよ! かっこいいしかわいいよね」
「うん、だけど……あの子、ライオンだよ?」
「うっ……!」
 確かに獅子だからどちらかと言うとライオンに近い。鳳明は一瞬答えに窮したが――
「猫科だから! 同じ猫科だから!」
 と誤魔化した。