空京

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戦乱の絆 第1回

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戦乱の絆 第1回
戦乱の絆 第1回 戦乱の絆 第1回

リアクション


出撃前・東西合同医療活動の提案

天御柱学院整備課のメンバーは、これから出撃するイコンの整備を行っていた。

「今までは武装が固定だったから、
パーソナルデータに合わせたセッティングだけでよかったんだけどな。
最近は追加武装が増えてきたから、
搭乗者の希望する装備のセットやそれを見越したチューンナップをしなきゃなんねえ」
佐野 誠一(さの・せいいち)は、
かといって、鏖殺寺院やエリュシオンに負けることのないよう、
万全の状態で、味方部隊を送り出したいと思う。
パートナーの結城 真奈美(ゆうき・まなみ)も、
誠一とうまく分担して、イコン1機ごとの作業時間を減らす努力をしていた。
「誠一さん、こちらの装備セット、完了しました」
「おう」
(人生のパートナーとして……誠一さんの頑張りが無駄にならないようにしなきゃ)
誠一の横顔を見つめつつ、真奈美はそう思うのだった。

その横で、長谷川 真琴(はせがわ・まこと)
パートナーのクリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)も、
機体整備を行う。
真琴は、同じベータ小隊所属の
神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)橘 瑠架(たちばな・るか)搭乗の
コームラントに、迷彩塗装を施していた。
ベータ小隊は、全員が迷彩塗装を機体に施して、
敵の死角を狙って戦う予定であった。
「思ったより、出撃可能な機体とパイロットが少なかったですね」
「急に100体も敵部隊が現れたんだ。
しかたないさ。
整備科の人間がやらなきゃならないのは、出撃できる機体を一刻も早く用意することだ。
さあ、整備科魂を見せてやろうじゃないか」
真琴に答えるクリスチーナは、あらかじめ小隊ごとの識別帯をつけておき、
少しでも整備が効率化できるようにしていた。
「そうですね。
私自身前線に出て戦うことはないけど、
皆さんが無事に帰還できるように陰で支えることはできます。
できることを全力でやりましょう」

「ベータ小隊は全員分、迷彩塗装が必要なのね。
お姉さんも手伝うわ」
荒井 雅香(あらい・もとか)も、
ベータ小隊の迷彩塗装を手伝う。
「ありがとうございます」
「いいのよ。若い皆ががんばっているんだもの。
全部お姉さんに任せておけば大丈夫だから、ね?」
雅香は、34歳だが、イコンに興味を持ち、
思い切って天御柱学院に入学した学生である。
周りが若い子ばかりなのでお姉さんぶっているものの、
成長の早い10代、20代の学生達に負けないよう、普段から努力を欠かさない。

雅香のパートナーのイワン・ドラグノーフ(いわん・どらぐのーふ)も、
誠一と真奈美を手伝いながら言う。
「装備が増えたからこそ、
これからどんどん整備科の活躍が増えるってことだよな。
天学の技術は敵なしってのを見せつけてやろうぜ!」
「ああ、実戦の中でこそ腕が磨けるってもんだ。
ボロボロのゴーストイコンなんかに負けてたまるかよ!」
「よっしゃ、燃えてきたぜ! ガハハ!」
イワンと誠一も、会話をしてテンションを上げる。

こうして、一同は、分担してイコンの整備を行い、
迅速に出撃準備を完了させた。

そして、整備科メンバーは、パイロット達にエールを送り、
無事を願うのだった。


■東西合同医療活動の提案

 シャンバラ教導団、本校。
「なるほど……合同医療活動、か」
「はい」
 夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)は頷いた。
 彩蓮の上官は、彼女の提出した資料に目を通している。
 彼が、神経質そうな目元に掛かる眼鏡を指で押し上げ、
「東側への根回しは?」
「ヴァイシャリーへパートナーを出向させるつもりです」
「既に向かわせている?」
 彼の問い掛けに彩蓮は微笑んだ。
「はい。――許可頂ければ、すぐに通信にてヴァイシャリーへこちらの意向を伝え、アポイントメントを取ってあげることが」
「団長には、早く決断しないと夜彩少尉のパートナーがヴァイシャリーで侘しい想いをすることになる、と添えておこう」
「助かります」
「冗談だよ」
 そこで上官は一つ間を置いてから、
「まあしかし、さすがに今回は間に合わないかもしれないとしても……急ぐに越したことはない、か」
 言って、立ち上がった。
「君が僕に言った提案は、そのまま伝える。おそらく決定までにそれほど時間も掛かるまい。君は通信科の前で待機してもらっていても構わない」
「よろしくお願いします」
 彩蓮は敬礼を向け、部屋を後にした。
 彼女の提案は東西シャンバラによる合同医療だった。
 現在、シャンバラの各学は様々な立場と考えの下、東西での協力活動は大変難しい状況にある。
 しかし、こと“医療”に関しては別だ。
 人道上の理由から互いの立場を崩さずに協調を行い易い上、エリュシオンやゴーストイコンといった第三者との大規模戦闘が行われる現状、この協調による双方の利は大きい。
 それに――少しでも東西の協力を促せるのは、おそらく、それだけでも意味のあることだった。