空京

校長室

【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ

リアクション公開中!

【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ
【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ 【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ 【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ 【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ 【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ

リアクション

 巨体を誇る悪魔「ザガン」が解放された直後、彼が振り下ろした両拳による砕撃が地を抉り、粉塵を舞い上がらせた。
 この機を木本 和輝(きもと・ともき)は逃さなかった。
「おらっ! パイモン! 来い!!」
「ちょっ―――」
「何だ?!!」
 パイモンと交戦中のアスカグラキエスの包囲網の中へと和輝は勢いよく飛び込むと、
「一度、城まで逃げんだよ」
 と、『則天去私』を駆使して退路をこじ開けようとした。
「お前の目的は復讐じゃなくて、魔族が地上で自由に生きれるようにすることだろ? お前が死んだら、その願いは叶うのか? 叶わねーだろ!」
 包囲網の3人に、『奈落の鉄鎖』を使うオルベールを加えると敵は4人。接近、魔法、そして緊縛。先程は強引に切り抜けたが、どうしたって分が悪い。
「無謀な戦いはすんな! わかったか!!」
パパイモンさんっ!!」
 パパイモン……? おかしな呼称が聞こえてきた。声の主は水引 立夏(みずひき・りっか)パイモンの手を引き、連れ出そうとしたようだが、どうにも顔は湯立ったように赤面している。
「イ……イクッ…………」
 どこにだ。当然、言い間違いなわけで。
「行きましょう! は、早く」
 決死の覚悟で手を取り、そして駆け出した。頬どころか、額やうなじまで真っ赤にしている立夏の様は、今にも愛の告白をしそうにも見えるのだが、さすがに戦場でそれはしない。というより今は出来なかった―――
「どこに連れてく気?」
「あぁぁぁあああっ!!!」
 二人を繋ぐ……いや、二人が繋ぐ手を、追い来たアスカが殴り裂いた。いやこれも正確にはアスカの剣撃を避けるべく、パイモン自ら手を離したに過ぎないのだが。
 再びアスカパイモンの打ち合いが始まってしまった。
「だめっ!! 戦っちゃだめぇ!!」
 このまま地上人と戦い続けたら、かつて魔族をザナドゥに追いやった地上人の思う壺になっちゃう。これ以上パイモンさんが利用されるのは嫌、だから。
 立夏は『妖精の弓』を手に援護に入ろうとしたが、ここにオルベールが立ちはだかった。加えてグラキエスも迫ってきている。
 このままではまた囲まれてしまう。ここにウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が飛び込んできた。
 機械でできたドラゴン『ジェットドラゴン』でアスカパイモンの間に強引に割って入ると、パイモンを抱き寄せて飛び立った。
「なっ!! なんです?!! 一体」
「殺させませんよ、あなただけは」
 将来的な驚異を考えればベリアルの方が明らかに大きい。彼女に対抗するためにも、ここでパイモンに死なれるわけにはいかない。
 『超霊の面』と『悪魔の角』をつけたウィングは同族に見せただろうが、『ジェットドラゴン』を見事に操る様がそれでないとパイモンに気付かせた。
 飛び立つと同時に、パートナーである『旅人の書』 シルスール(たびびとのしょ・しるすーる)が『ジェットドラゴン』の足を掴まえて同乗を果たした。
 機体の降下と共に一時機体を降りたのは『煙幕ファンデーション』を撒くため。グラキエスの足下に放った事で、見事に彼らの視界を奪ってみせた。
 悠々と逃走を成してみせた―――そう思ったのも束の間、加速を始めた『ジェットドラゴン』の前方に、突如、巨大な壁が……いや、巨大な恐竜型ロボット龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)が現れた。
「ガオォォォォォン!!」
 咆哮の直後、そのままパイモンを乗せた『ジェットドラゴン』に噛みついた。
「くっ……」
 ウィングは出力を最大にして抜け出そうとしたが、巨大な牙に機体を貫かれていては、それも叶わない。
 機体が大きく揺れる中、パイモンシルスールが脱出、最後にウィングが飛び出した。
「ここだっ!!」
 猛進してくるもう一機の『ジェットドラゴン』、そこから飛び出した紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が、
「はぁあああっ!!」
 大きくも鋭い龍鱗『ティアマトの鱗』でパイモンに斬りかかる。
 龍鱗は二枚、相手は双剣。手数は同じ、唯斗の舞撃はどれもパイモンの双剣に受けられているが、唯斗たちの狙いは別にある。
ユイト! 離れろ!!」
 追撃はコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)、『フレイムブースター(ジェットドラゴン)』の口部から火炎を吐きつけた。
 パイモンは身を守るべく双剣を体前で組んで炎を受けた。二人の連撃は防がれた。しかし、防がれたことに意味がある。
「なっ……」
「いまごろ気付いても遅い!!」
 『絶零斬』により冷気を纏った龍鱗、そしてそれを受けた直後の火炎放射。超温度差による攻撃を受けた事で双剣の強度は著しく下がる。
「ガオォォン! ゴァアォォォォォン!!」
 再びにドラゴランダーが咆哮をあげる。魔族の言葉が分かるパイモンならば理解できたであろう。『「長き戦いにここで終止符を打つ! 行くぞ、龍心合体! ドラゴハーティオン!』
 身長20m強のドラゴランダーハーティオンが身に纏う。そうして繰り出した一撃は、『勇心剣(十嬢侍の朴刀)』による『一文字切り(煉獄斬)』。
 合体から斬撃までを繋げたのは唯斗の功績。いや、正確には彼が纏っているプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)の功績か。
 『空中戦闘』や『歴戦の防御術』はもちろん、ドラゴハーティオンが最後の一撃を放つまでの間に、繰り出した『龍飛翔突』でパイモンに双剣を組ませた事が大きかった。
 パイモンが『迅雷斬』を放つより先に、ドラゴハーティオンの剣撃が双剣に達し、そして見事に双剣を砕いてみせた。
「なっ!!!」
 双剣を砕かれ動揺した一瞬に、唯斗が『龍飛翔突』を脳天に叩き込んだ。受け身もとれずにパイモンは頭から地面に衝突した。
 土埃が舞う中、顔を上げるパイモンの前にセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)が仁王立ちをして見下ろした。
「さてパイモンさん、あなたの武器は壊れてしまいましたね」
 右手にはまだ柄を握っているが、剣身は折れてしまっている。打突程度ならば使えない事もないが、戦術は大きく限定される。
「大人しくするなら良し、ですがまだやると仰るのなら―――」
 そう言ってセシルは両拳をガンッとカチ合わせた。
「私が相手になりますわ。もちろん、拳と拳の勝負です」
「…………………………」
「…………………………また始まったか」
 二つ目はパイモンではなく、パートナーのグラハム・エイブラムス(ぐらはむ・えいぶらむす)の溜息付きである。
「あぁ悪いな、旦那が強くて面白そうな奴だからワクワクしちまってんだ。喧嘩して殴り合うことが最上のコミュニケーションだなんて思ってる馬鹿な奴なんだ」
「ぬあーっ!! んてことを言ってくれているのですかな? 人のことを馬鹿呼ばわりする馬鹿は本当に馬鹿な人なのだと私は思いますよ」
 馬鹿が一つ多いだろうが、この馬鹿野郎。と心の中で毒づいたのには理由がある。パイモンとやり合うっつーからセシルに装着してやろうと思ったのに、あの馬鹿は断りやがった。この強敵相手に一人で、しかも拳でやり合おうなんて無茶にも程がある。それでも、
「まあ、セシルらしいと言えばそれまでなんだがな」
 一度言い出したら聞かないだろうし。信じて見守るとしよう。グラハムがそんな風に心中の整理をし終えた頃、
「構いませんよ。大人しく捕まりましょう」
「はい?」
 グラハムは耳を疑った。
 何だ? 今……パイモンはなんて言った? 大人しく捕まる? 誰が? ザナドゥを率いる魔王パイモンが?
「ええと…………良いのか?」
「なぜあなたが狼狽えるのです? そうしたかったのでしょう?」
「んまあ、良いんなら別に良いんだけどよ」
 戦う気まんまんだったセシルはどうも呆けてしまっていたが、グラハムは魔王の背後に回って両腕を締め引いた。
 あっけない。あまりにもあっけない魔王の最期に拍子抜けをして―――
最期じゃないでしょ、縁起でもない」
 アウリンノール・イエスイ(あうりんのーる・いえすい)は、そっと、実に自然にグラハムに歩み寄り、そして目を光らせた。
 パートナーのアプトム・ネルドリック(あぷとむ・ねるどりっく)も意図を同じく、警戒しながらに契約者たちを見回した。
 間違ってもここでパイモンを殺させるわけにはいかない。比較的誰でも近づける状況だからこそ、彼の殺害を狙う者にとっては絶好の機会だ。
 ザナドゥとシャンバラの仲を裂こうと考える者たちにとって一番効果的なのは、おそらくパイモンを殺害してしまうこと。この戦争がどういう形で収束するにせよ、パイモンが死ねば、間違いなく四魔将の逆鱗に触れる。次代の魔族のリーダーになるであろう者との火種を今ここで作るわけにはいかない。
 なにより今のパイモンは無抵抗なのだ。あっさり投降したのも、単に武器を壊されたからではなく、自分が包囲されているという現状と、包囲している者たちの実力を計った上で冷静に判断したのであろう。力を使うのは今ではない、と。
 まだ何か企みを秘めているかもしれない。結果、彼を封魔壺に封印することになるかも分からない。しかし、何にせよ、ここで彼を失うわけにはいかない。
「あら? 終わってしまいました?」
 到着した火村 加夜(ひむら・かや)は空の封魔壺を手にしていたが、
「えぇ、この通り。抵抗はしないみたい」
 ここで封印しておいた方が良いかしら? その方が連行しやすいし、実は安全だったりする。
「……………………どうかしら」
 時間にすれば僅か、しかしアウリンノールは熟考して、「いえ、やはりこのまま連行しましょう」と結論づけた。
 彼を「封印した」という事実が今後の交渉に影響を与えてはならない。
 まずはマルドゥークの元へ。最終的にはイナンナの元へと送ることになるだろう。
 警護をしながら連行する、今はそれが最善だろう。