空京

校長室

戦乱の絆 第1回

リアクション公開中!

戦乱の絆 第1回
戦乱の絆 第1回 戦乱の絆 第1回

リアクション

 アイシャへ会いに行こう〜西側・単独〜
 
 
 久多 隆光(くた・たかみつ)童元 洪忠(どうげん・こうちゅう)は「殺気看破」を利用して、無益な戦闘を避けつつ、森の中を進んでいた。
「目撃情報はここだったかな?」
「? 隆光殿、妙です!」
 洪忠は木々の間を指さす。
 木立が見えるだけだ。
「ですが、『殺気看破』が反応していますよ?」
「ああ、俺のもだ」
 と、隆光。
「だが、ここはジャタの森。
 森の魔性でも隠れているのかな?」
 留まったのは、判断を決めかねたため。
 木々の間に、ふわりと影。
 一条の光が放たれる。
「何? 光術だと?」
 サッとかわすと、影は突進してきた。
 少女の形をとり、必死の形相で襲いかかってくる。
 
 こうして彼等は「隠れ身」を解除し、恐怖に脅えきったアイシャと遭遇したのだった。
 
「落ち着いたかい?」
 アイシャは小さく頷いた。
 はた目から見ても、かなり弱っているようだ。
「ごめんなさい!
 会う人会う人、変な方が多かったもので」
 パンツとか、パンツとか、パンツだとか……アイシャは蒼い顔で訴える。
「は? パンツ???」
「ええ。見ず知らずの方から、パンツを差し出すよう言われたの。
 私、とても怖かったわ!」
 その時の恐怖を思い出したのか、アイシャはぶるっと身を震わせた。
「変態ですね」
 洪忠は率直な感想を漏らす。
 自分達は変態でもパンツが目当てでもないことを説明したうえで、西シャンバラに来ないか? と隆光は持ちかけた。
「ここは危ない。
 それに我々はあなたの身柄を保護するよう、西側から通達を受けている」
「西側……ではあなた方も、私の力が目当てなの?」
「力? 俺達は軍人だ。
 そんなものは知らないぜ」
 隆光は肩をすくめる。
「軍人としての務めを果たすこと。
 それがすべてだ」
「務め、ですか。
 では、私が別の場所へ行きたいと言っても、難しいのね……」
 アイシャは寂しく笑って、一礼する。
「助けて頂いたことには、深く感謝するわ」

 気がついた時には、アイシャの姿は消えていた。
 
 ■
 
 支倉 遥(はせくら・はるか)ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)は、森の少し開けた位置でキャンプを構えていた。
 元は古戦場の調査に来ていたのだが、継続したのは目的が増えたため。
「ジャタの森でサバイバル生活か、望むところだな!」
 男前なベアトリクスは、特技を生かして遥を補佐する。
「だが、待つだけでは、アイシャは見つからんぞ?」
「策なく、オレが動くと思うのか? ベアトリクス」
 ふふんと遥はベアトリクスに目を向ける。
「銃声・剣戟の音などを頼りに、ポイントを移動するぜ。
 そこに『アイシャの特徴に合致する人物』がいる確率は、極めて高いと思わね?」
 
 そうして彼女達は、アイシャと遭遇したのだった。
 
「助けて頂いてありがとうございます!」
 キャンプ地で、アイシャはひと息ついた後、遥達に礼を言った。
 噂に伝え聞く以上の美貌で、さすが「吸血鬼」なだけはある。
 警戒心の強さも。
「けれど、どうして私を助けてくれたの?
 あなた方とは、初対面のはず」
「ただ守りたい、それだけだぜ!」
 遥はさらりと言う。
「それに女の子が暴漢共に追われていたら、助けるのは当たり前だ」
「では、特に命令を受けて行動している訳ではないのですね?」
「命令? ああ、一応西側ではあるが……」
 この通り、とキャンプ地を指さす。
「元々別目的でね。
 ただキミも、このままでは危ないだろ?」
「……私がもし……万一、別の場所に……。
 ヴァイシャリーに行きたい! と言ったら?
 その……どうするの?」
「ヴァイシャリーか、今は危ないな」
 眉をひそめる。
 アイシャの希望を叶えてやりたいが、遥は現実的だ。
「騒ぎが落ち着いてからでは駄目なのか?」
「私を心配して下さるのね? 遥。
 それでは、ヴァイシャリーに行った時、代王様にお会い出来ますようお力添えして下されば助かります……」
 あっ! と思った時には、アイシャの姿は森の闇に消えていた。
 
「ヴァイシャリーか。
 美人の頼みとあらば、聞くしかねーだろ?」
 
 ■
 
 リア・レオニス(りあ・れおにす)は空飛ぶ箒で飛び、精霊に聞き、超感覚で臭いや音を頼りにアイシャを捜し出した。
 
「は? これを、私に?」
 アイシャは、リアが寄こしたブルーローズブーケとチョコをそろそろと見る。
 必死で逃げてきた森の中で、このようなものを渡されるとは、思ってもみなかったのだろう。
「でも、どうしてジャタの森へ?
 花を届けるためだけにわざわざ、とは思えないのだけど……?」
「かよわい女の子が国境を越えて逃げてきた!
 理由なんざ、これで十分じゃやねえか!!」
「あ……、ありがとう。
 ありがとうございます!」
 リアのストレートな好意を感じたのだろう。
 アイシャは素直に喜んだ。
 ブルーローズブーケに顔を近づける。
「わあ、いい臭い!
 きれいな、青い薔薇!
 女王様がいらっしゃったら、さぞかしお喜びに……なられたでしょうね……」
 目を伏せる。
 レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)が遠慮がちに肩に手を置く。
「森は危険です。
 共に対策を考えましょう」
 
 リアとレムテネルの意見は2つに割れた。
 リアは東のタシガンと共にある【鋼鉄の獅子】隊に保護を頼むといい。
 レムテネルは西のロイヤルガード名誉隊長率いる教導団を主張する。
 
 アツク議論を交わす2人は、アイシャの動きに気づかない。
『ヴァイシャリーで、またお会いしましょう』
 風に乗って、アイシャの聡明な声が流れてくる。
 ふと見ると、少女の姿は周囲のどこにもなかった。
 枝に、薔薇の花とチョコが置かれてある……。
 
 ■
 
 ローランド・セーレーン(ろーらんど・せーれーん)は、捜索する道々、隠れられそうなところや追っ手を撒けそうなところに目星を付けつつ歩いていて、アイシャを発見した。
「やっ! 見つけてしまったもんは、しょうがない。
 とりあえず、雫の話でも聞いてやってくれないかねぇ? アイシャ」
 
 程なくして水渡 雫(みなと・しずく)がやってきて、アイシャと対面する。
「ああ、よかったです!
 お怪我もなさそうで」
 でもどうして? と言及しかけて、アイシャの持ち物に気がついた。
「このローブ……は?」
「あ、はい。
 親切な方がいらっしゃって……」
 それ以上は口を閉ざす。
 アイシャさんの味方は、私達ばかりではなかったようですね。
 見も知らぬ親切な何者かに感謝しつつ、雫は教導団での保護を勧めた。
「西側なら、エリュシオン戻される心配もないでしょうし。
 アイシャさんが、ひどい目に会うこともないと思いますよ!」
「それは、上の方からの命令なの?」
「いえ、そうではなく」
 雫は頭を振った。
 アイシャに誠意が伝わるよう、考えをまとめる。
「私達は教導団ですが、だからといって西側を盲目的に信じている訳ではありません。
 かといって、エリュシオンという国が信用に足るかどうかも分からない。
 ならば、ごめんなさい! 消極的選択で申し訳ないのですが、『まだ西側の方がまし!』かなって。
 良くわからないけど、必死の思いで逃げ出したのでしょう?」
 雫は本当に一生懸命にアイシャを説得した。
 誰が見たって、演技には見えない真剣さだ。
 とはいえ特技出ない分説得力には欠けるのだが、自分を心配する誠意をアイシャはくみ取ったらしい。
「西側には優しい方が多いのですね、あなたのような……」
 アイシャは頭を振ると、1人立ち去った。
「無事に事が運んだら……。
 ヴァイシャリーでお会いしましょう、雫」
 
 そう告げて。
 
 ■
 
 湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)は、出撃前にアイシャの大まかな位置と進路に関する情報を収集してから、捜索に乗り出した。
「教導団の管理地だぜ? 突っ込んで来るかよ! ふつー。
 エリュシオン? 気に食わねえ。
 先に見つけ出してやるさ!」
 情報を基に、捜索エリアを絞り込む。
 アイシャと接触することに成功した。
 
「こんなものしかないですけど、どーぞ♪」
 高嶋 梓(たかしま・あずさ)はビスケットとペットボトルの紅茶を渡す。
 怪我の確認をする。
 細い両腕と両脚に、掠り傷がある程度だ。
「大したことは、なさそうですわね?」
 ホッとしつつ、ヒールを施す。傷は瞬く間に癒される。
 ありがとうございます、とアイシャは上品に礼を述べた。
「やっと、教導団と連絡がついたぜ」
 無線を指さす。
 アイシャの顔がサッと強張る。
 説明が必要かな?
 亮一はよいしょっと、アイシャの傍に腰かけた。
「エリュシオンから逃げたいんだろ?
 教導団なら安全だ!
 俺達がちゃんと護衛して、安全に送り届けてやる」
「……私をどうして、教導団へ連れて行きたいの?
 ほかの所ではいけないの?」
「他の所じゃ、イコンできた悪漢どもに捕まっちまう!
 俺は追われている、っていうから、助けに来たんだ!
 エリュシオンに戻りたくないのなら、西側で保護されるしかねえだろ?」
 亮一が教導団行きを覆すつもりがないことを、アイシャは悟ったらしい。
「でも、私には行かなければならないところがあるの……」
 残ったビスケットと紅茶を梓に渡して、丁寧に一礼する。
「ご恩は忘れないわ」

 次の瞬間、少女の姿は煙の如く消えた。
 
 ■
 
 湯島 茜(ゆしま・あかね)のパートナー、エミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)は、コミュニティ「『ジャタの森』友の会」に所属している。
 そうした次第で、茜が「アイシャに会いに行こうよ!」 と提言した時、他の者達より労なくして会うことが出来た。
「とはいえ、森のすべてを知り尽くしている訳ではないのでありますが」
 エミリーは友の会で仕入れた知識で、アイシャが立ち寄りそうな場所を案内する。
「まあ、初めての方なら、比較的立ちより易いでありますか。
 開けて明るいでしょうから」
 そうして、森の中の小さな草原地帯で、アイシャを補足した。
 
「私に、アムリアナ女王様のことを?」
 アイシャは純粋に感激した様子だ。
「まあ!
 何と敬虔な学生ですこと!
 シャンバラ国民の鑑だわっ!」
「そ、そそそ、そうかな?
 あははは――っ!」
 女王様としてじゃなくて、知人としてジークリンデの安否を尋ねたかったんだけどな。
 だがこの質問により、アイシャは思いのほか茜の事を気にいったらしい。
 総てをお話することは出来ないのだけれど、と前置きしたうえで。
「私に、何をお尋ねなさりたいのかしら?」
「ええーと、その、エリュシオンでどうしているのかな? って」
「女王様は……その、御健在よ」
「ふーん。
 君はやはり、ジークリンデを知っているんだね?」
「ええ。でも残念ながら、今はそれ以上の事をお話することはできないの」
「そう……まっ、元気なら、いいよね?」
「それと、茜?」
 これは至極真面目に。
「女の子2人だけで、このような危ない所に来るものではないわ。
 道々お気をつけて」
 無事に帰れましたら、ヴァイシャリーでお会いしましょう!
 アイシャは淡い微笑を残し、森の奥へと去って行くのであった。
 
 ■
 
 緋山 政敏(ひやま・まさとし)カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)は、精霊達の動きに注目した。
「女王のような強い力を持つ者であれば、精霊達も気に掛けるに違いないわ!」
 その推測は、実は的外れであったのだが。
 アイシャが非常に疲れ切っていたために、会うことが出来た。
 森の精・ピーで魔法を紡いで、体力を回復させている――その現場に立ち会うことが出来たのだ。
 
「まずは、お近づきの印かな?」
 政敏は慣れない手つきで花を渡した。
 ジャタの森の中で見つけた、小さな花だ。
「まあ!
 でも西の方は、女性に花を渡す習慣でもあるの?」
「いや、でもどうして?」
「先程お会いした方も、いきなり薔薇の花束を渡して下さったので。
 そういう習慣かと。でも、違うのですね?」
 アイシャは、その人に西側の教導団への保護を勧められたのだが、断った旨を伝えた。
「私は、行かなければならない場所があるの。それで……」
「場所? って、どこなんだ?」
「あの、ヴァイシャリーへ……」
「ヴァイシャリーだって!?
 とんでもない!
 今行ったら、あんた! それこそエリュシオンの連中に捕まっちまうぜ!」
 アイシャは、淡く笑う。
 一生懸命な人、そう感じたようだ。
「俺はただ、あんたを助けたいだけなんだ!
 そのためには、何だってしてやるさ!」
 政敏は無線で教導団の保護役に連絡をつける。
「いま、西側に連絡付けたから……て、へ?」
 振り返って見れば、アイシャの姿はない。
 
 ヴァイシャリーでお会いしましょう!
 
 風に乗って、アイシャの言葉が流れてくる。
「不器用な人、そう思われましたかね?」
 カチェアはよしよしと政敏の頭をなでるのだった。
 
 ■
 
 ジョシュア・グリーン(じょしゅあ・ぐりーん)は、比較的楽にアイシャと会うことに成功した。
 西シャンバラ・ロイヤルガードという立場上、情報の量も速さも、他の要員達とは圧倒的に違うためだ。
「望めば手に入る、というのも、この役職の特権だけどね……」
 ふうっと息を吐く。
 人より苦労を背負わねばならぬのも、またロイヤルガードに選ばれた者の宿命だ。
 
「うん、ここにしようよ!」
 そう言ってジョシュアとアイシャ、そしてパートナーの神尾 惣介(かみお・そうすけ)は大樹の大穴の中に身を潜めた。
「とはいえ、まだ先兵達だから。
 そう焦らなくていいかもしれないがな」
 不安そうなアイシャに、惣介は鼻を指すってみせる。
「大丈夫だって!
 俺達は、あんたを助けたいだけさ!
 いざとなったら、おぶってでも逃げてやる」
「ありがとうございます……」
「なあーに、背中に胸とかが当たればもうけもの……って、いでででっ!」
 惣介が最後まで言えなかったのは、ジョシュアが口の端をつまみ上げたから。
 胸元に危険を感じて、アイシャはローブをぎゅっと引き寄せる。
「ところで、あなた達は?」
「ボクは、ジョシュア・グリーン」
 ジョシュアはペコッと頭を下げる
「西シャンバラでロイヤルガードを務めている者だよ」
「ロイヤルガード?」
「あなたを捜している中心的存在、と言った方がいいかな?」
 アイシャは身を屈めて、眉をひそめる。
 あーっ! でもね、とジョシュアは両手を振った。
「捕まえに来たんじゃないよ!
 助けたいだけなんだ! ソースケも話したようにね。
 でもその前に、シャンバラの現状をお知らせしないと……」
「シャンバラ? 西シャンバラの?」
「西も東も、どちらもだよ!」

 そうしてジョシュアは、国が二つに割れてしまっていること。
 安全を探るのなら、エリュシオン側でない西シャンバラの方が良い旨を伝えた。
 
「でもこれより先は、あなたの意志にお任せようかと思って」
「私は、ヴァイシャリーに……」
 小声でつぶやく。
 すまなさそうに目を向ける。
「代王様にお会いせねばならないので……」
「何か、あるようだね?」
 ジョシュアは思い切って尋ねてみることにした。
「ボクは、エリュシオンがアイシャさんを殺そうとしないで、捕まえようとしているのも気になってるんだ。
 何か人には言えない『使命』でもあるのかな?」
「その前に、お尋ねしても?」
 とアイシャ。
「万一、私がヴァイシャリーに辿り着けたら、その時は……代王のセレスティアーナ様とお会いできるよう、協力してくれる?」
「セレスティアーナさん?」
 2人は顔を見合わせる。
「私達に出来ることであれば、協力するけれど?」
「それであなたの使命って、何なのかな?」
「……代王の高根沢 理子(たかねざわ・りこ)様とセレスティアーナ様にお会いして、完全な形で女王様を復活させる事」
「女王? ジークリンデさんを? どうやって?」
「それ以上は……申し訳ありません……」
 言えない、とばかりにアイシャは口を固く閉ざす。
「そのためにはまず、セレスティアーナ様へお目通りする必要があるの」
「では、どうあっても、西シャンバラへは行きたくないと。
 そうおっしゃるんだね?」
 アイシャは申し訳なさそうに頷いた。
 危ないから、と道々の同行も「ご迷惑をおかけするだけでしょうから」と辞退した。

「では、道中お気をつけて」
 大穴から3人は出た所で、分かれた。
 アイシャの姿は、森の闇へと消えて行く――。
 
 ■
 
 走って、走って、走って!
 
 アイシャは、ジャタの森の闇を駆けて行く。
 途中数名の学生に見咎められても気に掛けることはなかった。
「今森の中にいる人々は、西シャンバラの学生さんね?
 悪い人達ではなかったわ!
 仮に捕まったとしても、彼らなら、大丈夫!」
 
 だが、その情報はやがて東側にも否応なしに伝えられる。
 いまアイシャの下へは、西側に遅れ、ようやく捜索地域を絞り込んだ「東シャンバラ」の先兵たちが近づきつつある――。