空京

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戦乱の絆 第1回

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戦乱の絆 第1回
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リアクション

 アイシャへ会いに行こう〜東側・単独〜
 
 
 瑞江 響(みずえ・ひびき)は、東シャンバラ・ロイヤルガードの手助けをしていたがために、アイシャを東側で初めて補足した。
 ロイヤルガードにもたらされる情報は、量も早さも一般学生達の比ではないのだ。
 もっとも西側の学生達と事を構えなかったのは、アイザック・スコット(あいざっく・すこっと)の力によるところが大きいのだが。
 
「で、どうして、エリュシオンから逃げてきたんだ?」
 尋ねたのは、アイザックだ。
「俺様は吸血鬼だぜ。
 同族としては、放ってもおけねぇだろ?
 話してくれねぇか?」
「ヴァイシャリーに行きたくて……」
「ヴァイシャリーだって?」
 意外な地名に、2人は顔を見合わせる。
「代王のセレスティアーナ様にお会いしなければならないので」
「なぜ?」
「代王の高根沢理子様とセレスティアーナ様にお会いできれば、完全な形で女王様を復活させられるので。
 そのためにはまず、セレスティアーナ様にお会いしなければならないの」
「西側の大王からじゃ駄目なのか?
 どう考えても、今東側の代王に会いに行くのは、エリュシオンに『捕まって下さい!』って。言っているようなものだと思うが?」
「ええ、セレスティアーナ様でないと……」
 アイシャは口を閉ざす。
 やれやれと響は頭を振った。
「あまり勧められない行程だが。
 アイシャの意志とあれば仕方ねっか!」
「見逃して下さるの?」
「ああ、だが、1人では危ないだろう?
 俺らも同行するよ」
「それは……ご迷惑をかけてしまいますから」
 消え入りそうな声。
 と同時に、奥へ走り出す。
 あっと、止める間も無い。

『ヴァイシャリーへ行きました折は、お力添えして頂ければ幸いです……』
 その声を最後に、アイシャの気配はなくなった。
 
 ■
 
 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)ララ サーズデイ(らら・さーずでい)共に、ロイヤルガードの命を受けてアイシャを捜していた。
 最新の情報を得て、アイシャの姿を補足する。
「あそこか!
 ララ、行くぞ!」
 特技「追跡」で慎重に行き先を見極める。
 アイシャが捕まるのに、時間はかからなかった。
 
 フラフラのアイシャを岩陰に連れて行き、ララは傷の手当てをしようとする。
 だが、アイシャはローブを引き寄せて、首を振った。
 いきなり傷の手当ては、少々乱暴だったか?
 思い直して、リリはヒール、ララはSPリチャージを行った。
 アイシャの呼吸が楽になる。
「よし、これでもう一度テレポートできるだろう」
「ありがとうございます。
 でもどうして、私を?」
「助けたのか、か?
 提案をしに来たのでな」
「提案?」
 地図の入った篭手型HCを渡した。
 リリが冷静な声音で説明する。
「ヴァイシャリー側は、回り込まれているのだ。
 北へ、イルミンスールへ逃げ込むのだよ。
 大ババ様が力になってくださる」
「大ババ様?」
「イルミンスールの校長のパートナーにして、最強の魔女だ。
 知恵者でもある。悪いようにはしないだろう」
 だがその前に、とリリはガッと腕を掴む。
「傷の手当てをせねばな、ふふふ……」
 しゅんっ。
 アイシャは眉をひそめて、テレポートしてしまった。
 リリは傷を拭うはずだったガーゼを、溜め息まじりにジッパー付きビニール袋にしまった。ララが首を傾げる。
「どうするつもりだったんだ?」
「吸血鬼のアイシャは女王の力を秘めている、のだそうだ。
 ひょっとしたら、女王の血を吸ったのかもしれないのだよ」
 手に入れられればなあ……とリリは残念そうに呟くのであった。
 
 篭手型HCが、2人の足元に置かれてある。

 ■
 
 東シャンバラ・ロイヤルガードの変熊 仮面(へんくま・かめん)は、にゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)と共に、森を白馬にまたがって……は無理なので、徒歩でアイシャを捜していた。
 ここはジャタの森。地上には、むき出しの木の根が絡み合う。
 馬での移動は、とても無理だ。
「それで、どうやって女を見つけるにゃ?」
「ふっふっふ……吸血鬼と言えば、『生血』。
 このパックで……」
 と、こともあろうか、野戦病院からかっぱらってきた輸血パックを取り出す。
「臭いで、誘い出すのだ!
 情報でこの辺りにいるのは分かっておるのだぞ! アイシャ!」
 無線に連絡が入る。
「何? 目の前だと?」
 ロイヤルガードとは、かくも情報の質も量も、迅速に伝わる役職だ。
 そのために、変熊はアイシャと接触できた。
 決して、輸血パックのお陰ではない……。
 
「俺様は、貴様の保護の使命を受けている。
 ……て、にゃんくま! 何をしている!?」
 にゃんくまはアイシャの口元の臭いをかいでいる。
「くんくんくん……こいつ血生臭いにゃ。
 もしかしてあの日…むぐぅ!」
「バカ者!
 貴様は手筈通りに動けばよいのだ!」
 時に貴様、と変熊はアイシャに向き直る。
「腹は減ってないのか?
 森で彷徨っていては腹も空いただろう? ほれ」
 バサッとマントを広げる。
 全裸の変熊の姿がある。
「これでいくらでも『生血』を補給するがいい。
 さあ、マントの中に隠れて!
 安全な所まで逃げて、後は好きにすれば……て、どごわっ!!」
 
 アイシャはピーを集め、最大級にした光術で変熊を星にした。
 テレポートでサッサと逃げる。

「うーむ、女の気持ちとは、分からないものだ」
 空で哲学こいている変熊の下で、囮役から帰って来たにゃんくまが変熊の姿を捜すのであった。
「こらーっ! 吸血鬼女!
 勝手に師匠を『星』にするんじゃないにゃーっ!!」

 ■
 
「はあはあはあ、立て続けに、とんでもない人たちに会っちゃったわ!」
 アイシャは森の中をかけ続けていた。
 立ち止まって、そうだ! と呟く。
「『隠れ身』でも使おうかしら?」

 ■
 
 ……そのような次第で、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)がアイシャに遭遇できたのは、ナナの注意深さによるものだった。
 ナナ達は周囲の物音に注意しつつ、音がする方向からは少し距離を取りつつ歩いていた。無用な戦闘を避けるためだ。
 そうして安全そうな場所で、ズィーベンの「ディクトエビル」が反応する。
「ナナの対話相手の対策用にかけたものだったけど……妙なところで反応するね?」
 そこに、人の気配はない。
「でも、音がしません? ここ」
 ナナはジイッと森の一点を見つめる。
 ふわっと、白い影。
「私に、何か用ですか?」
 眉をひそめて、警戒心もあらわにアイシャが現れた。
 
「大丈夫。
 周りには誰もいないみたいです」
 ナナは『殺気看破』で周囲をザッ洗ったことを告げると、木の根に腰かけた。
 ズィーベンがアイシャの話し相手となっていた。
 彼女はナナの錬気で、既にSPを回復させている。
「……ふうーん、そうだったんだ。
 全裸のマント。それは難儀だったね?」
 とはいえ、全裸のマント男に見覚えのあるズィーベンは、額を押さえる。
 彼は東側のロイヤルガード。
 2人が知らぬはずはない。
「ええ、ですから。
 東シャンバラの学生は危ない方が多いのかと思って。
 警戒していたのよ、ズィーベン」
「なるほど、ところでアイシャさん」
 ナナはアイシャの傍に腰かける。
「私達はあなたを、西側で保護してもらおうと考えています。
 それは、いや?」
「西側? どうして?」

 ナナは情勢を手短に話した。
 エリュシオンが網を巡らしている事。
 東側ではエリュシオンに渡されてしまう事。
 だから、西シャンバラに保護してもらった方が良いこと。
 そのために、西側の捜索者達を探しだす……。
 
「……どうです?」
「お気持ちは、大変ありがたいのですが」
 アイシャは首を振った。
 ふらふらと立ち上がる。体力は回復してない。
「ヴァイシャリー……そこで、お会いしましょう。
 あなた方は女性。
 いつまでもここに居ては危ないわ……」
 気遣いもそこそこに、姿はかき消える。
 気力だけで、テレポートしたようだ。
「アイシャさん!?
 ああまだ、動けるような状態では……っ!」
 
 ナナ達は心配して捜しまわったが、アイシャに会うことはなかった。
 
 ■
 
 クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、駿馬で来ようとしたが、ジャタの森は馬では歩けない。
 仕方なくマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)を連れて、2本の足で散策していた。
「ジャタ族の集落か、ジャタの魔大樹。
 アイシャさんは、そこにいるかもしれませんね?」
「どうしてそう思うのだ? クロセル」
 とマナ。
 彼女はクロセルの頭の上に乗っている。
「エリュシオンから逃げ通しだ、と聞きます。
 体を休めるのならば、そこが最適でしょう」
 マナを見上げて、彼女を落とさないようクロセルは頷く。
 
 果たして、クロセルの推察は的中した。
 
「しかし、魔大樹の近くとは!
 アイシャさんはご存じだったのですか?」
「いえ、たまたま見つけたのよ」
 ただし、近づけば瘴気の渦がある。
「だから行ける所まで来て、体力の回復を図っていたの。
 精霊達の力も強いようだし」
「なるほど、なるほど!」
 マナは妖精スイーツと水筒に入れたお茶を取り出す。
 そしてアイシャに振舞おう……として、逆に振舞われた。
「ふむ、なかなかよい手際だな。
 まるで、メイドのようだっ!」
「ありがとう、マナ」
 アイシャは頬を赤らめて、弱々しく一礼する。
 クロセルに顔を向けた。
「それで、私に尋ねたいことって?」
「アイシャさんの目的ですよ」
 ズズッと茶を啜る。
「闇雲に保護せよ、と言われましても。
 相手の言い分を聞かないことには、始まらないでしょう?
 と思うのですが」
「……利害で、私を探していた訳ではないようね?」
 アイシャはホッと息をついて、クロセルの傍に腰をかけた。
 信用したらしい。
「私は、ヴァイシャリーに行きたいの。
 そこで、代王様にお会いしなければ!」
「何のためにです?」
「完全な形で、女王様を復活させるために。
 そのためにはまず、セレスティアーナ様にお会いしなければならないの」
「ほう、セレスティアーナさんですか……」
「代王様と謁見することは、普通の方でさえ難しいこと。
 でも、私はやらなければならないの!
 あなた方にも、協力して頂ければよいのだけれど……」
「美人が、お困りとあらば。
 致し方ないでしょう! ねえ、マナ」
「うむ、そうだな。
 だがまずは、森の悪漢共達から逃れる術を講じなくてはっ!」
 
 しかし良い案は浮かばず、アイシャがテレポートできる体力を回復したところで、3人は別れた。
 
 ■
 
 馬と言えば――。
 ジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)も、推挙中の東シャンバラ・ロイヤルガードを正式に拝命後、情報を得て馬にてアイシャの保護に向かう予定……だった。
 が、クロセルと同じ理由で、ノストラダムス・大預言書(のすとらだむす・だいよげんしょ)と共に、結局「徒歩で」捜索に発った。
「だが、ロイヤルガードと言う役職は侮れん。
 そして、俺は魔王!
 アイシャの魔王による保護は、もはや定められた運命だ!」
「だが、ジーク!
 自分の予言によると、『アイシャの保護はできない』ぞ?」
「当たり前だ!
 何せ、見つけた俺が、完璧な計画で逃がすのだからな。
 ふははははは――っ!」
 
 ……と言う訳で、ジークフリートは「情報」を基に、アイシャの確保に成功した。
「さあ、大人しく俺と、エリュシオンに同行を願えるか?」
 剣を突きつける。
 アイシャが大人しくしたのは、ノストラダムスが唇に人差し指を当てたから。
 彼等が森の小道に出ると既に野次馬があって、ほとんどが東側の捜索隊達だった。
「ジーク!
 アイシャは唇が真っ青だぞ?
 ルージュ、塗ってもいいか?」
「おお! そうだ、ノス。
 その体たらくでは、徒歩での移動は難しいだろう。
 仕方がないな」
「と言う訳で、塗ってやるぞーっ!」
 ノストラダムスはキュッキュッとアイシャに「SPルージュ」を塗る。
 はた目からは分からぬよう、素早くアイシャにメモを見せた。
『東シャンバラ・ロイヤルガードの立場上、エリュシオンに引き渡すことになるけど。
 引き渡された後、隙を窺いテレポートで逃げて欲しい。
 あと歩いている間に疲れた振りをして、吸精幻夜で血を吸ってね』
 アイシャは驚いていたようだが。
 ありがとう、とアイシャは口の動きだけで礼を告げた。
「ゴミはエコ的に駄目であろう?」
 ノストラダムスは火術で、メモ紙と「SPルージュ」を燃やしてしまった。
 
 ……ジーク達が龍騎士団の下へ辿り着いた時、アイシャの姿はなかった。
「アイシャ?
 そう言えば、テレポートで逃げられてしまったかな」
 彼らのアイシャ捕獲とその誠実な仕事ぶりは、東側の学生達を通して既に龍騎士達には伝わっていたので、ジークフリートらへの咎めはなかった。
 その後彼らの働きにより、「東シャンバラ・ロイヤルガードはエリュシオンに協力的だった」という評価を手に入れることとなる。

 ■
 
 アイシャは、ジャタの森を相変わらず「ヴァイシャリー方面」へ移動していた。
 彼女を見咎める者は、少し前よりも増えてきている。
 東側の生徒達かしら?
 唇に手を当てる。
「東シャンバラの学生さんも、親切な方が多かったかな?」
 脳裏にマントが翻る。
 きゃっと悲鳴を上げた。
「で、でも!
 危ない人もいるみたいね?
 き、気をつけなくちゃっ!」
 
 同じ頃、先兵達の情報から東西のどちらの側にもアイシャに関する十分な捜索情報がもたらされることとなった。
 東側の動きをけん制して、西側の動きが活発になりはじめる。
 森の中では、西側の生徒が多くなる。
 生徒の多さに比例して、アイシャの目撃情報は減少の一途をたどり始めた。
 賢い彼女は異変を察し、「隠れ身」で移動をはじめたらしい。
 だがヴァイシャリー側の出口で龍騎士達に捕獲される前に、彼女の身の安全を確保しなければならない。
 事は一刻を争うのだ!
 
 いま、西側による、大規模なアイシャ捜索劇の幕が上がる――。